あじさいのたまご
   

社会主義経済に失業者はいない。こう言ったのは毛沢東である。その中国で、未曾有の就職難が起こっている。米中貿易戦争に加え、新型コロナウイルス発症で、中国経済は今年ゼロ成長になる事態を迎える。世界銀行による厳しい景気予測の結果だ。

 

中国は、未成熟経済である。高度の産業構造へ成長していない段階で、世界経済の大転換が起ころうとしている。それは、「パンデミック」という言葉に代表される、文明の転換である。中国は、自ら蒔いた種で、自らの経済に大きな傷を受けるという皮肉な役回りになった。「正・反・合」という弁証法の結論を自ら立証する事態である。

 

中国は、市場経済原則に大きな網をかけている結果、あらゆるところに「過剰」の二文字がつきまとっている。その過剰を整理しないままに、これから本格的な大不況に突入する。不動産バルルの崩壊は、もはや止めようもなくなっている。これによる不良債権が山積みとなって、中国の信用機構を直撃する。この危機を乗り越えられるのか。疑問なのだ。この影響は、失業率上昇となって現れる

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月1日付)は、「中国で今年の大卒870万人、 コロナ禍で就職難に拍車」と題する記事を掲載した。

 

中国で職探しをする大卒者が増える中、困難な状況に一層拍車をかけているのが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だ。安定した雇用が経済や社会の秩序維持に欠かせないと考える共産党当局者にとって圧力がなお強まっている。

 

(1)「今年卒業証書を受け取るとみられる900万人近い学生が――卒業生の数としては約10年ぶりの多さだ――、近年まれに見る厳しい雇用市場に参入する見通しとなっている。パンデミックの前でさえ、景気鈍化のためにホワイトカラー労働者の就職口はすでに減少していた。新型ウイルスの影響や、それを抑えるために広範囲の都市封鎖や生産停止が実施された結果、中国都市部の失業率は2月に6.2%と過去最高を記録。これまで景気の波はあってもおおむね維持されてきた公式発表で5%前後の失業率を上回った。ING銀行 の香港在勤チーフエコノミスト、アイリス・パン氏は、年内に失業率が10%まで上昇する可能性もあるが、地方政府が恐らくこれ以上悪化しないように景気刺激策を講じて介入するだろうと述べた」

 

中国の失業率調査は、「国家秘密」扱いである。公表されている失業率は、ウソの統計である。政府は、実際の失業率統計を別途、隠している。失業率上昇が、社会不安を起こす危険性が高いからだ。李首相が、かつて実際の失業率を口にして話題になったほどである。「年内に失業率が10%まで上昇する」というのは、実際の失業率である。

 

(2)「数十万人の新大卒生が失業者集団に加わろうとする一方で、中国当局者は受け皿を見つけるのに躍起だ。軍の入隊枠を拡大し、卒業間近の学生には修士課程への進学を促すなどして雇用市場への参入を遅らせようと画策する。その懸念は政府の最高幹部にも広がっている。習近平国家主席に続くナンバー2李克強首相は今月、景気回復担当者は従来重視してきたGDP成長目標よりも雇用を優先すべきだと語った。「今年の雇用が安定すれば、経済成長率が若干高かろうと低かろうと大きな問題ではない」。李首相はこう述べた」

 

李首相が、「GDP成長目標よりも雇用を優先すべきだ」と語ったのは、失業率が社会不安を醸成するからだ。GDP成長率目標よりも失業率重視する。これは切実な問題になっている。

 

(3)「中国指導部は、学生主導で起きた1989年の天安門事件の背景に高いインフレ率と雇用見通しの悪化があったとみており、それ以来、若者の失業率は政治不安の潜在的な引き金になるとして監視を続けている。中国の政策を研究するカリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・シー准教授(政治経済学)はこう話す。北京大学教育経済研究所が2年ごとに行う調査によると、昨年は大卒者の20%近くが就職活動でうまくいかなかった。今夏卒業予定の870万人は2019年より5%多く、今年米国で見込まれる卒業生の2倍以上だ」

 

昨年の大卒者の20%は、就職できなかったようである。今年はさらに870万人の新卒が加わる。空前の就職難時代が来る。日本のさる著名な経済評論家で元大学教授が将来、日本人が中国へ出稼ぎに行くと書いていたが、そのようなことは起こり得ない。資本主義が、社会主義の中国より劣っているという証拠はどこにもない。実態は逆である。その証拠は、これからの中国自身が見せてくれるはずだ。

 

(4)「北京大学・光華管理学院と中国最大の求人サイトを運営する智聯招聘が325日に公表した報告書によると、中国の新規求人件数は昨年1月と2月に比べ30%以上減少したという。就職できず不満を募らせる大卒の一群が形成されるのを避けるため、教育省は中国の大学に対し、修士課程の枠を計18万9000人分増やすよう命じた。さらに同省は今月、学生らに軍への入隊を勧めた。入隊すれば授業料の減免を受ける資格が与えられるほか、国連のような国際機関で働ける可能性があるという」

 

今年の大卒就職難を緩和させるため、大学院の修士課程の定員を18万9000人増やすという。中国は、大学の定員を就職難のバッファーに使っている。学部の定員を増やしたり、今度は大学院の修士課程の増員である。人民解放軍への入隊も薦めている。この方法は数年前も使われた。将来、公務員へ優先的に採用するという特典を与えていた。今度は、授業料の免除という。よほど、人民解放軍への人気が低いのであろう。

 

(5)「新型コロナウイルスで最も激しい打撃を受けた湖北省は先週末、公務員の募集を20%増やし、最近大学を卒業した5万人を他の公職に追加採用する考えを示した。ただ、修士課程の枠を増やし、他の短期的な対策を講じても、製造業の職が低賃金諸国に移転するなど、中国経済を弱体化させる構造的な問題への対処にはなっていない。 交通銀行の上海在勤エコノミストはこう指摘する。「これらの大卒生は23年以内に労働市場に再び参入する。だからわれわれは問題を根本的に解決する必要がある」と同氏は言う」

 

雇用の主体は、どこの国でも製造業である。この製造業が左前になると、雇用不安が起こる。現在の韓国が、この状態である。肝心の製造業が、「米中デカップリング」という大きな壁に突き当たろうとしている。今回の新型コロナウイルスで、中国がサプライチェーンの核であることのリスクを再認識させた。製造業の職が、低賃金諸国に移転するなど、中国経済を弱体化させる構造的問題は未解決である。

 

こういう流れは、パンデミックのもたらす歴史的な大転換を予知させる動きである。今は、小さな流れでも、時間が経てば大きなうねりに変わる。歴史の転換点とは、こういうものなのだろう。