テイカカズラ
   


歴史の場面を読むようなシーンだ。中国が、国内情勢緊迫化を隠蔽するため、香港に国家安全法を適用せざるを得ないという場面である。このシーンを分解すると、次のような局面から成り立つ。習氏にとっては、①中国共産党の正当性護持のため、国民の不満を外に逸らす、やむを得ぬ措置になった。これが、②香港に約束されてきた「一国二制度」を形骸化させ、香港の自治が葬り去られる。この結果、③中国は米国の怒りを買う。以上の連続シーンは、玉突きに喩えられるであろう。

 

米国は、香港の自治が維持される前提で、これまで本土と異なる待遇を香港に与えてきた。その好意が、香港国家安全法適用で消えるのである。中国は、香港を出島にして多大の利益を受けてきた。それだけに、米国の対応変化から大きな影響を被るはずだ。中国は、米国へ報復すると息巻いているが所詮、「引かれ者の小唄」となろう。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月28日付)は、「米国務省、香港は自治を失ったと正式に判断」と題する記事を掲載した。

 

(1)「米国務省は、香港が中国からの自治を失ったと正式に判断した。マイク・ポンペオ国務長官が27日付の発表文で明らかにしたもの。今後の米中の経済関係に影響を及ぼし、対中制裁につながる可能性がある。国務省は1992年の「香港政策法」に基づき、香港の自治状況に関する評価を義務づけられている。同省はこの日、香港の自治が守られなくなったと米議会に報告した。

 

米国は、昨年11月制定の「香港人権・民主主義法」によらず、1992年の「香港政策法」に基づいた行動を中国に発動する。伝家の宝刀を抜く場面である。具体策は、29日(米時間)にトランプ大統領か発表される。

 


(2)「ポンペオ氏は発表文で「この判断には全く喜びを感じないが、健全な政策決定には現実を認識することが必要だ」とした上で、「中国が自国を香港のモデルにしようとしていることは今や明白だ」と述べた。米国が当時是認した特別な地位は、これまで香港が欧米式の法治下にある世界金融の中心地であるとの「お墨付き」として機能してきた。だが国務省が判断を変えたことで、米国をはじめとする外国企業の香港に対する信頼が揺らぎそうだ」

 

米国が、これまで香港に与えてきた特恵の背景は、欧米式の法治下にある世界金融の中心地であることを高く評価したものである。その前提として、欧米式の法治が保証されてきたことが大きい。世界の金融センターには、自治が不可欠である。その空気が消える以上、金融センターであり続けられない。米国は、「一国二制度」違反を理由にして、中国に死刑判決を与えるに等しい「特恵」取消しに動く。その具体的内容は、次のパラグラフに示されている。

 

(3)「米国は香港への特別待遇の一環として、中国へは販売禁止の先端技術を搭載した機器の輸出を認めている。また世界保健機関(WHO)、アジア開発銀行(ADB)などの国際機関に香港が代表を送ることを支持してきた。米国への入国も香港市民は中国人より簡単だ。米国は香港政策法の下、香港を中国本土とは別の存在として扱ってきた。これまで米政府は毎年、香港の自治が守られていることを認め、貿易や投資といった分野で独立国家並みの待遇を与えてきた」

 

米国は、香港に対して次のような独立国家並み待遇を与えてきた。

1)中国へは販売禁止の先端技術を搭載した機器の輸出を認めている。

2)香港にWHOやADBへ代表を送ることを支持してきた。

3)香港市民は米国への入国も中国人より簡単な手続きで済んだ。

4)貿易や投資の分野で本土よりも優遇してきた。

 

中国が、香港を「出島」として利用してきたのは、4)の貿易や投資の優遇であろう。事実、中国は貿易や投資で香港が統計上で最大の取引先になっている。香港をクッション役に利用してきたのだ。

 

2)で、香港がWHOやADBで参加できたのは、米国の1992年の「香港政策法」に基づいた結果である。今後、香港はWHOやADBに参加を送れなくなるのか。台湾との扱いで、バランスを取るのだろう。台湾のWHO参加の道が、開かれる可能性も出てくるだろう。

 

(5)「ポンペオ国務長官は今回の判断の要因に、中国政府が香港に一方的・恣意的に国家安全法を導入しようとしている点を挙げた。米政府は今後も自治を求めて苦闘している香港の人々と共にあると述べた」

 

米国としては、香港市民に対して厳しい扱いになることに心を痛めていることがわかる。米国への入国では、従来通りの措置を継続することになるのかも知れない。