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中国は、あらゆることが監視対象である。個人でも銀行から預金を現金で引き出すことに監視の目を光らせている。現金を持出して米ドルに交換すれば、中国の外貨準備が減少し打撃を受けるためだ。これを抑えるには、民間に現金を持たせないという結論になり、2022年の北京冬季五輪までに「デジタル人民元」をつくるという計画だ。

 

人民元がデジタル化されれば、瞬時に取引過程が政府(中国人民銀行)の知るところになる。プライバシーは雲散霧消だ。ここまでやって、外貨準備高3兆ドルを死守するという涙ぐましい努力である。崩れゆく中国経済を必死で守る姿が「デジタル人民元」である。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月26日付)は、「中国、現金取引を監視、資本流出防ぐ」と題する記事を掲載した。

 

中国が大口の現金取引の監視を強める。7月から河北省で150万円以上の現金を銀行から引き出すなどした場合、当局への取引の報告や紙幣番号の記録を銀行に義務づける。中国が発行準備を加速するデジタル人民元との相乗効果で資本流出を防ぐ狙いとみられる。

 

(1)「中国人民銀行(中央銀行)の通知によると、まず地域を限って現金監視を試す。7月に河北省、10月から浙江省と広東省深圳市で始める。効果を確認できれば2022年にも全国に広げる。人民銀は「大口の現金による違法な犯罪行為を抑制する」と狙いを説明する。買い物など少額決済では現金の使用が減ったが、大口の現金取引は増えているという。中国は22年2月に北京で開く冬季五輪大会までにデジタル人民元を発行する方針で、現金監視を全国に広げる時期と重なる」

 

中国は、人民元をIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)に昇格させる際、資本自由化と自由変動相場制移行を約束した。これは単なる「口約束」で、実行する素振りも見せない国である。それどころか、現金の大口引出しを抑制して米ドルへの交換を阻止するという、IMFが聞いたら卒倒するようなことを始める。外貨準備高3兆ドルを守って、国威発揚に資するという逆立ちした考えだ。

 


(2)「人民銀の易綱総裁はデジタル人民元を「現金の代替」とするが、現金の特徴である匿名性は制限する。デジタル人民元で現金流通を減らし、現金取引の監視でお金の流れ全体をガラス張りにする思惑がありそうだ。中国の地方銀行では預金の取りつけ騒ぎがくすぶる。6月も河北省の保定銀行で経営不安のデマが広がり、一部の預金者が支店に列をなした。大口の現金取引を規制すれば、地銀の預金流出を抑える効果もありそうだ。具体的な規制では、個人名義の預金口座は河北で10万元(約150万円)、浙江で30万元、深圳で20万元を超す現金取引は人民銀への報告を義務づける。法人名義の預金口座では3カ所とも50万元以上を対象とする」

 

地方銀行は、倒産の噂が絶えないほど経営が逼迫している。理由は、不動産関連の貸出で焦付き債権が発生しているからだ。不動産バブルの後遺症である。そこで、大口の現金引出を規制すれば、地銀の預金流出を抑える効果があるという狙いである。理屈は、つけようである。こじつけである。

 

(3)「銀行窓口で大口の現金取引をする場合、預金者には事前予約を義務づける。銀行には予約時間、取引内容などを事前に報告させる。取引で使われた紙幣の番号を記録し、追跡できるようにする。取引が巨額、取引回数が頻繁などの特徴がある場合、疑わしい取引として報告してもらう。3つの地区ごとに重点的に監視する業界や預金者も決めた。

1)河北省ではマンション購入者が対象で、地元の不動産規制当局などと協力する。

2)浙江省では卸・小売り、不動産販売、建設、自動車販売の4つの業界を重点監視する。これらの業界の大口取引では銀行振込など現金以外で決済するよう求める。

3)深圳市では、経営者が個人口座で会社の資金を動かす取引を調べ、個人資金と法人資金をきちんと区別するよう求める」

 

上記の3地域で、現金引き出しの報告制を敷くという。なにやら戦時経済の予行演習という趣だ。「資金統制計画」といった感じである。これは、必然的に経済活動を抑制するはずだ。こういう面での反作用を考えないところが「統制論者」の限界である。

 


(4)「深圳では人民元紙幣を持って対岸の香港に入り、現地で香港ドルや米ドルに替える人が後を絶たない。香港の銀行とも協力し現金持ち出しを防ぐ。資本流出は人民元売り・外貨買いを誘発し、人民元下落や外貨準備の減少につながる。20年13月は銀行口座を通した正規の取引だけで差し引き307億ドル(約3兆3000億円)の資金が流出した。現金の持ち出しも含めれば、実際の流出額はもっと大きいとみられる。13月は経常収支も赤字で、5月には人民元の基準値も12年3ヵ月ぶりの安値をつけた。米国との摩擦長期化をにらむと、ドル不足は中国のアキレス腱だ」

 

中国の国際収支表では、「誤差脱漏」という項目の金額が最も大きいとされている。正規のルートでない資金の持ち出しが行なわれているからだ。これは、GDP世界2位の経済が、未だに資本取引の自由化を行なっていない弊害を表わしている。端的に言って、中国は図体が大きいにもかかわらず、子どもの服を着ている綻びが、「誤差脱漏」の金額を大きくしている理由である。中国は、ここまで無理に無理を重ねて、経済を統制して拡大させようとしている。現実は、縮小過程に入っているのだ。市場経済ルールを無視した中国は、整合性の取れた経済発展を望んでも無駄である。不可能だ。