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中国全土は、新型コロナウイルスの襲来で凍結状態に入っている。不動産購入の富裕層ほど、ウイルス感染を嫌って住宅展示場に姿を現さず、物件は在庫のまま動かずの状態だ。このままだと、不動産会社は売上ゼロで債務返済時期の接近という最悪事態を迎える。信用危機の到来である。

 

ビジネスは、売上があって初めて「回転」するものだ。売上ゼロでは回転せず、債務返済は不可能になる。マスコミ報道では、製造業にスポットを当てている。だが、GDPの約25%を占める不動産部門の凍結は、中国経済に大きな赤信号を発している。要注意である。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(2月9日付)は、「新型肺炎で不動産売れず中国経済に打撃」と題する記事を掲載した。

 

(1)「43兆ドル(約4650兆円)規模に上るとされる中国の不動産市場が、新型コロナウイルスの感染拡大で手痛い打撃を受けている。開発業者は販売拠点を閉め、住宅の買い手は新居探しを先送りしているからだ。中国の不動産市場はGDP4分の1を占めるとの推計もある。この市場に影響が及ぶことで13月期の経済成長率が前年同期比4%に低下する恐れがあるとみるアナリストも複数いる」

 

2019年のGDP成長率は前年比6.%だった。アナリストの予想通りになれば、今年は天安門事件直後で成長が鈍った1990年の3.%以来の低水準にとどまる。6.1%が、4%程度の経済成長率に低下すれば、売上激減で多額の負債を抱える不動産企業は倒産するしかない。これが、中国経済に信用不安をもたらすことは必至である。

 


(2)「北京で不動産業に携わるティナ・ユー氏は、「お金のある人はひどくおびえており、あえて外を出歩こうとはしない」と話す。「誰も仕事に行かない。不動産開発は全面的に停止状態で、影響は確実に大きくなるだろう」。湖北省を中心に4000万人超が当局の隔離下に置かれ、国中で道路や公共交通機関を閉鎖する動きが出ている。最初の隔離や閉鎖が始まった直後の1月26日の段階で、中国南部の広西チワン族自治区などの省は、すでに住宅販売を見合わせていた。不動産業者によると、住宅購入を検討する多くの人は外出や物件の見学ができずにいるか、感染を恐れて見送っている

 

「新型コロナウイルス終息宣言」が、WHO(世界保健機関)から出ないかぎり、中国市民は安心して外出しないであろう。SARS並の期間で終息宣言が出るとすれば、今年8月頃となろう。そのためには、5月に感染者がゼロ状態でなければならない。5月とすれば、あと4ヶ月弱は「凍結状態」が続くと見るほかない。

 

(3)「オーストラリアの投資会社マッコーリーキャピタルで中国経済を担当するラリー・フー氏は、「4年も活況が続いた不動産業界は、新型コロナウイルスの打撃を受ける前からすでに転換点にあった」と指摘する。「そのため、中国経済の最も重要な部分を担うこの業界にとってリスクは高い」という」

 

不動産需要には曇りがかかり始めていた。中国政府が、住宅ローンの条件を厳しくしてきたこと。家計が、高額の住宅ローンを抱えて返済能力の上限を超えていたことなど、もはや家計の購買力において限界にあった。ここで迎える「ウイルス襲来」は、不動産市場に一撃を加えるに等しいショックだ。

 


(4)「アナリストが最も気をもんでいるのは、新型肺炎の感染が今後どうなるかわからないことだ。政府は数日以内にピークに達すると予想するが、専門家の多くは4月か5月が感染のピークになるとみている。米S&Pグローバル・レーティングの不動産格付けチームでシニアディレクターは、「この危機がどの程度続くか懸念している」と述べる。「大きな影響が出れば、業界はマイナス成長に陥る可能性がある。ウイルス感染が日々拡大すれば、沈静化には時間がかかるだろう

 

下線部分が、真相を突いていると思われる。感染率が高くなっていると推測されるのは、二次感染、三次感染が増えていることだ。これは、警戒すべき兆候である。「専門家の多くは4月か5月が感染のピークになるとみている」というのは、根拠ある見通しというべきだろう。

 

(5)「米ゴールドマン・サックスの中国株のチーフストラテジスト、キンガー・ラウ氏は、SARSやMERSが中国経済に与えた影響から判断すると、不動産業界は新型コロナウイルスの悪影響を最も受ける部門の一つになると語る。この市場の規模を43兆ドルと推計しているのは同氏だ。感染拡大が今年の中国の経済成長にどの程度まで重荷になるかは不透明だ。不動産販売の停滞に個人消費の不振や製造拠点の閉鎖が重なり、経済に悪影響が出るとみられている。マッコーリーでは、実質成長率が昨年10~12月期の6%から今年13月期は4%に低下すると予想している」

 

今年の1~3月期が、4%成長に止まるという見方は増えている。4~6月期も感染状況に変化がなければ、同程度の経済成長率と見るべきだろう。中国経済は、大きな変曲点を迎えていることは疑いない。これまでの「大言壮語」が恥ずかしくなろう。それほどの惨状が、起こる気配である。