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ドイツはこれまで、米中共存の中で双方への輸出で稼いできた。その幸運が、米中冷戦に伴い消えかねない危機に立っている。それでも、西側に「本籍」がある以上、最低限の義務を果たさなければならない。G7外相が一致して、中国による香港へ国家安全法適用反対の声明を出した。こういう形の声明では、G7の一員として行動できる。だが、これから舞い込む米中対立局面で、ドイツは外交と経済のバランスをどう取るのか。難しい局面を迎える。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月25日付)は、「米中対立で板挟み『三角関係』に揺れるドイツ」と題する記事を掲載した。

 

貿易や人権などさまざまな問題を巡り、米中の対立が先鋭化する中で、ドイツがいずれの味方につくか立場を決めきれないでいる。ドイツはアジアを除く先進国の中で、米中両国と最も深い経済関係を築いており、米中「冷戦」時代を迎えれば、最大の犠牲者となるのはドイツだ。

 

(1)「過去20年に米中双方と貿易関係を深めたことで、ドイツは大きな恩恵を受けてきた。安定した経済成長、ほぼ完全雇用にある労働市場、新型コロナウイルス流行を受けた経済対策として1兆ユーロ(約120兆円)をつぎ込めるだけの財政力――これらはすべて米中両国との貿易がもたらしたものだ。だが、ドイツが米中いずれにも肩入れすることを拒んでいることで、中国に対して一枚岩で臨むという欧州の包括的な取り組みを弱めており、欧州が新たな世界構造を形成する力を削いでいる」

 

ドイツが、中国に対して及び腰であることは事実だ。ビジネス優先という姿勢が滲んでいる。だが、米中冷戦は不可避である。最近見られる中国の「好戦性」は、国内経済の落込みをカバーするように、一段と激烈化している。先のインド軍との紛争も事前に十分な準備をした上での「侵略」であった。宇宙衛星が、中印紛争地点の近くに、新たな建物が秘かにつくられていることを発見している。中国は、悪質な国家に変貌した。米中を主要輸出市場にするドイツにとって、「二股」は難しくなろう。これは、韓国についても言えること。

 

(2)「米国は、近代ドイツの構築を支援してきた。米独は第2次世界大戦以降、共通の価値観や民主制度、一連の国際合意や提携によって結ばれている。しかし、ドイツの視点から考えると、米中のいずれかを選択するのは微妙な問題だ。実のところ、輸出主導型のドイツ経済にとって、どちらも選べないというのが本音だ。ドイツは米中両方を必要としているのだ。中国はドイツにとって最大の貿易相手国であり、米国は最大の輸出市場だ。ドイツは昨年、1190億ユーロ相当の財を米国に輸出する一方、中国には960億ユーロ相当を輸出しており、その規模はきっ抗している」

 

ドイツの対GDP比の輸出依存度は、38.20%(2018年:世界45位)である。韓国は38.61%(同43位)である。ちなみに、日本は14.76%(同136位)である。日本の場合、現地生産を強化している。円相場急騰に悩んだ経験から、海外へ工場建設して「現地企業」となって定着している。米中冷戦が起こっても、ドイツや韓国に比べれば、影響すくない。

 

(3)「コメルツ銀行のチーフエコノミスト、ヨルグ・クレーマー氏によると、独上場企業は売上高の2割近くを米中双方で稼ぐ。ドイツ経済省によると、国内雇用の約28%は間接的なものも含め輸出に関連しており、製造業に限れば、この割合は56%に上る。ドイツの人口は米国の約25%にすぎないが、輸出規模は米国にほぼ匹敵する」

 

ドイツは、通貨が「ユーロ」に変わって随分と為替上での利益を得ている。EU全体の通貨がユーロである。かつての「マルク」から見れば、安い評価である。これが、ドイツの輸出シフトを強めさせている。ドイツは、EUにおいて為替相場で最大の利益を得た国である。

 

(4)「ドイツの主力産業である自動車業界にとって、中国はすでに最大の市場だ。独フォルクス・ワーゲン(VW)の先月の中国販売台数は、前年同月比6%増の33万台と、同社の世界販売の半分以上を占めた。VWのヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)は、中国をVWの「第2の故郷」と呼んでおり、最近では新型コロナに対する中国の対応を称賛した。VWは先月、中国の電気自動車(EV)市場に20億ドル(約2100億円)を投じる考えを明らかにしている。他の欧州諸国は、ドイツほど中国との経済的な結びつきが強くない。世界銀行によると、対中輸出規模でドイツは、フランスとイタリアの合計のおよそ3倍に上る

 

ドイツの自動車は、先進国の中で最初の中国進出を果たした国である。中国は、これを恩に着て、ドイツへもろもろの便宜を図っている。日本は、先進国で最も中国進出が遅れた国である。この出遅れが、シェアの差となって現れている。だが、トヨタはEV(電気自動車)やFCV(水素自動車)の技術を公開して、提携する仲間づくりに励んでいる。20年後には、中国で最大のシェを握る戦略を発動させた。

 

(5)「ドイツ企業幹部の多くは、中国による手続き上の障害や技術移転の強要、補助金やさまざまな保護主義的な障壁などに対して、我慢の限界にきていると水面下で漏らしている。中には、中国に対して、トランプ大統領のような強硬姿勢で臨むよう、独政府に求める声もあるという。一方、在中ドイツ商工会議所の首席代表イェンス・ヒルデブラント氏は、独企業の間では、中国での研究・開発(RD)を増やし、サプライチェーン(供給網)を短縮化することで、中国戦略を調整する動きが広がっていると指摘する」

 

ドイツ企業も、目先の利益で満足しているわけでない。中国の度を超して技術公開要求に辟易している。これを理由に、中国戦略を変更する動きを見せている。中国では、独自のR&Dを展開させ、ドイツ本国とは別の流れにするもの。トヨタは、すでにこの方式に転換した。

 

(6)「背景には、技術面で世界を2つに分けるとの考えがあるという。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが先日公表した調査では、ドイツ人が、対中関係を対米関係と同じくらい重要だと考えていることが分かった。ドイツ当局者も、中国が独裁を強めていることを深く懸念しており、経済問題で譲らないことについても不満を募らせている」

 

 ドイツ人は、日本人に比べれば中国に対して寛容である。日本は、尖閣諸島問題で中国人の身勝手さを骨の髄まで知らされて、警戒している。ドイツは、中国からしっぺ返しを受けないように祈るのみだ。