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中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるべく、企業に休業延長を命令している。中国が、世界の工場として部品供給の役割を担っている以上、操業ストップの影響が世界中に広がる危険性が高まってきた。

 

東日本大震災でも、世界への部品供給がストップして大きな影響を与えた。今回の新型コロナウイルスによる生産ストップはその比でなく、世界経済の成長率に影響を与える事態が予想され始めた。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月3日付)は、「新型ウイルス禍、世界の製造業に供給懸念」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国の新型コロナウイルス感染拡大で工場の閉鎖が増えている。世界の産業サプライチェーン(供給網)への影響は何年も尾を引く可能性がある。重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した2003年に比べ、世界の商品輸出に占める中国のシェアは今や倍余りに拡大している。広東省の18年輸出だけでも、17年前の中国全体の輸出量を上回る」

 

中国の輸出規模の拡大は、それだけ世界経済に与える影響の大きさを示す。2018年の輸出総額は、SARS(2003年)の輸出総額に比べ5.6倍になっている。これは当然、世界経済に与える影響の大きさを示している。その中国で長期の生産中止が起これば、サプライチェーンへの影響は大きくなろう。

 

中国の生産が正常化する前提は、新型コロナウイルス感染の終息がいつになるかに関わっている。この問題は、別の記事で取り上げた。詳細はそちらを見ていただくとして、世界の疫学専門家は終息まで「数週間」を必要とする立場だ。数週間といえば、3月一杯である。それまで、生産が正常化しないとなれば、世界のサプライチェーンへの影響は必至である。

 

(2)「製造業者は以前から、春節(旧正月)の影響を嘆いていた。例年1月か2月に当たる連休中、中国の工場は稼働停止になるからだ。今年は保健当局のウイルス感染への対応により、連休が実質的に延長された。これに伴い中国の鉱工業生産も、一段と長期にわたって低迷する恐れがある。ここ10年ほど、1月と2月の中国鉱工業生産は年間の残り10カ月の平均を20%余り下回り続けてきた

 

中国の春節は不定期である。太陽暦でないことの悩みだ。例年1~2月の経済統計数字は、合計して平均するという面倒さを伴っている。1~2月は長期の休暇になるので、残り10ヶ月の平均生産を約20%も下回るパターンを繰返している。それが、さらに長期の休暇になれば、1~2ヶ月の生産の落込みが大幅になろう。

 

(3)「作業員の休暇日数はさまざまだが、平均的な作業員が2週間丸々休みを取ると仮定すれば、2カ月間の稼働が2割下がるとして、連休中からその後にかけて鉱工業生産が通常の約5分の1の水準になるということだ。さらに、中国が重要なのは、単に規模が大きいからというだけではない。中国の世界貿易機関(WTO)加盟から間もない03年当時に比べ、世界のサプライチェーンはかなり入り組んでいる。中国製造の比率がごく小さい製品でさえ、生産が停止すれば影響を被る。しかも製品の複雑性が増し、特殊技術メーカーの代替を探すのは難しい」

 

中国製造業が長期休業を迫られれば、世界のサプライチェーンに大きな影響が出る。一方で、中国製造業の経営自体が「左前」になる根本的なリスクを背負っている。このことにも目を向けなければならない。

 

1~2月の稼働率が2割下がることは、鉱工業生産がそれだけ低下する意味だ。中国企業は、それを前提にして資金繰りも立てているであろう。だが、ウイルス禍によってそれ以下の操業度に落ちれば、企業経営は困難になる。中国国家統計局が、2月3日に発表した昨年12月の工業利益は、前年同月比6.3%減であった。2019年の年間では、前年比3.3%減である。工業利益が、すでにこのような低迷状態である。ここへウイルス禍の長期休業が加われば、中国製造業自体が保たなくなるだろう。

 


(4)「想定外のサプライショックが起きた過去の例を見ても気持ちが沈む。米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は11年、東日本大震災の発生を受けて欧米工場の稼働を停止。16年にも稼働停止に追い込まれた。日本以外で見つけることが難しい重要部品が突如として入手できなくなったためだ。タイで11年に発生した洪水では、直接的な影響が和らいだ後も、長年にわたるサプライチェーン改革を余儀なくされた」

 

(5)「15年に発表された調査によると、東日本大震災が付加価値面で及ぼした経済的影響のうち最大60%が他国の負担となり、米国は25%を負担する格好となった。国際通貨基金(IMF)は、いわゆる高リスクの輸入品に対し、極めて大きな影響を指摘している。複雑な機械や自動車部品、ハードドライブ、そしてサプライショックに特に影響されやすい特定の電子機器だ。そうした輸入が1%増えるごとに、輸入元の国が自然災害に見舞われれば、輸入国ではその年の輸出が0.7%減る

 

下線部分は、重要な指摘である。電子機器部品では、その輸入が1%増えるごとに、輸入元の国が自然災害に見舞われれば、部品輸入国ではその年の製品輸出が0.7%減る、という試算である。中国は、SARSに続いて今回の新型ウイルス禍である。中国で、電子機器部品を生産するデメリットが急浮上している。米国商務長官は、中国リスクを指摘して米本国への生産機能移転を呼びかけているほどだ。

 

(6)「国際経済学者の多くが、中国の景気減速が世界の産出量をどの程度押し下げるかを解明しようとしてきた。だが、そうした分析は大方がサプライチェーンの混乱ではなく需要への影響を焦点にしている。現在行われている閉鎖や退避といった対応は、SARS、タイ洪水、東日本大震災の際の規模を超えている。工場などの閉鎖は始まったばかりだが、産業界に占める中国の重要性から判断して、世界の製造業者に前例のない苦境をもたらそうとしている。この先長年にわたって影響が実感されるかもしれない

 

下線部分は、言外に中国リスクを示唆している。米国は、米中貿易戦争の一環として、今回の新型コロナウイルス問題をサプライチェーン・リスクとして捉えるだろう。中国にとっては、実に間の悪い時点で起こった問題である。長期的に見れば、これが中国経済衰退への引き金になるだろう。