テイカカズラ
   

6月23日、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録(『それが起きた部屋:ホワイトハウス回顧録』)が出版された。ホワイトハウスは、裁判所へ出版差し止め請求を提出。すでに、メディアで概略が報道されており、出版差止めの意味はないと却下された。トランプ大統領の秘密の会話が多く収められており、当該国との外交関係に齟齬を来たすリスクが大きくなっている。

 

日本は、『ボルトン回顧録』でなんら被害を受けないが、韓国は直撃された。文大統領が、対北朝鮮政策に対する接近方式で、「統合失調症」に罹っているとまで酷評されている。回顧録で、「文大統領が支持している中国の『水平的かつ同時的接近』方法は、あたかも私(ボルトン氏)には北朝鮮が要求している『行動対行動』方式のように聞こえる」と指摘している点だ。文大統領が、米韓同盟の立場を離れ、中朝の立場で議論していると皮肉ったもの。

 

ボルトン回顧録が、この程度の問題に止まっていれば「笑い話」で済まされる。だが、米国の国益をないがしろにした、という批判が出てきた。今年11月の大統領選挙前という時期の回顧録出版が、米国の利益と自由世界の利益に貢献するかという根本的な視点である。WSJの社説は、それを静かに説いている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月19日付)は、「ボルトン回顧録、問われる公職者への配慮」と題する社説を掲載した。

 

(1)「トランプ氏の個人的言動に関するボルトン回顧録の記述は、正しいように思える。なぜなら、トランプ大統領が公の場でも似たような発言をしているからだ。われわれが知る限りでは、ボルトン氏がうそをついたことは一度もなかった。しかし、われわれは同時に、公職者の名誉への配慮はどうなったのか、疑問を感じざるを得ない。大統領は、補佐官らが秘密の暴露を控えることをいくらか期待してもいいはずだ。特に外国の指導者らとの個人的やりとりに関しては、そうであるべきだ。大統領に仕える側近らは、その大統領が退陣するまでは大統領個人に関する事柄について記述しないというのが、以前は慣例だった

 

この回顧録の出版社のCEOは、名うての「出版業者」である。ベストセラーづくりの名手とされている。出版社が、ボルトン氏に出版を持ちかけたのであろう。ボルトン氏は、乗せられた面も否定できない。トランプ氏もボルトン氏も「公職者」という立場を忘れている、という指摘は正しい。

 


(2)「昨今は、ホワイトハウスを去った途端、名声を得ようとする側近が多すぎる。ボルトン氏はトランプ氏が再選に挑んでいる最中にそれをしたことになる。トランプ氏によるボルトン氏の扱いは良くなかったが、大統領が良い扱いをする人は近親者以外ほとんどいない。たとえ、ボルトン氏の出版動機がトランプ氏の再選を阻むことだったとしても、ボルトン氏がマイク・ポンペオ国務長官の私的なコメントを公表して良いわけではない。ボルトン氏がしていることは、トランプ大統領に影響を与え、ひどい政策ミスを回避させるためのポンペオ氏の能力を削ぐことになる。ボルトン氏の近著は同氏の輝かしいキャリアに汚点を残すものであり、その内容は11月の選挙で誰が勝とうとも、国の助けにならないだろう」

 

ここでは、トランプ氏の対外政策のブレーキ役のポンペオ国務長官の立場を悪くさせることが、国益ひいては自由世界の利益に反する結果をもたらす点を危惧している。対中政策は、自由世界の命運を決するほど重要なものだ。ボルトン氏に、こういう大局観があれば、この時期の出版にはならなかったであろう。

 

(3)「有権者は、トランプ氏にあと4年の大統領の地位を与えるかどうかを決める際に、過去3年半の間に学んだことに加え、こういった全ての出来事で判断を下すことができる。トランプ氏の性格的な問題と、これが2期目の政権にもたらす大きなリスクは、バイデン氏の活力が衰えつつあり、民主党の急進左派への傾斜が進んでいることとの比較で評価されることになるだろう。「民主主義は最悪の政治形態であるが、それは他の全ての政治形態を除外した場合のことだ」というウィンストン・チャーチルの言葉を思い起こすべきだろう」

 

今回の回顧録で、大統領選にどのような影響が出るか。出ないはずはない。民主党のバイデン氏が有利になるとしても、バイデン氏の活力が衰えている。この穴を埋めるべく、民主党急進左派への傾斜が強くなれば、米国に新たなトラブルが生まれる、と指摘している。民主主義に欠陥はあるが、専制主義よりも優れている。この原点を認識すべきであろう。

 


『ハンギョレ新聞』(6月23日付)は、「ボルトン『懲役刑の判決を受ける可能性も』ホワイトハウス、機密暴露戦に警告」と題する記事を掲載した。

 

(4)「米ホワイトハウスのピーター・ナバロ通商製造政策局長は21日(現地時間)、CNNのインタビューで「何よりもジョン・ボルトンが高度な機密情報を非常に膨大な本全体にばら撒いた」とし、「彼は本による収益を得られなくなるだけでなく、懲役刑を言い渡される危険にもさらされている」と述べた。「ボルトンは米国の国家安全保障の面で非常に深刻な影響を及ぼし、その対償を払わなければならない」ということだ。ナバロ氏は今月18日、ボルトン氏の暴露をカネ目当ての「リベンジポルノ」に例えたこともある」

 

ここでは、強いボルトン批判が出ている。ホワイトハウスは、改めてボルトン氏を訴えるだろう。その際、次のパラグラフにある判事発言が気になる。

 

(5)「前日、首都ワシントンの連邦地方裁判所は、ホワイトハウスが提起した出版禁止訴訟仮処分申立てを棄却した。すでにマスコミの報道などを通じて回顧録の主要内容がかなり公開されているだけに、出版禁止の実益がないと判断したのだ。しかし、ロイス・ラムバス判事は「機密保持義務に違反し、機密を公開したことで、国家安保を危険にさらした可能性がある」とし、ボルトン氏の回顧録の出版に伴う収益の没収と刑事処罰に直面する可能性があると付け加えた

 

下線部のような主張が成立すれば、ボルトン氏には「機密保持義務に違反」という汚名が被せられる。印税が没収されるだけでなく、刑事罰まで加えられれば大損だ。儲かったのは、出版社だけという皮肉な結果となろう。