米情報機関を総動員へ
中国へ3つの防御展開
地政学的に重要な台湾
香港へ人権法で対抗
新型コロナウイルスによる米国の死亡者は、すでにベトナム戦争の犠牲者数を上回った。米国にとってのコロナ禍が、いかに大きいかをこの一事が物語っている。米国はそれだけに、中国がコロナ発生時に隠蔽することなく、情報を即時公開していたならば、という思いを強くしているのであろう。
コロナ禍によって、絶好調の米国経済が寸断されてしまった。サプライチェーンのハブが、中国に置かれていることのマイナスで、世界経済が混乱の坩堝と化している。これまでのグローバル経済の効率性が、コロナ禍によって瞬時に「非効率」の代名詞へ転落している。改めて、大量生産のデメリットが鮮明になり、地産地消という小規模生産のメリットが再評価される局面へ転換した。グローバル経済の見直しが始まったのである。
米情報機関を総動員へ
米国は、こういう防疫問題が世界経済を混乱させ、米国経済に甚大な影響をもたらす現実に直面して、「防疫安全保障」の視点に目を移している。グローバル経済が、この防疫安全保障を脅かし、中国への危機感を深めている。米国情報機関を総動員すると同時に,同盟国の情報機関連合「ファイブアイズ」(米・英・豪・加・ニュージーランド5ヶ国)も加わって、中国武漢で何が起こっていたか糾明している。
米NBCニュースは5月9日、3人の情報筋の話として、携帯電話などの通信端末の位置データを分析した結果、武漢ウイルス研究所は昨年10月に一時閉鎖された可能性があると報道した。また、NBCニュースが入手した報告書によると、昨年10月7~24日まで、武漢ウイルス研究所の高セキュリティ区域で携帯電話の活動はなかったのだ。「10月6~11日までの間に、危険な事故が起きた可能性がある」というのである。
中国は、武漢市にある海産物市場の野生動物(コウモリ)の売店が原因としてきた。現実に、コウモリは売られていなかった。中国発表には、「ウソ」が多いという認識が一挙に広まった。武漢ウイルス研究所の事故説が有力だ。それを裏付けるのが、前記のNBCニュースが入手した報告書である。「10月6~11日までの間に、危険な事故が起きた可能性がある」という推論だ。
中国が、真実を公表していないという疑惑は、米国を一層中国への警戒感を強めている。中国が、胡錦濤時代までの「オープン」な姿勢から、習近平時代に入って「隠し事」を始めているという疑念を強めている。その「隠し事」とは、米国の世界覇権へ挑戦準備を始めているというもの。米国の中国への警戒感は、極めて強烈である。
米国は1910~11年に、「オレンジ作戦」と称して、日米戦争の準備に入った。米国は、世界一の海洋国家である。それだけに自由思想に貫かれている。これに立ち向かう専制主義への嫌悪感は極めて強いものがある。同じ海洋国家の日本が、アジアへの野望を露骨に見せると予測し、最後は太平洋上での決戦が不可避と見ていたのだ。日米開戦は、1941年12月である。米国は開戦40年前に、すでに戦闘準備へ着手していた。
こういう米国特有の「嗅覚」の鋭さを知れば、中国が始めた米国覇権への挑戦を黙って見過ごすはずがない。その準備は、すでにオバマ政権2期目から始まっていた。TPP(環太平洋経済連携協定)への準備である。当時は、まだ米中協調主義が前面に出ていた。それでも2008年のリーマンショック後、中国は南シナ海の不法占拠に動き始めた。オバマ氏は、中国へ口頭で警告を与える程度であったが、中国をTPPで経済的に包囲する意図を明確にしていたのだ。
トランプ氏は、このオバマTPP構想を引き継がず、加盟しなかった。これで安堵感を強めた中国は、一気に、南シナ海の不法占拠を拡大し軍事基地化したのだ。トランプ氏は、これに対抗すべく別の途を選んでいる。
米中貿易戦争を始めて、中国のWTO(世界貿易機関)ルール違反を攻め立てている。これによって、米企業の技術窃取防止に立ち上がった。その成果は、今年1月の「第一段階合意」となり中国政府が米の主張を認めざるを得なかった。中国が合意を破れば、米国の科すペナルティーに不服を申し立てないという「白旗」を掲げたのだ。中国経済が、米中貿易戦争に耐えられないという意味である。
中国へ3つの防御展開
以上のように、米国は中国に対して貿易・技術の両面で「くつわ」をはめた形だが、これに満足せず、中国企業に米国資本市場を利用させないという戦術に出ている。中国企業を資金面で「干し上げる」意図を明確にしたのだ。(つづく)
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