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中国は、新型ウイルスで苦境に立っているだけではない。米国との関係が悪化している。米国は、中国の世界覇権奪回論を見過ごすことはなかった。中国が、これを諦めるまで追い込む姿勢を見せている。米中貿易戦争はその一環である。中国ファーウェイ(華為技術)への製品・技術輸出禁止措置は、この延長線にある。

 

武漢の新型ウイルスは、先進国に見られない野生動物を食用することが原因である。さらに、言論統制していることによる矛楯が、感染者を増やしている。今回の事件で、中国の抱える構造的な脆弱性が浮かび上がっている。

 

米国が、中国を完全に「デカップリング」(切り離し)すれば、中国は生きる術を失う。世界一の巨大マーケットである米国市場から切り離されるほかに、技術導入先を失う点で死活問題になってくる。中国が米中貿易戦争「第一段合意」で、米国の要求を100%受入れたのは、米国に捨てられることの恐ろしさを知っているからだ。

 

中国が、ここまで追い詰められた背景には、民族主義をぎらつかせた軽率さにある。戦前の日本が、新興国特有の傲慢さで米国へ対抗したのと全く同じ構図が出現した。今回の新型インフルエンザ発症は、2003年のSARS発症と同じ誤りの繰り返しである。中国の抱える根本的な脆弱性は、専制主義そのものにある。これを放棄しない限り、未来は開けないことを予感させている。

 


『中央日報』(1月28日付)は、「米中デカップリングなら新冷戦、中国が期待するのは韓日中FTA」と題する記事を掲載した。

 

中国人民大国際関係学院の金燦栄副院長は中国国内で屈指の対米戦略専門家として知られる。昨年6月の上海講演で、米国の圧力に対抗する中国の戦略カード7枚と戦術カード18枚を挙げて注目を引いた。今月8日、金教授の研究室で米中覇権競争時代を解決する中国の内心を尋ねた。以下は金副院長との一問一答。

(1)「中米関係が完全に新しい段階に進入したと見なければいけない。中国は変わっていないが、米国の考えが変わって起きた状況だ。転換点は2015年だった。以前まではクリントン政権の介入政策が米国の対中政策を支配した。ブッシュ政権、オバマ政権ともに介入政策を継承した。それが2015年から変わった。米国は介入政策にもかかわらず期待したように中国が民主化されなかったと考えた。国際的にも中国が米国に投降しないと判断した。米ジョンズ・ホプキンス大学のデビッド・ランプトン教授の『米中関係が臨界点に到達した』という主張が出てきたのが2015年だ。米国は失望し、失望は新しい政策を呼んだ」

金燦栄副院長は、冷静に米中関係を分析している。米国は、中国が自由主義的な国家にならず、米国と対抗する道を選んでいることを認識した。2015年のことである。米国は、中国を「デカップリング」して、安全を図る道を選んだ。金氏はこう分析している。

 

(2)「2017年末から2018初めにかけて米国の考えが整理された。過去の米国は自国の3大脅威にテロリズム、ならず者国家、大国競争を挙げた。この順序が変わった。大国競争が最も危険で、続いてならず者国家、テロリズムとなった。大国競争の対象は中国とロシアだ。ロシアは経済が弱いため、米国は中国を長期的な唯一のライバルを見なした。米中関係の長期的な見通しは良くない。1979年の中米国交正常化以降40年近く、両国は50対50の協力と競争の関係を見せた。しかし今後の基本傾向は競争であり、ますます危険になっている。米国の一部の右翼極端勢力が中国との『デカップリング』を望む。その場合、両国関係は全面的な新冷戦に向かう。決して望ましくない結果だ。とはいえ、そのような可能性があるのが問題だ」

 

デカップリングは、共和党だけの選択でない。民主党は、専制主義を拒否する立場から、中国へ強い反感を持っている。米国は、党派を超えて冷戦の道へ進んでいるのだ。中国は、新興国特有の傲慢さと無鉄砲さで、軽々に世界覇権論を口にしている。だが、米国市場からデカップリングされる中国は、輸出市場を失い経済が縮小均衡を辿るほかない。米国にとっては、安全保障で災いをもたらす国は、早く「消えて」貰った方が好都合なのだ。

 


(3)「中国の米国に対する態度にまだ変化はない。習近平国家主席はトランプ大統領にいつも話している。『中米関係には1000種類の良くなる理由がある。悪くなる理由は一つもない』と。中国の短期対応戦略はまず貿易戦争を一段落させることだ。貿易戦争の休戦を通じて国内経済を安定させなければいけない。中国国内の経済状況は良いわけではない。長期的には時間を稼いで技術を発展させることだ」

 

中国は、経済安定のために米国へさらに譲歩する用意があると言う。「米中第2段合意」を示唆している。現在の中国は、信用危機に見舞われており、これ以上「戦う」余裕がなくなっている。すべては、習氏の民族主義が招いた危機である。

 

(4)「現在、半導体チップ、ソフトウェアともに米国に依存している。したがって今後、中国は米国の激しい圧力を避けるために一部を米国に譲歩する措置を取るだろう。また、周辺国には開放を拡大し、これらの国の同情と協力を共に得る戦略を追求する計画だ。昨年、中国の小売市場は41兆元を超えた。中国の購買力が米国を超え、世界最大になったことを意味する。中国の友人にはチャンスだ」

一方で、中国マーケットの魅力を訴えている。ただ、中長期的に見れば、中国の人口減と「中所得国のワナ」でどこまで発展できるか未知数である。中国は、米国へ「喧嘩」を売るのが早すぎた。喧嘩の準備もできないうちに口外してしまい、米国の奇襲攻撃を受けている。愚かな姿に見えるのだ。



(4)「中国の対米反撃カードは多い。米国との戦略的協力を縮小したり、中国が保有する米国国債を売ったりと、戦略的で戦術的なカードが少なくない。ただ、使う考えがないだけだ。中国は現在、自国を発展させることで米国の圧力に対抗しようと考えている。参考に昨年の中日韓のGDPを合わせると22兆ドル(中国15兆ドル、日本5兆ドル、韓国2兆ドル)だ。米国の21兆ドルより多い。韓日中FTAが実現すれば米国を恐れなくなるだろう」

 

下線の米国債売却論は、中国の取り得る数少ない「反撃カード」とされている。本欄では時々、この問題を取り上げてきたが無益である。米国は、大きな金融市場であるから、簡単に消化できる能力を持っている。その時、米国は「倍返し」で中国経済虐めに出るだろう。

 

結局、中国は日韓を頼って「日中韓FTA」で、市場を確保する戦術に出たいようだ。だが、中国は、日韓に照準を合わせた中距離弾道ミサイルを据え付けている。中国は、山東省に新型中距離弾道ミサイル(IRBM)「東風(DF)-26」を配備したことが分かった。このミサイルは、韓国と日本を射程距離内に収めている。『中央日報』(1月25日付)が伝えたもの。

 

日韓が、こういう潜在的敵国の中国とFTA(自由貿易協定)を結ぶほど、お人好しに見えるのだろうか。日韓は、山東省の新型中距離弾道ミサイル撤去を要求すべきだ。こうなると、攻守ところを変える。