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米中の対立が深まるとともに、米国の対中圧力は一段と厳しくなってきた。すでに、貿易・技術の締め付けを行なっているが、外に資本市場で中国企業締出しを強化する構えである。だが、中国から伝えられる米国への対抗策は、稚拙なものばかり。中国は、保有する米国国債1兆ドル余の売却をちらつかせている。米国側は、全く無意味で素人が考える策だと、笑われているほど。

 

国際金融市場を掌中にしている米国に対して、小技を掛けたところで怪我するのは中国なのだ。その現実を知らないから、米国に向かって「対等」を演じ粋がっているのが習近平氏とその一派の盲動である。下記の記事は、中国の一方的義務の放棄で、米国投資家を損させるという「奇襲策」である。

 

国際金融市場では、「信頼」が絶対的な担保である。その担保が一方的に外されれば、中国企業は世界中から信頼を失うことになる。世界での起債もビジネスの契約も不可能だ。信頼できないからだ。また、米国政府が、黙って引き下がると想定しているところがナイーブである。米国は、関税率を引上げ、それで投資家の穴埋めをするであろう。要するに、中国には有効で合法的な対抗策がないのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(5月23日付)は、「米中対立、資本市場にも火種、中国対抗の構え」と題する記事を掲載した。

 

米中対立が資本市場にも及ぶとの警戒感が市場で広がり出した。米国側は上院が中国企業を念頭に会計検査を拒んだ外国企業を上場廃止する法案を可決するなど、対中姿勢の硬化が鮮明だ。対抗して中国当局も米国投資家をリスクにさらす手段を打ち出すとの観測がくすぶる。中国企業が発行したドル建て債などについて、米投資家の利益を損なう制度見直しを通じ、米側を揺さぶるとの見方も浮上してきた。

 

(1)「中国側が米国への対抗策として利用するのではないかと投資家が懸念を募らせているのが「キープウェル」と呼ばれる条項だ。一般に、親会社が子会社の財務を良好な状態に保つことを約束する内容で、海外で社債を発行して資金調達する子会社を支援するために付けることが多い」

 

「キープウェル」条項を外して、中国企業の子会社に債務不履行させ、米国投資家に損させるというのだ。これほど、幼稚な話を聞いたことがない。この程度の知識しかないとすれば、呆れるほかない。これで信頼を失うことが、ブーメランとなってどれだけの損害に膨らむか。そういう想定ができないとすれば、ビジネスの継続は不可能である。

 

(2)「5月上旬。経営再建中の国有企業、北大方正集団が、「キープウェルを付した債券は(支援の対象として)検討しない」との表明が伝わると債券市場に動揺が走った。北大方正は子会社が発行したドル建て社債17億ドル(1830億円)にキープウェルを付与しているが、償還が危ぶまれている。同社は過去の野放図な投資や買収がたたり、日本の会社更生手続きにあたる「重整」を進めている。裁判所の判断次第では「キープウェルが無効になる可能性がある」(上海天尚弁護士事務所の郝燦弁護士)」

 

上記の国有企業、北大方正集団のケースは、意図的でないだろう。親会社の経営内容がよくて、意図的に米国投資家に損をさせる目的で「キープウェル」を外す場合、その反響は全く異なる。

 

(3)「もともとキープウェル条項は親会社と債権者の契約ではなく、債権者は債券の元利払いを親会社に求めることはできない。「重整」手続き中とはいえ北京大学にルーツを持つ名門企業である同社の社債でキープウェルが機能しなければ、なし崩しに同条項を軽視する動きが広がりかねない。キープウェルが機能しなくなると、子会社の資金繰りへの懸念から社債の価格が下落するなど、特に米投資家が影響を被るリスクがある。格付け会社大手のフィッチ・レーティングスは、同条項がつく中国企業の社債は960億ドル(10兆円強)にのぼると指摘する

 

キープウェル条項がつく中国企業の社債は、10兆円強にのぼるという。これが、意図的に外されるものならば、訴訟になるだろう。米国政府も放置しまい。関税率引き上げで対抗すると見られる。中国にとっては、トータルの計算で損を被るはずだ。

 


(4)「さらに米国で上場する中国企業の株式では、中国の法規制を回避するため使われる「VIE(変動持ち分事業体)」と呼ばれる仕組みに不確実性があるとされる。おおざっぱにいえば企業を2つの部分に分けて、1つが中国事業を手掛け、もう1つが海外上場などを果たす枠組みだ。VIEはアリババ集団や百度など、米国に上場する中国企業に幅広く採用されている。海外投資家は企業の株式を直接保有するのではなく、様々な契約を通じて同等の権利を確保する。だが、現時点では中国の法律にはあいまいな部分が残り、今後の動向によっては海外投資家が権利の制約を受けかねない。14年に米上場を果たしたアリババも、目論見書に、VIEが外資規制に抵触すると中国政府が判断した場合に、投資家が損失を被る可能性を記載している」

 

海外投資家は企業の株式を直接保有するのではなく、様々な契約を通じて同等の権利を確保する。これが、「VIE(変動持ち分事業体)」と呼ばれる仕組みだ。現時点では中国の法律にはあいまいな部分が残り、今後の動向によっては海外投資家が権利の制約を受けかねないという。14年に米上場を果たしたアリババの目論見書に、VIEが外資規制に抵触すると中国政府が判断した場合に、投資家が損失を被る可能性を記載している。中国政府が、この曖昧な部分を悪用すれば、国際紛争に発展する。中国政府はそれを承知で行なうほど、常識知らずであろうか。

 

(5)「実際に中国当局が海外投資家の権利を損ねる動きを本格化させれば、中国側も企業の資金調達が難しくなるという返り血を浴びる。対米けん制手段として取り沙汰されることが多い、中国政府が保有する米国債の売却と同様に「抜かずの宝刀」に近い。それでも、トランプ米政権が中国企業への圧力を強めるなか、米側にくぎを刺す一連の動きのなかにキープウェルやVIEが浮上する可能性は否定できない。中国当局が可能性に言及するなどの動きが出てくれば、市場の波乱要因になる懸念がある。米中摩擦が激しさを増す中で不確実性は高まっている」

 

中国の経常黒字が、間もなくゼロになる。こういう事態では、海外での資金調達が必須条件になる。その中国が、唯一の生き綱を米国への復讐で断ち切るほど愚かであれば、「世界覇権論」は白昼夢となる。もはや、「何おか言わんや」である。