ポールオブビューティー
   

メルマガ158号で、中国による香港への国家安全法制定は、国内経済混乱への国民の怒りを外に逸らす手段であると指摘した。『フィナンシャル・タイムズ』(5月25日付)は、「『香港国家安全法』は習氏のめくらまし」と題する記事を掲載した。前記メルマガと同趣旨の内容であるので、まず、この点を取り上げたい。

 

(1)「中国政府は21日夜、一定の自治制度を持つ香港が自ら治安法制を定めるのを待つ代わりに、全人代で『香港国家安全法』を制定すると発表した。香港国家安全法の導入は、アジアの主要金融センターである香港にとってマイナスであるだけでなく、米中関係にも深刻な影響を及ぼす。トランプ米大統領は発表からわずか数時間後に、全人代がこの計画を強行した場合、極めて強力に対処すると明言した」

 

香港国家安全法は、中英協定による「一国二制度」を骨抜きにするもので違反行為である。米国は、この一国二制度を前提にして香港へ特恵を与えてきた。この前提条件が崩れれば、米国の与えている特恵は見直し対象になる。米国が怒るのは当然である。

 

(2)「こうした流れは習氏にとって有利だ。反発が起きれば、同氏による新型コロナ禍への初期対応に関する不都合な疑問から人々の関心をそらすことになるからだ。また中国政府による香港国家安全法の制定は、国家主義的な中国市民らを勢いづかせることにもなる。彼らは、民主主義を求めて抗議運動の最前線に立つ香港の人々への共感はほとんどなく、米大統領に至っては国際社会における中国の正当な台頭を妨害する存在だとみなしている」

 

習近平氏は、海外でこういう反発が起これば起こるほど、中国国内では有利になるという。民族主義的な擁護論によって、習氏によるコロナへの対応ミスと景気悪化の責任が薄まるというもの。まさに、国内の混乱を海外に向ける独裁者の常套手段が登場するのだ。この点は、私の指摘と全く同一である。

 


(3)「米ワシントンにあるシンクタンク、スティムソン・センターで中国プログラムの責任者を務めるユン・スン氏は、習政権による新型コロナ禍への初期対応の不手際は、習氏に大きな打撃を与えたとは言えないものの、習氏のイメージは確実に傷ついたと見られる。『習氏の地位が深刻な脅威にさらされているというわけではないが、習氏の権威や手法を疑問視する見方は強まった』。21日夜の香港国家安全法を制定するという電撃的な発表は、いわば習氏が中国市民にこう尋ねたのに等しい。『私に付くのか、それとも香港の抗議活動家とトランプ氏の側に付くのか』と」

 

習氏は、自らの責任を帳消しにしようと悪巧みをしている。だが、それによって支払わなければならない代償は大きいのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)は、「金融センター香港に打撃も、国家安全法で懸念広がる」と題する記事を掲載した。

 

中国政府が制定をめざす「香港国家安全法」が香港の金融センターとしての地位に打撃になるとの見方が強まっている。「一国二制度」で担保された独立した司法システムなどが脅かされれば投資マネーや専門人材の流出を招くリスクがある。在香港米国商工会議所など進出企業・団体からは不安の声が出ている。

 

(4)「中国共産党序列3位の栗戦書(リー・ジャンシュー)全国人民代表大会(全人代)常務委員長(国会議長)は25日、全人代で国家安全法について「立法任務を必ず果たす」と表明した。早ければ8月にも香港立法会(議会)を通さずに成立・施行する。「外国企業が最も望んでいるのは香港の安全と安定だ。国家安全法は非常に限られた人にしか影響しない」。香港政府の邱騰華(エドワード・ヤウ)商務・経済発展局長(閣僚級)は25日、日本経済新聞のインタビューでこう強調した。香港各紙には同法を支持する中国国有企業の意見広告が大量に掲載されるなど一大キャンペーンが展開されている。一方、進出企業からは不安の声が漏れる。在香港の邦銀幹部は「どの程度、自由が制限されるのか分からない。米中の対立が深まる中でタイミングが悪い」と顔を曇らせる。米商工会議所は「国際ビジネスの将来展望を脅かす可能性がある」との懸念を表明した」

 

香港国家安全法は、8月にも成立する見込みという。当然、米国の締め付けが始まる。米国が与えた香港への特恵は消えるはずだ。そうなれば、香港の経済的な位置は低下する。それに伴い、香港を利用してきた中国の受ける損害は大きくなるはずだ。香港国家安全法は、天に唾するような愚行である。

 


(5)「香港は金融面で中国本土と世界をつなぐ役割を果たしてきた。厳しい資本規制がある本土と異なり自由に投資できるためだ。香港中文大学の李兆波・高級講師は「国家安全と金融の関係は深い。投資家は香港が安全ではなく政治の影響を受けると判断すれば、香港に投資しなくなる」と話す」

 

香港は、中国の「出島」としての価値がなくなれば、ただの「香港島」に戻るだけの話である。ビジネスあっての香港である。中国は、迂闊にもそれを理解していないようだ。

 

(6)「金融市場では香港を巡る米中関係悪化が最大のリスクだ。香港株は22日に5%超下落、25日は小反発にとどまった。米国で2019年に成立した香港人権・民主主義法は一国二制度が損なわれていると判断すれば香港に制裁を科せる内容。オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は24日、この制裁発動を示唆し「中国が香港を乗っ取れば、香港がアジアの金融センターとしての地位を守るのは困難だろう」と発言した。こうした発言に中国は反発を強める。中国外務省の趙立堅副報道局長は25日、米国が中国の国益を損なえば「必要な一切の措置をとり反撃する」と警告した

 

米国による香港特恵の取消しは、米国企業にも多大の損害を与える。だが、米国政府は香港に代わる地域を探し出す。多分、東京であろう。小池都知事は、国際金融都市構想を打ち上げている。日本にとって香港問題は、目を話せないテーマになろう。