a0960_008532_m
   


WHO(世界保健機関)は11日、新型コロナウイルスの蔓延により、各国へ「海外旅行自粛」を要請した。これまでのWHO方針を改めたものだ。このWHOの措置により、大きな影響を受ける業種の一つが海外航空会社である。どの程度の影響を受けるのか。最新予測では、SARS(2003年)並としているが、甘いように思える。各国の経済実態にかなりのダメージが予想されるためだ。

 

『Forbes 電子版』(2月11日付)は、「世界の航空会社の損失、2003年のSARSと同レベルの見通し」と題する記事を掲載した。

 

中国の武漢市が発生源の新型コロナウイルスの感染拡大は、世界の航空会社に巨大な打撃を与えている。フライトの欠航やキャンセルによる経済的損失は、2003年以降で最悪の規模になりそうだ。

(1)「航空業界のリサーチ企業OAGによると、世界の航空会社の欠航件数は、2月の第1週の7日間で25000件以上に達したという。OAGによると、世界の30の航空会社が中国便の運航を一時停止しており、週あたり8000席の販売が停止された。航空会社が被る損害額は、2003年のSARSと同レベルに達すると専門家は予測する。「新型肺炎はこれまでを上回る件数の、航空便のキャンセルを発生させている」とOAGのアジア部門主任のMayur Patelは述べた」

 

航空会社の損害は、SARS並と見られている。果たして、その程度で済むだろうか。2003年と現在では、中国経済の規模が異なっている。現在、世界経済に占めるウエイトは16%にもなっている。2003年当時は4%程度であった。世界経済に与える影響は格段に大きくなっている。単純に言えば4倍でる。

中国経済は、不動産バブルの後遺症に悩まされる。2003年当時になかった、新たな負担である。過剰な債務を背負っており、簡単な回復はあり得ないのである。中国経済自体の回復速度が遅れる以上、世界の航空会社の受ける損害は、SARS並以上に拡大されると見るべきだろう。

 

(2)「シンガポールの経済紙Business Timesによると、2003年のSARSはアジア太平洋地域の航空会社の年間売上の8%を奪い、60億ドルの損失をもたらしたという。SARSは香港や台湾、中国を中心に猛威をふるっていた。香港の航空関連のアナリストのEric Linによると、中国に本拠を置く航空会社は既に、予定されていた航空便の少なくとも50%をキャンセルしたという。ここに含まれるのは、中国国営の中国国際航空や中国南方航空、さらに民間企業の海南航空などだ。台湾の航空会社や香港のキャセイパシフィックも、売上の大半を中国便に依存しているため、ダメージは大きい。さらに、ユナイテッド航空やブリティッシュエアウェイズも、中国便を運休させた」

 

SARSの時は、終息宣言が出されるまで7ヶ月を要した。今回も最低限、その程度の期間を必要とすれば、2003年当時の経済規模と現在の拡大幅の7倍の損害が出てもおかしくない。SARS並は、とうていあり得ない話だ。

 

(4)「米国の格付け会社ムーディーズは131日のレポートで、感染が中国以外に拡大した場合、航空会社の損失はさらに増えると予測した。「原油価格の下落により損失の一部は相殺されるが、ビジネスモデルが脆弱な航空会社が被る損害は不可避であり、回復には時間を要する」と同社は述べた。ただし、SARSと同様のパターンが今回も再現されるとしたら、感染拡大の収束と共に、需要は急速に回復するはずだとアナリストは述べている。北京の国際空港から飛び立つ旅客数は、SARSの収束の1カ月後に最大を記録したと中国の人民

日報は当時、伝えていた

 

下線部は、言わずもがなの指摘である。WHOが、日本など6ヶ国への海外旅行自粛を呼びかけている。これら諸国は、中国と香港を加えれば、日本の「ベスト8ヶ国」である。甘い予測が禁物という根拠がここにある。

SARS終了直後、中国の海外旅行熱はすぐに回復したという。今回は事情が違う。不動産バブル崩壊という新たなリスクを背負っている。家計債務が過去最高という中で、2003年当時と同様な「早期旅行回復」に繋がる公算は小さいであろう。

 


(5)「香港のアナリストのLinは、今回の新型肺炎も感染拡大の収束とともに、航空会社にV字回復をもたらすと述べている。海外への渡航を見合わせていた旅客らが、一斉に航空機の利用を再開することで、急激な需要増が見込めるという。「感染拡大が収束すれば、ただちに需要は回復し、売上も元のレベルに戻ると見ている」と、OAGPatelも述べた」

 

このパラグラフでも、楽観論を展開している。そうであれば結構だが、中国経済自体が相当のダメージを受けていることに気付くべきだ。ちなみに、2003年の中国GDPは、実質10.02%である。現時点では5%割れの減速経済である。当時とでは、半分の成長速度に落込んでいる。この現実を見落としてはならない。