テイカカズラ
   

サムスン電子トップの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長への捜査が、適正かどうかを判断する「検察捜査審議委員会」が6月26日開かれた。結論は、検察に対して捜査を中断し不起訴とするよう勧告した。検察はこれまでの別のケースで審議委の判断に従っているため、李氏は一連の容疑で逮捕や起訴を免れる可能性が高い、との見通しが出てきた。

 

本欄はこれまで、サムスン副会長を起訴すれば、韓国経済に甚大な影響が出る。そこで、政府が不起訴に持込む工作をするだろうと指摘してきた。「反財閥主義者」文大統領が、サムスンについては韓国経済に貢献してきたと折りに触れて発言したことで、李副会長の起訴を免れさせるサインと読めたのだ。文氏は、短期間に4回もサムスン李副会長と面会するなど、サムスンの存在をアピールしている。これは、言外に李氏を起訴するなという示唆である、と私は繰り返し主張してきた。韓国は、大統領の発言権が大きい。こういうケースは珍しくない。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月26日付)は、「サムスン副会長の不起訴を勧告、韓国検察捜査審議委」と題する記事を掲載した。

 

(1)「検察捜査審議委員会審議委は法律家や学識経験者、ジャーナリスト、文化芸術関係者など有識者15人で構成し、検察捜査や起訴の妥当性を判断する役割を担う。最高検察庁が招集・委任するもので、強制力はないが検察の捜査方針に影響を及ぼしてきた。2015年にサムスンのグループ会社同士が合併した際、李氏に有利な株式交換比率とするために李氏が株価を不正に操作した疑いがあるとして、検察は6月上旬に逮捕状を請求した。ただ、ソウル中央地裁は検察側の請求を棄却していた。李氏を巡っては、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の側近への贈賄罪についての裁判がソウル高裁で続いている」

 

韓国は、検察捜査審議委員会が設けられている。検察の起訴が正しいかどうかを審議するもの。検察の独走を阻む制度である。審議委員のメンバーには、ジャーナリスト、文化芸術関係者まで含まれている。「市井感覚」で起訴かどうかを検討するものだ。文政権の「市民主義」にピッタリの制度とも言えよう。ところで、サムスン副会長が起訴されれば、サムスンにどんな影響が出るのか。次の記事が、それを取り上げている。

 


『韓国経済新聞』(6月22日付)は、「李在鎔サムスン電子副会長、運命の1週間…経済界『起訴ならサムスンの経営はまひ』」と題する記事を掲載した。

 

李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長とサムスンの未来を左右する運命の1週間が始まった。26日には李副会長の起訴が妥当かどうかを判断する検察の捜査審議委員会が開かれる。審議委は検察が2018年に自ら改革案の一つとして導入した制度。外部の人が捜査手続きおよび結果の適切性を議論した後に勧告案を出す。強制性はないが、今まで検察は審議委の判断に従わなかったことはない。サムスンをはじめとする経済界が審議委に注目する理由だ。

(2)「李副会長はサムスンバイオロジクスの粉飾決算などの疑いを受けている。裁判所が逮捕状を棄却し、拘束は避けることができた。とはいえ経済界では李副会長が起訴されるだけでも経営に支障を与え、経済全体に超大型悪材料になるという声が出ている。裁判所の裁判日程を勘案すると、経営について考える時間の確保が難しいということだ」

裁判所が、逮捕状を棄却しているので拘束は避けられた。だが、検察が起訴すれば裁判が始まる。李氏が被告の身になれば、サムスン電子の業務に関われる時間は大幅に削られる。それが、サムスンはもとより、韓国経済に大きな影響を与えるというものだ。

 

(3)「今回、起訴が決定すれば、2017年の裁判当時よりも深刻な経営支障が避けられないとみられる。検察は「捜査記録だけでも20万枚」とし、李副会長に対する容疑の立証に自信を見せている。サムスン側の弁護団も強硬な立場だ。強気で審議委を要請したのも裁判の結果に自信があるためという分析だ。ある法曹界の関係者は「争点が多く、見解の違いも大きい」とし「起訴が決定すれば裁判が何年続くか予想するのが難しい」と説明した」

捜査記録だけで20万枚と言われる。起訴されれば、裁判が何年かかるか分からないという。そうなれば、サムスンの意思決定が大きく遅れる。サムスンの被害は、韓国経済の損失になるのだ。

 


(4)「サムスンのキャッシュカウ(注:ドル箱)の半導体産業は「オーナービジネス」と呼ばれる。一度に数十兆ウォンが投入される大規模な設備投資を随時断行する必要があるからだ。有能な専門経営者であっても一度の「サイン」で会社の命運が変わり得る意思決定を下すのが容易でないというのが、関連業界の説明だ。インテルとAMDを抑えて世界トップのGPU(グラフィック処理装置)企業になったエヌビディア、世界ファウンドリー(半導体受託生産)業界トップの台湾TSMCもオーナー経営者が会社を陣頭指揮する企業に分類される。ブルームバーグ通信など主要メディアが「李副会長が起訴されれば、M&A(企業の合併・買収)や大規模な投資などの決定が難しくなるはず」と指摘した背景だ」

 

半導体ビジネスは、「オーナービジネス」と言われる。一度に巨額の投資をするので、合議制では決断のタイミングを失う。サムスンには、オーナー家の李副会長が存在しなければ、事業を続けられないという論理である。日本の半導体が没落したのは、合議制で経営責任を負わなかった点にあった。その意味で、韓国財閥に最適のビジネスかも知れない。

(5)「経済界も、「今は李副会長が必要なタイミング」とし「李副会長が起訴される場合、重要な意思決定が中断し、経営システムも焦土化する」と主張している。ある経済団体関係者は、「昨年の日本の素材・部品輸出規制当時、李副会長が日本を訪問して対応策を用意した」とし「新型コロナウイルス感染症と米中貿易紛争などのイシューが山積した今もオーナーのリーダーシップが必要な時」と話した」

 

サムスンは、韓国経済が厳しい折から輸出の「一枚看板」である。その経営トップを起訴することの「損得」が、秤に掛けられたのである。影で、文大統領の「意向」が働いたとしても不思議はない。文氏のダブルスタンダードである。