テイカカズラ
   

米中対立は、冷戦状態に入っている。この結果が、中国経済に大きな痛みを残すことは不可避となった。中国の過剰負債は、これ以上の増加に耐えられない状態であるからだ。とりわけ家計負債が急増しており、すでに住宅ローンの返済が急速に滞っている。

 

こういう状況の中で、米運輸省は3日、中国の航空会社による米中間の運航便を6月16日から禁止すると発表した。米航空会社が新型コロナウイルスの影響で停止していた中国便の再開を中国政府に申請していたが、中国側が認めないため対抗措置を取るという。米中の対立が一段と激しくなっている。『日本経済新聞 電子版』(6月4日付)が伝えた。

 

中国の航空会社4社は、新型コロナの感染が拡大した後も大幅に減便したものの、米国との運航を一部続けてきた。運航を止めれば米中間の人の往来が一段と厳しく制限されることになる。米国は、中国とのデカップリングを準備しているが、離婚に喩えれば双方が痛みを覚えるもの。米国の受ける痛みはどの程度か。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月3日付)は、「中国との『離婚』、米国は高い代償を支払えるか」と題する記事を掲載した。

 

(1)「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)や中国による香港への統制強化を背景に、欧米諸国では中国からの経済的なデカップリング(分離)を求める声が高まっている。ドナルド・トランプ米大統領は5月、「(中国との)関係自体を断つ」ことも辞さない構えをみせた。フランスやオーストラリアも中国に対する深い懸念を表明している」

 

米国だけが、中国に愛想をつかした訳でない。フランスや豪州も中国への懸念を深めているのだ。トランプ大統領が、激怒の余り「ナタ」を振るうのでなく、ヨーロッパも中国という国に呆れかえっている。

 

(2)「ロイター通信の報道によると、米国は250億ドル(約2兆7000億円)に上る「(製造業拠点の)本国回帰基金」を検討しているとされるほか、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への締め付けも加速させている。米国はさらに、国内ハイテク企業や大学への就職・留学を目指す中国人エンジニアや学生へのビザ承認を遅らせるか、取り消すなどして、米中の人材交流も標的にしている。巨大な中国市場は無視できない存在だ。調査会社ロジウム・グループによると、米国の中国への直接投資は2012年以降、年間150億ドル前後で安定している。だが、地政学やテクノロジー、イデオロギー上の競争が自己実現的になっていく中で、ある程度の米中関係の巻き戻しは不可避のようにみえる」

 

中国は、欧米諸国から警戒されており、中国の投資を拒否し始めている。これは、将来の高収益地域から締め出されることで、それだけ投資機会を奪われることを意味する。中国が財政困難な発展途上国を相手に「一帯一路」事業を手がけても見通しは暗い。米中冷戦は、投資機会という点でも中国の完敗である。

 

(3)「その代償は米中双方にとって相当なものになるだろう。米国が中国に頼っているのは、マスクや「iPhone(アイフォーン)」の購入だけではない。中国企業は米国の先端ハイテク技術の主要顧客であり、中国人学生が米大学を資金面で支え、数十年に及ぶ科学・数学の基礎教育に対する投資不足を穴埋めしてきた」

 

短期的には、米国の方の「離婚コスト」が高いものにつくかもしれない。サプライチェーンのハブが中国にあるからだ。中期的には、生産機能の「脱中国」で、中国は米国という世界最大の輸出市場を失って、経済はキリモミ状態に落込む。恒常的な中国のGDP成長率は、2%見当に落込むという予測が早くも出ている。敗北は、中国である。中国は、米国という技術ソースから切り離される。自力更生という訳にはいかないのだ。

 


(4)「米国の大学について考えてみればいい。過去10年に連邦政府による研究費支出が低迷する中でも、米大学は科学分野のイノベーションで最先端の地位をなお維持している。その理由の1つに、高い費用がかかる米大学の学位に対する海外からの旺盛な需要がある。中国人学生はその最大の顧客で、外国人留学生全体のおよそ3分の1を占める。中国人学生が支払う教育費やその他の関連支出は2017年に139億ドルに上った。非営利団体のピュー慈善財団によると、これは同年における連邦政府の大学向け研究費のおよそ半分に相当する。中国人学生の専攻は圧倒的に科学に集中しており、そのまま米ハイテク企業に就職するなどして、労働コストの引き下げにも寄与している」

 

中国からの留学生の減少が、米国経済に与える損害は大きいという。ただ、中国留学生の減少でも、スパイによる技術漏洩の損失を考えれば総合コストは安くなるであろう。

 

(5)「軍事上の潜在的な競合国から中核のネットワーク機器を購入するのは賢明ではなく、安全保障上の影響が明確なテーマに関する研究協力は厳しい審査を受けるべきだ。必要不可欠な医療備品はより本国に近い場所で生産する必要がある。だが、サプライチェーンや教育分野における米中のつながりを断とうする広範な取り組みは、米国の競争力にも大きな代償をもたらすという点に米国内の安全保障タカ派は留意すべきだ。仮にデカップリングが進めば、それによって生じる不足分を穴埋めするため、連邦政府は基礎研究(および科学・数学教育)に対する支出を一段と拡大する必要があるだろう」

 

米国は、中国排除を最終決断する場合、これまで中国が占めていた部分の「空き」をどこの国によって埋め合わせるか、というバランス調整が必要になる。当然の話だ。そういう補正策を持たずに一路、デカップリングに進めるはずがない。それは、言うも野暮ということだ。

 

(6)「そうなれば、増税に加え、中国人の頭脳流出を相殺するため、インドなど外国から優秀な人材を求め、一段と積極的な移民受け入れ政策を取り入れる必要が生じるかもしれない。さらに米国の消費者は、安全かつ多角化された高価なサプライチェーンのために、より高い値段を支払う覚悟が必要になる」。

 

米国が、自らの覇権に向かってあからさまに挑戦してくる中国へ、妥協する必要があるだろうか。過去の歴史でも、そういう例は聞かない。それが、「安全保障のジレンマ」と言われる部分だ。中国が挑戦すれば、米国と同盟国が防衛を固めて、中国に挑戦を諦めさせるはずだ。旧ソ連の崩壊は、その良き例である。中国が、一国で西側陣営と対抗する無益さを考えるべきだ。そうすれば、答えは自ずと出てくる。中国が、それを覚るまで冷戦という緊張状態は続くであろう。