a0001_000269_m
   

国家は、最高指導者の性格によって対外政策を意のままに変えるのだろうか。習近平氏が中国国家主席に就任した2012年以来、中国は領土的野心を燃やしている。それが、国民の愛国心を高める、最も近道と考えているからだ。

 

先の中印国境紛争は、中国の領土的野心の強さを明確にした。紛争を起こしたヒマラヤの渓谷には、事前に重機などを持込んでいたことが、衛星写真に捉えられている。中国の野望を証明する動かせぬ証拠だ。ロイターが報じている。

 

毛沢東は、朝鮮戦争に参戦した。第二の毛沢東を目指す習近平氏は、領土を拡張して、「実績」を上げなければならない。そう思い込んでいるのだろう。周辺国から一層の警戒心を持たれるマイナス面を忘れている。中国にとって、これが最大の損失である。外交の孤児になるからだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月22日付)は、「中国の領土的野心、中印衝突で浮き彫りに」と題する記事を掲載した。

 

中国とインドの国境付近で15日に発生した両国軍の衝突は、中国政府が自国周辺の領有権主張を巡り、一段と強硬姿勢を取るリスクを浮き彫りにした。

 

(1)「この衝突でインド軍兵士少なくとも20人が死亡した。中国側の死傷者数は明らかではない。インドの安全保障当局者によると、中国は18日、衝突時に拘束していたインド軍兵士10人を解放した。兵士らを拘束していた間、中国は外交・軍事経路を通してインドと交渉していた。中国軍が自国国境近辺で他国軍と衝突して死者を出したのは、知られる限りでは約30年ぶりだ

 

下線部のように、中国軍が国境周辺で他国軍と衝突して死者を出したのは約30年ぶりである。しかも偶発的な衝突でなく、事前に準備をした衝突であることは、中国が明確に領土的野心を燃やしていることの証明であろう。その裏にあるのは、中国の国内経済の行き詰まりである。

 


(2)「中印の兵士らは数週間前から、ヒマラヤの実効支配線を挟んでにらみ合いを続けていた。外国政府は中国の習近平国家主席が外交問題を巡って強硬姿勢を強めていると指摘しており、ヒマラヤを含め長年続く複数の領土問題が今年に入り深刻化している。保守系シンクタンクのヘリテージ財団(本部ワシントンDC)の研究員、ジェフ・スミス氏は「インド国境の危機は、中国の他の近隣国にとって、中国政府が領土問題へのアプローチで一段のリスクを取る意欲を強めていることを示す兆候となるだろう」と指摘する」

 

下線のように、中国は軍事力で領土拡張意思を明確にしている。これは、南シナ海や東シナ海での領土的野心を鮮明にしてものと見なければならない。習氏が突然、このような軍事行動を始めた裏には、2022年の国家主席3期目の就任を確実にするための布石であろう。「強い国家主席」を演出して、支持を集めようという狙いである。第二の毛沢東を目指す習氏にとって、軍事行動開始など胸が痛む問題ではないのだ。「目指せ毛沢東」の前に、理性は消えている。同時に、国内経済の深刻化をカムフラージュする上で、愛国心を高める軍事行動が必要なのだ。

 

(3)「習氏は2012年に権力を掌握して以降、強力で団結した国家という「中国の夢」を実現する正当性を主張してきた。米国をはじめとする西側諸国が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)対応に追われる中、習氏は自身のビジョンの実現へと歩を進めている。これには香港や台湾など、国際社会の反発に長らく直面している問題や、南シナ海、そしてインドとの領有権争いが含まれる」

 

習氏には、亡き父が副首相止まりで首相になれなかった無念さを心の奥に秘めている。その父の無念さを、子どもである習氏が晴らすという「個人レベル」の執念が働いていると見るべきだろう。人間の動機には、意外とこういう側面が働いているものだ。それは、年長者でなければ分からない心理分析である。となれば、この妄念は、一段と膨らむ危険性が高いだろう。

 


(4)「専門家の間では、今回のインドとの衝突は、中国との領土問題を抱える他国にとって示唆に富んでいるとの見方がある。インド当局者は衝突について、実効支配線の自国側とみなす領域で、両国軍がこの領域に踏み入らないことで合意していたにもかかわらず、中国軍兵士が構造物を立てているのを、インド軍兵士が発見したことが発端だったと述べた。一方の中国政府は、インド軍が国境の中国側に侵入して衝突をあおったとし、中国は常にガルワン渓谷の主権を保持してきたと主張している」

 

中国は、いろいろと詭弁を弄しているが、衛星写真が中国の事前準備を捉えている。インド側の主張が正しいのだ。偶発的衝突でなく、中国の意図的衝突であることは間違いない。中国が、こういう軍事行動に出た裏には国内経済事情の悪化を隠蔽するほかに、海外の反応を探っている。これにより、次なる行動を南シナ海で始める。その下準備と見るべきだ。中国海警局の「半戦艦」で、ベトナム・フィリピン・台湾などの所有する島嶼を占領させる計画であろう。海警局(日本の海上保安庁)が、中国軍と共同訓練計画を発表したことは、その準備である。