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中国14億人の市場は、企業にとって魅力的である。だが、中国を輸出基地にすることは、米中対立で危険過ぎる。こういう企業の判断が強くなっているようだ。中国は、不動の世界のサプライセンターにするつもりだったが、足元からその計画は崩れている。調子に乗って、世界制覇の幻想に取り憑かれた結果である。外資系企業の中国進出が、押し上げた中国GDPは、中国独自の力によるものとする錯覚に陥っている。中国の真の実力はどれほどか。それを、冷静に見つめることが必要だ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(5月28日付)は、「米中新冷戦、企業は消耗戦」と題する記事を掲載した。

 

中国でウィンウィンの取引といえば中国側が2度勝つことだ、というのは海外企業の間で有名なジョークだ。ところが米中の対立で企業は「ルーズルーズ(両者とも負け)」になろうとしている。ここ数カ月間、両国は新型コロナウイルスを巡り、非難や陰謀論の応酬をしてきた。加えて米上院は先日、中国企業の米市場からの締め出しにつながりかねない法案を可決した。米商務省は華為技術(ファーウェイ)への制裁を強化し、中国も報復を検討している。中国の国会に相当する全国人民代表大会が「香港国家安全法」の制定方針を決めたことで、中国本土と海外企業の橋渡し役としての香港の地位も危うくなった。

 

(1)「米中対立は、一時的な対立ではない。コロナ危機に見舞われる前から政治も企業の姿勢も変化していた。上海の米国商工会議所が昨夏行った調査によると、向こう5年間の中国事業の見通しに悲観的な企業が21%に上った。9%を超えたのは2000年以降で初めてだ。広大な中国市場に巨費を投じてきた企業は今更撤退することなど考えられない。だが国境を越えるモノの移動が難しくなるにつれ、中国市場向けには現地生産し、それ以外のところでは中国企業抜きの供給網を拡充するという二正面作戦をとる動きが強まっている」

 

生産機能の分散は、リスク分散でもある。最近のコロナ禍克服のために、生活改革のモデルとして、「集中から分散」が指摘されるようになった。企業の生産拠点の立地でも、「集中から分散」へと転換する気運だ。となれば、世界生産の「集中」で最大の利益を上げてきた中国経済に逆風が始まったと言える。こういう流れは、いったん始まると大きなうねりになる。第4次産業革命で、少量生産でも生産コストアップを回避する手法が編み出されている。時代変革は、コロナ禍が大きく突き動かし始めたのだ。

 


(2)「ハードウエア業界は信じがたいジレンマに直面している。仮に米政府の輸出規制強化後も、米クアルコムがファーウェイにスマートフォン向けの半導体を供給し続けられれば、中国人民解放軍と深い関係を持つこの企業に最先端の米国技術が流れることになる。
供給できなくなればクアルコムは海外の競合企業に市場シェアを譲ることになり、売上高が落ち込む。研究開発費を削らざるを得ず、IT(情報技術)分野での米国の優位は揺らぐだろう。中国で長い間ビジネスをしてきた米企業のトップは「双方に犠牲が出ることは避けられない」と話す。企業は目立つ行動を避け、当局者への説明を果たし、他国へも事業を広げるしかない。あとは状況改善を願うだけだ。とはいえ11月の米大統領選でのトランプ大統領の落選に望みをつなぐべきではない。トランプ氏が両国関係悪化の根本原因ではないからだ」

 

米中対立は、トラン氏が大統領を止めれば解決するレベルの問題でない。次のパラグラフで指摘されているように、中国の「不法ビジネス」に原因がある。これは、口幅ったいことだが、本欄の一貫した見方でもある。トランプ氏は、マッチを擦っただけ。中国が、そこに不法という名のガソリンをまいていたことが原因だ。

 

(3)「中国はこれまで自由貿易や企業の独立性、国際ルール、知的財産の尊重などで他国と協調する意志を何ら示してこなかった。もはやウィンウィンの関係を目指そうとすることはあるまい。米軍も地政学的に競合する国に頼って最良のIT機器をそろえることはしないだろう。米国の貿易規制に詳しい弁護士のピーター・リヒテンバーム氏は「半導体は21世紀の国家安全保障に絡む最も重要な産業で、国防総省は現状のような海外頼みにはしたくないはずだ」と言う」

 

ソ連崩壊で、世界は永遠平和が到来したと歓迎した。それも束の間、中国という新興勢力が台頭して、米国へ挑戦を始めた。どこの国も中国を侵略した訳でない。米国は、お人好しにも中国の民主化を手伝うという名目で、米国の技術のすべてを長年、開放してきたのだ。その善意を逆手にとって、米国に代わって世界王者になりたいという野心を持ったのが中国である。こうなれば、米国は「ヤンキー魂」でトコトン戦う。これが、米中冷戦の真相である。米国が、絶対に退かないと見るのは、過去の米国の行動から明白だ。

 


(4)「トランプ氏が大統領でなくなれば、両国の対話は今より次元が上がるかもしれないが「問題が消え去りはしない」と話す。中国市場を見切れないグローバル企業は、この先も両国の対立に備える必要がある」

 

米中対立は、中国経済が行き詰まるまで続くであろう。習近平氏が、国家主席でいる限り「和解」はあり得ない。習氏が、国家主席を辞めざるを得ない時になって、初めて中国は米国と話合う姿勢を見せるであろう。その時はいつか。誰にも分からない。ただ、そういう時期が、必ず来ることは間違いないだろう。世界史と大国の興亡史をひもとけば、中国の専制主義が不利であることは明らかである。民主主義が滅んで専制主義が勝ち残る。世界史の逆転である。そういうことが起これば、人類の一大不幸である。