テイカカズラ
   

米国政府が昨年5月15日、中国のファーウェイへ輸出禁止措置を下してから1年がたった。ファーウェイは種々の対策を取ったものの、ソフトの穴を埋められずにいる。予測通りの結果だ。スマホは設計図さえあれば、誰でも製作できるという汎用商品である。それほどまでに普及したという意味だ。米国製ソフトの使い良さが、牽引役になっている。ファーウェイは、米国ソフトの使用禁止措置によって、普及を支えたソフトの羽をもぎ取られたのである。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月13日付)は、「ファーウェイ苦戦『グーグルなし』で揺らぐ優位」と題する記事を掲載した。

 

中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は、米国の技術入手を禁じられたことで、多くの代替策を模索してきたが、過去10年にわたり依存してきたグーグルの代役はなかなか見つけられずにいる。

 

(1)「グーグルのアプリがなくなった今、かつて破竹の勢いだった同社のスマートフォン市場における立ち位置も揺らいでいる。新型コロナウイルスの流行を背景に、1~3月期(第1四半期)は世界のスマホ需要が過去最大の減少に見舞われたが、ファーウェイのスマホ出荷台数(中国を除く)は35%落ち込み、韓国サムスン電子の倍以上、アップルの4倍に当たる減少幅となった(カナリス調べ)。その結果、サムスンに次ぐ世界2位のスマホメーカーというファーウェイの地位が脅かされている」

 

世界のスマホは、1~3月期にパンダミックで世界的需要減に見舞われている。その中でも、ファーウェイの落込みが大きく、前年比35%減に沈んだ。ファーウェイの落込み幅は、サムスンの2倍以上、アップルの4倍という完敗ぶりである。ファーウェイの世界2位の座が怪しくなっている。グーグル・ソフトを搭載できなかった結果だ。

 

(2)「グーグルが抜けた穴は大きい。同社のモバイル端末向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」はオープンソースのため、ファーウェイのデバイスも引き続き使用可能だ。だが、グーグルのアプリや独自のソフトウエアは、米政府の制裁で使用できなくなった。そこでファーウェイは、内製ソフトウエア「ファーウェイ・モバイル・サービシズ」をデバイスに搭載。これにはグーグルの「クローム」や「Gmail」に代わるファーウェイ版のウェブブラウザーや電子メールアプリなどが含まれる」

 

ソフトは、「空気」のような存在である。あって当り前のグーグル・ソフトが、搭載できないスマホとは、「スマホ」とは呼べないほどである。ここまで、普及しているグーグル・ソフトから排除されれば、ファーウェイ・スマホの商品価値は下がって当然なのだ。

 


(3)「ファーウェイは、「グーグルプレイ」に代わるアプリストア「アップギャラリー」も立ち上げたが、米政府の制裁によってフェイスブックやグーグルのユーチューブといった人気アプリを扱うことができない。ファーウェイはアプリの品ぞろえを確保するため、100万を超えるデベロッパーを起用したと説明している。ファーウェイは過去1年に、自社ソフトウエアを搭載した旗艦スマホ「P40」と「Mate30」を発売した。中国のスマホ市場ではシェアを伸ばしたが、中国以外の市場では「グーグルなし」の影響は大きく、伸び悩んでいるファーウェイは米政府の制裁措置が導入される以前、西欧市場で一時、アップルを抜いてスマホメーカー第2位まで上り詰めた。だが、足元の国外販売の急減により、これまでの躍進から押し戻されつつある」

 

米国による中国への締め上げは、中国が「白旗」を掲げるまで続くと見なければならない。その時期がいつか、予測は不可能である。ファーウェイ・スマホは、中国市場内部だけで価値を持つ「地域版スマホ」に転落した。

 

ファーウェイは、スマホの部品も米国製が使用不可能になっている。この面での制約は、どのように克服しているのか。

 

『日本経済新聞 電子版』(5月15日付)は、「ファーウェイ、米制裁の影濃く、半導体 苦渋の自前開発」と題する記事を掲載した。

 

重要部品を米国から調達できなくなったファーウェイのスマートフォンは制裁後、どのように変わったのか。同社の技術力を示す最上位のスマホを分解すると制裁の前後で、中国製部品の使用比率が金額ベースで約25%から約42%へと大きく上昇した。一方、米国製部品は約11%から約1%に引き下がったことが分かった。


(4)「調査対象にしたのは、ファーウェイの最上位機種の新製品「Mate30」の5G版。次世代通信規格「5G」に対応する新モデルで、米制裁後の昨秋から順次、世界で発売が始まっている。専門の調査会社フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ(東京・江東)の協力を得て、分解したスマホから各部品がどの国・地域のメーカーのものかを特定した。その上で業界の相場などを考慮して部品価格を推定し、国・地域別の調達比率を算出した」

 

(5)「その結果、Mate30の5G版では、中国部品の使用比率が41.%を占め、制裁前に発売された旧機種の4G版から16.5ポイントも上昇したことが分かった。一方、4G版で11.%を占めた米国部品は、カバーガラスなどごく一部にとどまり、全体の1.%と、ほぼ姿を消した。米制裁から1年で、調達先の大幅な変更を余儀なくされた内情がよく分かる。ただ一方で、この1年間でファーウェイの部品開発が進み、自前調達の力が付いてきたことも注目される。特に基幹部品である半導体でそれが顕著だ。もともと、同社の主力スマホは半導体子会社の海思半導体(ハイシリコン)が頭脳に当たるプロセッサー(CPU)を開発した

 

中国製部品の使用比率が金額ベースで約25%から約42%へと大きく上昇した。一方、米国製部品は約11%から約1%に引き下がったことが分かった。一見、中国の自前技術が進歩したように見えるが、そうではないという報道が見られる。

 


『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月11日付)は、「
半導体の自足目指す中国、切り札握るのは依然米国」と題する記事を掲載した。

 

(6)「ファーウェイは完全に自給自足というわけではない。ハイシリコンはいわゆる「ファブレス(自社製造工場を持たない)」企業で、半導体の製造は台湾積体電路製造(TSMC)などの受託生産企業(ファウンドリー)に依存している。トランプ政権はTSMCのハイシリコン向け供給を制限できるような規制を準備している。こうした規制強化を見越して、ファーウェイは半導体の在庫を増強しているかもしれない」

 

ファーウェイは、半導体の製造を台湾積体電路製造(TSMC)など受託生産企業(ファウンドリー)に依存している事実だ。米国は、ここを狙って中国への供給にブレーキをかける準備をしている。TSMCが、米国で本格生産を発表したからだ。米国の「ファーウェイ作戦」は緻密である。