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中国は、22日の全人代で何を発表するか、世界が注目していた。コロナ禍で経済実態は、大きく落込んでおり、恒例になっていたGDP成長率目標の発表を取り下げる代わりに、香港へ本土と同様の国家安全法を適用すると発表したのだ。台湾に対しては、従来の「平和的統一」から「平和」の二字を削って、強硬姿勢を見せた。中国本土に渦巻く不満を、香港と台湾への強硬策で交わそうという算段だ。

 

香港へ適用する国家安全法で、中国政府は何を狙っているのか。

 

中国では、政府がこの法律を使って活動家を取り締まり、政治的目標を推進してきた。例えば今年、本土で禁止されているゴシップ本を販売した香港の書店関係者がスパイ罪で禁錮10年を言い渡された。中国は昨年、カナダ人の研究者と元外交官を拘束した際にやはりスパイ罪を理由に挙げたが、これはカナダが華為技術(ファーウェイ)幹部を拘束したことに対する報復措置だとみられている。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月22日付)が報じたもの。要する、香港の民主化運動を一網打尽にする「最悪法」である。

 


『フィナンシャル・タイムズ』(5月22日付)は、「中国、香港治安法制強化へ、米の反発必至」と題する記事を掲載した。

 

中国政府は香港に国家安全法を導入する準備を進めている。法的な強制力を示す狙いだが、香港の抗議デモを再燃させ、米中間の緊張悪化につながる恐れが強い。計画について説明を受けた関係者2人によると、中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が法案をまとめ、香港の立法会(議会)を通さずに直接、香港基本法(憲法に相当)に組み入れる方針だ。

 

(1)「香港バプテスト大学のジャン・ピエール・カベスタン教授(政治学)は、国家安全法を香港に導入しようとする中国政府の動きは「火に油を注いで抗議運動を再燃させる」だろうと話す。立法会の民主派議員、陳淑荘(タンヤ・チャン)氏は「香港の歴史上、最も悲しい日だ。明らかに(一国二制度ではなく)一国一制度であるということを示すもので、極めて大きな後退だ」と語った。立法会は親中派議員が多数を占めるが、それでも香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は昨年6月、市民の猛反発を受けて「逃亡犯条例」改正案を成立させることができなかった。同改正案は、特定の犯罪を対象に香港市民を中国本土で裁判にかけることを可能にする内容だった」

 

香港は現在、新型コロナウイルスでデモは休止となっているが、政府に対する怒りは強い。この夏のデモは、天安門事件のあった6月4日。昨年、最初の大規模デモが起きた6月9日。香港が英国から中国に返還された7月1日に再開するとみられている。この機先を制するような国家安全法の強制導入である。今からデモ隊と警察との激しい攻防が危惧される。

 

(2)「中国の当局者らは、香港の親中派が9月の立法会選挙で多数を失う事態も恐れている。昨年11月の区議会(地方議会)選挙は、林鄭氏の危機対応と強圧的な姿勢を強める中国政府の対香港政策に対する信任投票と見なされ、民主派が圧勝した。新型コロナ禍でほぼ3カ月延期されていた全人代は22日に開幕。中国経済は今年13月期にほぼ7%の歴史的なマイナス成長に落ち込み、その立て直しが最大の焦点になるものとみられていた。だが、焦点は香港に移りそうだ。香港問題は米中摩擦でも重みを増している」

 

香港へ国家安全法が適用されれば、香港の親中派が9月の立法会選挙で多数を失うことは確実だ。区議会も反中派が占めており、香港は立法会・区議会がともに反中派が支配する事態を迎える。香港は、これで米中の激しい対立の舞台になることは不可避となった、

 


(3)「米上院ではクリス・バン・ホレン(民主党、メリーランド州選出)、パット・トゥーミー(共和党、ペンシルベニア州)の両議員が21日、香港への国家安全法導入に関与した中国共産党の当局者に制裁を科し、同法の執行に関わる組織と取引した銀行も処罰する法案を提出した「昨年、香港では何百万人もの市民が民主的な自由を求めて街頭に繰り出した」と、法案を直ちに取り上げるよう求めるバン・ホレン議員は述べた。「中国の残忍な弾圧、そして香港の政治的自由を侵そうとする度重なる試みにもかかわらず、彼らの抗議は続いている」テッド・クルーズ上院議員(共和党、テキサス州)は「香港に残された自治を断とうとする」中国の動きを非難した」

 

(4)「トランプ大統領は、中国政府が法案を成立させれば、米国は「極めて強力に対処する」ことになると述べた。中国の当局者らは、米国主導の「外国勢力」が昨年、香港の混乱を扇動したと非難している。これに対して、米政府は香港人権・民主主義法を成立させた。外交・防衛を除く分野で香港に約束された自治が中国政府によって侵害されていないか、国務長官に検証を義務付ける内容だ。香港の「一国二制度」に綻びが生じているとポンペオ国務長官が判断すれば、トランプ氏は米国が中国本土とは別扱いで香港に認めている経済・貿易上の優遇措置を停止することができる」

 

米議会は、いち早く反応している。当面は、「香港への国家安全法導入に関与した中国共産党の当局者に制裁を科し、同法の執行に関わる組織と取引した銀行も処罰する法案を提出」という素早い動きだ。米国の「制裁」はこれだけでない。今年、発効させた「香港人権・民主主義法」で対抗し、香港へ与えてきた米国の特恵(関税など)を廃止するという圧力を掛ける。これは、中国に経済的な損失をもたらし、香港の金融的地位は大きく毀損する。米国にも痛手だが、米国はそれに怯まず、中国を叩くであろう。米中デカップリングの実現へ向けて、さらに一歩前進するであろう。