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米国の中国への怒りは収まらない。昨年5月15日、米国はファーウェイへのソフトや製品の輸出禁止措置を取った。その1年後、さらにファーウェイへ強い追い打ちをかけている。

 

米商務省は15日、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への輸出禁止措置を強化すると発表した。米国製の製造装置を使っている場合は、外国で製造した半導体でも許可がなければファーウェイへの輸出ができなくなる。ファーウェイに大きな打撃となり、日本を含めた半導体メーカーにも影響が及びそうだ。『共同通信』(5月15日付)が伝えた。

 

米国は、コロナ禍を受けてサプライチェーンのハブが、中国にあることのリスクを再認識させられている。そこで、米本土へ製造業を移転させるには、素材である半導体自足化を実現しなければならない。今回、ファーウェイに対する外国製半導体の輸出禁止措置にする背景には、米国が半導体生産のメッカであることを内外に宣言する必要にせがまれている事情があろう。その準備は着々と進んでおり、近く「世界3強半導体」の工場が米国へ終結する。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月11日付)は、「トランプ政権、半導体の自給自足目指す、インテルなどと協議」と題する記事を掲載した。

 

トランプ米政権と米半導体メーカーが国内での工場新設を加速させようとしている。重要技術である半導体をアジアからの輸入に依存していることへの懸念の高まりが背景にある。

 

(1)「米国内で最先端の工場が立ち上がれば業界が再編され、投資に対するインセンティブや万全なサプライチェーン(供給網)に魅了されアジアに進出してきた企業も、数十年ぶりの方針転換となる。米国では世界のサプライチェーンが混乱に陥らないよう保護すべきだとの声が以前から聞かれていたが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって改めてそうした懸念が浮上した」

 

米国は、国内にIT関連企業の生産工場を建設させる方針を立てている。それには、重要部品の半導体を国内生産で賄える「自足体制」を築く必要がある。「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」である。

 

(2)「政権当局者らは、中でも中国が領有権を主張する台湾や、同国に拠点を置く半導体ファウンドリー(受託生産)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)への依存に不安を感じていると話す。TSMCは、最先端技術を使った世界最速の半導体を製造できる3社のうちの1つである」

 

台湾積体電路製造(TSMC)が、工場を米国へ建設させる構想は成功した。5月15日、米アリゾナ州に半導体工場を建設すると発表したもの。米国はTSMCの実質創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏が、30年間を過ごして受託生産の事業構想を練った第2の故郷でもある。アップルなど米ハイテク産業を黒子として支えてきた台湾企業だ。TSMCの米国進出は、「米台IT連合」の深化の証しとする日経記事まで登場している。

 

米国が、TSMCの米国進出を成功させた意味は大きい。米インテル、韓国サムスン電子と並ぶ「半導体3強」の一角を成すからだ。サムスンも米国工場を擁しており、米国は世界半導体3強の生産基地になる。トランプ氏の自慢のほどが目に浮かぶようだ。

 

(3)「『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が確認した文書や協議に詳しい複数の関係者によれば、トランプ政権は国内に新たな工場を設けようと米半導体メーカー最大手インテルやTSMCと話し合いを実施(注:TSMCは成功)。インテルの政策・技術担当副社長グレッグ・スレーター氏は、「われわれはこのことに非常に真剣だ」と述べ、政府やその他の顧客に対して安定的に最先端の半導体を供給できる工場の稼働を目指すと続けた。事情に詳しい関係者によれば、一部の米当局者はテキサス州オースティンにすでに工場がある韓国のサムスン電子にも、国内での受託製造を拡大できるよう支援していきたい意向だ」

 

世界半導体3強が米国工場を稼働させれば、米国へあらゆる産業が進出できる基盤が整う。古くから「半導体は産業のコメ」と称せられている。米国は、その産業のコメが自給できる体制となれば、安全保障とも絡んで世界経済の競争力は無敵となろう。中国がもたらしたコロナ禍は、サプライチェーンのハブの世界移転を作り出すきっかけになる。