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米中摩擦の激化で、米国によるサプライチェーンの分断リスクが鮮明になってきた。米国は、中国による覇権へ挑戦を退けるために、技術面で大きな脆弱性を抱える中国を突き放すためだ。米国は、中国の弱点を突く古典的手法で逆襲に転じたもの。中国は、これまでの米中融和を逆手に、技術窃取を続けてきた。その根源を断ち切るべく、米国が大胆な戦術に打って出た感じである。

 

米国政府は昨年5月15日、ファーウェイへ製品とソフトの輸出を禁止した。さらに、この5月15日に規制強化し、米国製の半導体輸出を禁止する手段に踏み切った。これで、ファーウェイを完全に封じ込めようという戦略である。米国は、ファーウェイが中国スパイ活動の一翼を担っていると見定めている。

 

ファーウェイは、外部の半導体依存度が極めて高い企業である。半導体受託生産で、世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)との取引が、ファーウェイの生命線となっている。半導体設計は、傘下の開発大手・海思半導体(ハイシリコン)に任せてきた。スマートフォンのCPU(中央演算処理装置)や5Gの基地局向けの半導体などの開発では、海思半導体が世界トップクラスの技術を持つとされる。TSMCは、ファーウェイにとって半導体製造部門に等しく、その受注停止は「手足」をもぎ取られたにも等しい打撃となる。

 

『日本経済新聞 電子版』(5月18日付)は、「TSMC、ファーウェイから新規受注停止、米制裁強化受け」と題する記事を掲載した。

 

半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が、中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)からの新規受注を止めたことがわかった。米政権が15日にファーウェイに対する事実上の禁輸措置を強化したためだ。ファーウェイは基幹半導体の供給の多くが断たれ次世代通信規格「5G」向けのスマートフォン開発などに影響が出る。

 

(1)「TSMCは15日の米規制強化発表を受け、ファーウェイ側からの新規受注を停止した。既に受注済みの分は9月中旬までは通常通り出荷できるが、それ以外は輸出に際し米の許可が必要になるという。TSMCは日本経済新聞に対し「顧客の注文については開示しない」としつつ、「法律と規制は順守する」とコメントした」

 

米調査会社カナリスの賈沫アナリストは、「2021年前半から中高級のスマホや5G用の通信基地局などの生産で大きな打撃を受ける」と指摘する。IT製品は半導体の性能に依存するだけに、半導体製造部門であるTSMCを失う意味は極めて大きいのだ。

 

(2)「米政府は19年5月にファーウェイに対する事実上の禁輸措置を打ち出したが、米国由来の技術やソフトウエアが25%以下であれば規制の対象外とのルールが「抜け穴」となっていた。今回は25%以下でも米国の製造装置を使っていればファーウェイに輸出できないようにした。TSMCの最先端半導体の製造工程では、半導体装置世界最大手、米アプライドマテリアルズ(AMAT)などの製品が不可欠だ。中国は、高度な半導体製造技術が欠如していることが米とのハイテク摩擦での弱点となっており、習近平指導部は国を挙げて「国産化」を急いでいた。最重要の担い手であるファーウェイがTSMCとの取引を断ち切られたことは、産業政策にも逆風となる」

 

米国が、ファーウェイに対してここまで徹底的な禁輸措置に出た背景は、中国産業高度化のカギを握る「中国製造2025」の中核推進企業、ファーウェイを成長発展させないという強い意志を表わしている。中国は、この米国の見せる決意のほどを甘く見ては危険である。中国が、まともな手段で技術開発するならばともかく、ほとんど違法手段に頼っている現状阻止には、こういう荒業が不可欠である。

 


(3)「ファーウェイへの制裁強化を受け、中国共産党系メディアの環球時報(英語版)は15日の社説で「中国政府は必ず報復する。米企業の部品や機器が中国に輸入されるのを止めるかもしれない」とけん制した。米中の応酬が激化すれば世界のサプライチェーンが揺さぶられることになる。TSMCは制裁による打撃が避けられない。米顧客の売上高比率が全体の約6割を占めるが、直近ではファーウェイの売上高比率が12割に達し、米アップルに次ぐ第2位顧客に浮上していた。今後はエヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)といった米半導体大手からの受注を増やし、ファーウェイの受注の穴埋めを急ぐとみられる」

 

コロナ禍は、グローバル経済の効率性に大きな疑念をもたらした。効率性では劣っても、「地産地消」方式の生産により、パンデミックのような事態を回避する。こういう「次善の策」が、結果的に効率的であるという見方が有力になっている。

 

グローバル経済の効率性追求では、中国経済が大きなメリットを受けてきた。それが、コロナ禍で一変する。さらに、米中対立によって米国が、中国を突き放すという意図も加わり、中国は一段と劣勢に立たされ始めたのである。