a0003_ki_0012_m
   

韓国の朴槿恵前大統領への贈賄罪などに問われた、サムスン電子副会長の李在鎔被告(51)の差し戻し審が昨年10月、ソウル高裁で始まった。大法院(最高裁)は8月、李被告を懲役2年6月(執行猶予4年)とした二審判決を破棄したからだ。差し戻し審では、量刑が重くなるとの見方が一般的である。だが、文在寅大統領は就任以来4回も李被告と面会している。また、サムスンを称える演説もしている。これは、高裁に向けて「執行猶予をつけろ」というメッセージとみるべきだ。

 

大法院は一昨年10月、徴用工賠償問題で日本企業へ支払い判決を出した。文大統領は、この2ヶ月前に徴用工問題が人権問題であり、時効はないと演説したのである。大法院に対して、「日本企業への賠償判決を出せ」というメッセージであったのだ。韓国では、大統領が絶対的権力者である。皇帝である。その意に背いた判決は出しにくいのだ。

 

こういう韓国特有の権力関係から言えば現在、進行中の差し戻し審はきわめて興味深いのである。私には、執行猶予をつける準備が進んでいるように思えるのだ。

 


『日本経済新聞 電子版』(1月24日付)は、「サムスントップ悩ます『異色』判事、仰天発言の真意」と題する記事を掲載した。

 

韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領への贈賄の罪に問われたサムスン電子トップの李在鎔)被告の差し戻し審で、ソウル高裁の判事が李被告に投げかけた発言が波紋を広げている。

(1)「ソウル高裁で開かれた差し戻し審の初公判で、鄭晙永(チョン・ジュンヨン)部長判事は「サムスンに総帥も恐れる監視制度があったなら、こんな犯罪は考えもしなかったはずだ。米大企業の順法監視制度を参考にしてほしい」と李被告にこんな注文をつけ、さらにこう続けた。「審理が進む間も総帥としてやるべき仕事をしてほしい。1993年、51歳だった李健熙(イ・ゴンヒ=李被告の父)総帥はフランクフルトで新経営を宣言して危機を克服した。2019年、同じ51歳になった李在鎔総帥の宣言は何か」。鄭判事が引き合いに出したのは「フランクフルト宣言」と呼ばれる、李会長が93年に幹部をフランクフルトに集めてぶった演説だ」

 

李健熙氏が、かつてドイツ・フランクフルトに役員を集めて、製造業として当然の「品質第一宣言」を行い、社風を一変させた有名な話だ。裁判長は、李副会長に向かって社風一変の策を聞いたのである。

 

(2)「鄭判事の発言は、李被告に経営者として会社を変える覚悟があるのかを問うた格好だ。鄭判事は126日の第3回公判ではこう尋ねた。「被告人は(大統領からの)拒絶できない要求に応えたと主張する。ならば今後、権力者から同じ要求を受けたら同じように応えるのか。どうしたら防止できるのか。次の期日までに意見を出してほしい」。判事の問いかけに、李被告はさぞかし戸惑ったはずだ。だが、判事の求めに応えないわけにはいかない。サムスン側は回答を用意した」

 

裁判長は李被告に対して、時の大統領から要求を受けても、それを敢然と断る「防衛策」を聞いている。この辺りに、すでに「執行猶予づき判決」を予想させるものがある。

 


(3)「20年の仕事始めの12日、李被告は社内向けのスピーチで社員に語りかけた。「誤った慣行と思考は果敢に廃し、新しい未来を切り開こう」。サムスンは「順法監視委員会」を設置することも決めた。弁護士や検事出身者、大学教授ら7人で構成し、系列会社も含むグループの法令違反を調査する。委員長に就任した金知衡(キム・ジヒョン)元大法院(最高裁)判事は9日に記者会見し、「サムスン側の介入を完全に排除し、倫理経営の番人役を果たす」と語った」

 

サムスンは、「順法監視委員会」を設置することも決めたのである。第三者の独立委員会にサムスングループ全体の法令違反を調査させる権限を持たせるという。自浄作用を果たす委員会だ。

 

(4)「1月17日の4回目公判。サムスン側の弁護士は同委の概要と設置の狙いを説明した。鄭判事は「サムスンによる国民との約束だが、守られるか疑問を抱く人もいるだろう。厳しく徹底的に点検する必要がある」と述べ、独立した第三者の専門家を専門審理委員に指名し、点検するしくみを提案した。黒いスーツに濃いグレーのネクタイ姿の李被告は発言せず、緊張の面持ちでじっと耳を傾けていた。公判でのやりとりは、起きた事実に照らして量刑を判断する一般的な裁判とはずいぶん違ってみえる」

 

下線部分は、「出来レース」である。裁判所が、「介入」する必要があるだろうかと疑問を持たせるほどだ。裁判所がここまで踏込んでくれば、「贈賄再犯」の恐れはかなり軽減されるはず。つまり、李被告に「執行猶予」をつける条件はすべて整ってきたと言えよう。後は、どういう判決になるのかを待つだけだ。

 

李被告には、なぜ「執行猶予」が必要なのか。サムスンは、韓国経済を支える「一本柱」である。このサムスンのトップを収監したならば、韓国経済は漂流せざるをえないほど弱体化している。「反企業主義」の文大統領といえども、この程度のことは分かっているはずだ。韓国社会全体が「執行猶予づき判決」を納得するには、「贈賄再犯」を防止するシステムをつくることが先決と見ているのだろう。