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中国経済は、新型コロナウイルスによって大きな打撃を受けている。ただ、どの程度の衝撃であるか不明である。マクロ統計が未発表であることや、発表されても真実を伝えているか、疑問符がついているからだ。

 

こういう「闇夜」状態の中で、あらゆる手法を利用して被害の実態把握の努力が進んでいる。以下は、その一例である。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(2月19日付)は、「新型肺炎、影響分析で異色のデータに脚光」と題する記事を掲載した。

 

新型コロナウイルスの感染拡大が世界2位の中国経済にどれだけ影響するか見極めようとする投資家たちが、出前アプリから香港の大気汚染状況まで、これまで注目されてこなかった様々なデータに目を向け始めた。ウイルスの広がりによる工場の稼働停止や都市の封鎖を受け、中国やその他の地域で202013月期の経済成長見通しが相次いで下方修正されている。こうした中、中国経済への悪影響がどの程度で、いつ回復に転じるかをいち早く判断するため、投資家たちは入手方法が限られた情報源を得ようと競い合っている。以下は、FT(フィナンシャル・タイムズ)記事を読みやすいように、当欄が整理した。

 


(1)「中国の調査会社、百観(ビッグワン)の見解では、中国ネット出前サービス大手の美団点評を使って追跡している飲食店およそ100万軒のうち、2月上旬時点で営業を再開していない店は83%に上った」

 

飲食店の83%が閉店状態である。これでは、店の経営は成り立たない。倒産危機と隣合せであろう。

 

(2)「中国版スターバックスの「ラッキンコーヒー」は、約5500店舗のうち14日時点で87%がまだ閉店していた」

 

コーヒー店の87%が閉店のまま。倒産危機に直面している。

 

(3)「アイルランドの調査会社イーグル・アルファによると、航空券予約は単独の要因では過去最大の落ち込みを記録したもようだ。重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時や01911日の米同時多発テロ後よりも影響が大きく、中国発着便や同国内便の予約がこれまでに1000万席減少した」

 

航空券予約状況は、SARS(2003年)や米同時多発テロ事件(2001年)時よりも悪化している。これは、相当の打撃を受けていることを伺わせている。

 

(4)「アナリストらは、春節(旧正月)休暇の延長期間が終わり、先週は経済活動が通常通り再開するはずだったと語る。だが道路の混雑状況や石炭消費、不動産取引などを示す指標が平常時を大幅に下回り続けている」

 

(5)「香港にある118階建ての環球貿易広場(ICC)で働くダイ氏の同僚らは、中国本土で工場が次々と稼働を停止する中、ここ1カ月間で見晴らしが良くなったことに気づいた。大気汚染レベルが鉱工業生産の再開状況を反映するとの想定で調べてみたところ、現在の工場稼働率は2050%にとどまっている可能性があるという」

 

空気がきれいになっており、工場稼働率が50%以下に止まっていることを示唆している。

 


(6)「中国で生み出される大量のデジタルデータに、米顧問投資会社のポートフォリオマネジャー、トレーシー・チェン氏は、中国から1万キロ以上離れた米ペンシルベニア州フィラデルフィアで目を光らせている。中国の検索エンジン「百度(バイドゥ)」の通信量やオランダのデジタル大手トムトムのシステムから得られる道路混雑状況など、20種類のデータを参照できる独自のツールを作り上げた。チェン氏は「13月期がかなりひどくなりそうなことを全てのデータが物語っている」と話した。

 

道路混雑状況から見て、1~3月期は相当の悪化が予想される。断片的に報じられる道路の「空き具合」からも予測はつく。

 

中国の経済状況が、ミステリー小説のようにほぼ止まっていることから想像できるのは、企業を襲う金融危機である。

 

『ブルームバーグ』(2月21日付)は、「中国の銀行、ウイルス感染拡大で問題債権比率ほぼ倍増もーS&P」と題する記事を掲載した。

 

S&Pグローバル・レーティングは20日、新型コロナウイルス感染拡大で中国の銀行が抱える問題融資債権がほぼ倍増する可能性があるとリポートで指摘した。

 

(7)「S&Pによれば、ウイルス感染拡大が中国の生産体制を混乱させており、企業と個人の債務返済が難しくなり、最悪のシナリオでは、中国の銀行システムにおける問題債権比率が倍近くに上昇することもあり得る」

 

営業停止状態では、債務返済が困難になって当然である。中国の銀行システムで不良債権が倍増するという予測を立てている。信用機構がそれに耐えられるのか。それが問題として急浮上している。私が、最も危惧する点である。

 

(8)「中国経済に対する新型ウイルス流行の影響は1-3月(第1四半期)に集中する可能性が高く、7-9月(第3四半期)までには回復がしっかりした足取りになるはずである」

 

前記のシナリオは、ウイルス流行が3月に落ち着き、4月には新たな感染が実質的になくなるという前提である。このベスト・シナリオでも、S&Pは2020年GDP成長率が5%に押し下げられると予想している。