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韓国は、日本打倒に燃えている。研究分野も同じことだ。だが、それは建前上で、4人に1人が博士号取得後の生活不安を訴えているという。このため、貴重な頭脳が海外へ流出しており、「日本を追い越す」という目標達成は困難であろう。

 

韓国は、世界でも有数の学歴偏重社会である。中でも、「博士号」の価値は大きいが、肝心の職場が足りないという博士需給のミスマッチが起こっている。次のような「もったいない」話も報じられている。

 

ソウルのある大学で生物化学の博士号を取得したAさん(40)は、科学技術情報通信部の生物学研究情報センターが優れた論文を書いた研究者に贈る「韓国を輝かせた人物」賞にも選ばれた有能な科学者だった。しかし、Aさんは2017年、「自営業に転職する」という言葉を残し、科学界を去った。ある研究機関でポストドクター(博士研究員)として勤務していた当時の給与は月200万ウォン(約188000円)余り。生活苦に直面していたAさんは「科学界のことは振り返りたくもない」と話した。元同僚たちはAさんが今何をしているのか知らない(『朝鮮日報』1月5日付)

 

ポスドクの月給が、約19万円弱では生活できるはずがない。これでは、転職せざるを得ないだろう。学歴社会を売にしている韓国にしては、フォローが足りなすぎる。

 

『朝鮮日報』(1月5日付)は、「4人に1人は生活苦、韓国を離れるポストドクターたち」と題する記事を掲載した。

 

(1)「科学研究の現場で主軸となるべき新人博士研究者が今、韓国を後にしている。韓国科学技術企画評価院の調査によれば、年間に輩出される5600人余りの理工系博士のうち、28.5%(約1600人)が外国行きを希望しているという。実に3.5人に1人だ。韓国基礎研究連合会の試算でも、新人博士の4人に1人が海外に出ているのが実情だという。韓国政府は関連統計すらまとめていない」

 

韓国で現在重要なのは、研究を遂行する人材、特に研究者として最も生産性が高いポストドクターの確保だという。韓国の理工系の新人博士は相当数が最初の10年の大半を海外で過ごしてきた。梨花女子大のチャ・ソンシン教授は、「韓国の科学界は全盛期の選手を放出し、ピークを過ぎた後で呼び戻すスポーツチーム、あるいは兵長の代わりに訓練兵で戦う部隊のようなものだ」と話した。大学で研究できれば理想型だが、日本のように企業の研究所で研究実績を上げて、ノーベル賞を受賞したケースが3人いる。韓国では、企業研究所は充実していないのだ。

 

サムスンでは自社技術の育成よりも、必要な技術は「外部から導入する」が基本になっている。サムスンがこの調子であるから、他社は推して知るべしであろう。技術開発を手軽に考えている証拠だ。

 

(2)「ポストドクターがなぜ重要かは、ノーベル賞を受賞した研究室の人員構成を見れば分かる。2010年に英マンチェスター大学のアンドレ・ガイム教授とコンスタンチン・ノボセロフ教授は「夢の新素材」グラフェンを黒鉛から分離した功績でノーベル物理学賞を受賞した。2人の研究室には当時8人のポストドクターがいた。その下に博士課程の大学院生8人を布陣していた」

 

大学の基礎研究では、教授(指揮官)→ポスドク(兵長)→大学院生(訓練兵)の3段階で一つの研究チームができあがる。ポスドクは、研究室では中核になって働く。このポスドクが経済的理由で流出すれば、指揮官が訓練兵を使って戦うようなもの。「敗北」は必至という構図である。

 


(3)「韓国の研究現場にポストドクターがいないのは、劣悪な処遇が彼らを研究室の外、そして海外に追いやっているからだ。テキサス大のポストドクター出身のYさんは「同じ専攻のポストドクターでも米国は韓国に比べ、給与が23倍高い」と指摘する。米国ではポストドクターは教授個人ではなく、大学や傘下の研究所が直接雇用する。1年目のポストドクターの年収は最低5万ドル(約548万円)を上回る。研究期間を号俸のように計算し、給与も上がる仕組みだ。ドイツは6年間の雇用保障に加え、子どもが生まれれば、期間が2年ずつ延長される。長期研究に没頭できるように保障しているのだ

 

ポスドクを経済面でも大事に扱うかどうか。その国の文化を表わしている。米国では教授個人が採用するのでなく、大学や研究所が雇用するスタイルである。

 

(4)「韓国は制度的な下支えどころか、(ポスドクについて)雇用・給与に関する明確な規定すらない。韓国では教授が個人的にポストドクターを採用するため、教授によって待遇がまちまちだ。ポストドクターは大学院生でも教授でもない不安定な身分にすぎない。研究文化もポストドクターの海外流出を促している。韓国では510年をかけた長期研究がほとんどない。たとえそういう研究があったとしても、1年単位で課題達成率が100%に達しなければ不利益を受ける。挑戦的な研究ができない構造になっている

 

韓国では、ポスドクの身分が不安定である。教授でもなく大学院生でもない、宙ぶらりんの位置だ。これでは、海外へ流出して当然である。もう一つ、韓国には5~10年という長期間の研究テーマがない。韓国から自然科学系ノーベル賞受賞者が出ない理由はここにもある。韓国が、研究で日本に追いつくことなど不可能である。