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中国は、まんまと米国の標的ゾーンへ自ら入り込んできた。香港への国家安全法適用が、28日の全人代で可決されたからだ。米国は、香港との一国二制度が廃止されたと解釈しており、中国へ制裁を発動することが決定的になった。

 

米国は昨年11月、香港人権・民主主義法を成立させた。中国による香港への国家安全法適用は、まさに香港人権・民主主義法に抵触するものだ。米国が、香港に与えた特恵(関税など)を廃止するに値する中国の行為である。中国は、これによって大きな損害を被る。同時に、米国企業にも類は及ぶ。米国は、それを覚悟で中国に一太刀浴びせるのだ。

 

『ロイター』(5月28日付)は、「米中全面対決『火の粉』を浴びる香港の不運」と題するコラムを掲載した。

 

米国は中国に、新型コロナウイルス感染のパンデミック(大流行)を引き起こした代償を支払わせる新たな手段を見つけ出した。香港に狙いを付けることだ。

 

(1)「ポンペオ米国務長官は27日、香港にもはや高度な自治はないと宣言した。これにより、米国が香港を中国本土と区別し、貿易や旅行に関して与えてきた特別待遇が打ち切られる可能性がある。ポンペオ氏の主張はおおむね正しい。中国は香港への政治統制を強化する目的で国家安全法制の導入を提案しており、米議会の与野党双方が反発しているのだ」

 

香港への国家安全法適用は、香港の自由と民主主義を制約するものだ。香港人権・民主主義法によって、米国務長官の権限で行動を開始できる。米国が、香港へ与えた特恵廃止が政策のテーブルに乗った。米国は、パンダミックへの怒りも手伝い、中国へ打撃を与える一撃を撃ち込むであろう。

 

(2)「優遇措置がなくなれば、当然香港が真っ先に、そして最も大きな痛手を受ける。香港に展開する米企業は1300社で、米国とのモノ・サービスの貿易額は年間700億ドルに達するだけでなく、トランプ政権が中国に対して発動した関税の適用も受けていない。香港は中国本土が輸入できないような先端技術も利用可能だし、米政府のビザ発給基準は香港市民の方が本土より緩やかだ」

 

米国と香港のモノ・サービスの貿易額は、年間700億ドルに達する。これは、特恵があってのことである。特恵廃止になれば、この年間貿易額は減少する。中国は、香港を出島として利用してきたから、大きな打撃を受ける。

 

(3)「確かに香港は中国に接した、ちっぽけな領土だ。しかし中国は別のリスクとも向き合っている。27日には数千人の香港市民が国家安全法制への抗議のため街頭に繰り出し、数百人が拘束された。そこに米国の優遇措置廃止に伴う経済的打撃が加われば、市民をさらに刺激しかねない。今のところ中国側は天安門事件当時のような強硬手段行使を控えているとはいえ、騒乱がさらにエスカレートすれば、中国政府がどこまで我慢できるか分からない」

 

中国共産党による台湾への強硬策は、本土の内部矛楯を隠蔽するための措置である。だが、香港の騒乱は、本土の不満へ火を付けることにならないか。中国は、大量の失業者を抱えており、香港での強硬策が凶と出るか吉と出るかは分からない。

 

(4)「トランプ大統領はこれまで、香港の民主主義が危機的状況を迎えていても、それほど強い対応を取らず、香港での人権侵害に関与した当局者に制裁を科す権限を得ているにもかかわらず実行していない。優先してきたのは中国との貿易協議の合意だった。ただ11月の大統領選を前に、政治的計算が変わったのかもしれない。新型コロナで4月の米失業率は15%近くに跳ね上がった。そしてトランプ氏は今、中国が適切な感染対策を講じなかったとして責任を追及している」

 

トランプ氏は、今秋の米大統領選を控えて、中国へ強硬策に出ざるを得ない事情がある。米中双方が、それぞれの事情を抱えて、激突するであろう。中国の受けるダメージがはるかに大きいはずだ。

 


(5)「こうしたトランプ氏の態度が、米中対立の新たな局面を生み出している。香港への幾つかの優遇措置を撤廃するとともに、中国の政府当局者や企業を対象とする制裁措置が検討されつつある。一方トランプ氏は、自身の対中強硬姿勢を再選戦略の一部に組み込んだ。野党・民主党の候補指名を獲得しそうなバイデン前副大統領を中国に弱腰だと批判するようになった。米中が政治的にぶつかり合って火花を散らす中で、香港は不運にもその火の粉を浴びてしまう恐れがある」

 

香港では、市民の台湾移住が積極化する。台湾側は、蔡総統の演説によって「受入れ」を表明した。香港民主化派と台湾民進党(与党)との連携強化が行なわれる見通しが強まっている。

 

香港では、中国当局が国家安全法により、香港にある資産を追跡し、差し押さえるとの懸念が広まる。これを受け中国富裕層は、香港から他国へ資産移転に動く可能性が取沙汰されている。香港市場に投資されている資産は、約1兆ドルを超えるという。このうち、半分以上は本土の個人投資家が持つ資金と見られる。この多額資金が香港から流出すれば、香港資本市場は大打撃だ。5000億ドル以上の中国富裕層資金が香港から流出すれば、香港資本市場の縮小は必至であろう。香港は、国際金融都市としての地位が低下する。