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習近平国家主席の誕生日(6月15日)に、中印両軍は海抜4000メートルのヒマラヤで乱闘を演じた。中国軍が事前準備をした「越境」による紛争である。インド軍に約20名の死者が出た惨事だ。中国側は、偶発事故を主張している。国内メディアにも記事を扱わせないほどの気配りである。

 

インド側は、黙って引っ込めない国内政治事情を抱えている。反モディ首相派が、「中国に甘く見られている証拠」と煽っているからだ。インド政府は、何らかの対抗策を取らざるを得なくなっている。その目玉が、次世代通信網「5G」導入で中国のファーウェイ製品を拒否することである。米国は、昨年11月からインドへファーウェイ製品拒否を働きかけているのだ。今回の中印国境紛争は、意外にも中国に最大の代償を与える事態になりそうだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(6月28日付)は、「中印衝突、貿易にも飛び火、ファーウェイなど排除検討」と題する記事を掲載した。

 

中国とインド両軍による国境の係争地域での衝突が貿易にも波及し始めた。インド政府は通信や自動車分野で中国企業を締め出す制裁措置を検討し、中国製品の関税引き上げも視野に入れる。インド国内では中国企業を排除すると経済が回らなくなるとの懸念もある。

 

(1)「インドメディアによると、同国政府は中国企業への報復措置を検討する。4Gのネットワーク更新や5Gの試験で、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)などの製品を使用しないようインド国営通信会社に伝えたという。商都ムンバイがあるマハラシュトラ州では大型の投資案件が凍結されるもようだ。中国自動車大手の長城汽車は米ゼネラル・モーターズ(GM)の同州にある工場を1月に買収し、2021年にも販売を始める計画だった。投資額は377億ルピー(約520億円)だが、同州政府は合意していた契約を停止するという。同州では中国企業による電動バスや機械関連の事業も凍結される方向だ」

 

中国自動車大手の長城汽車は、米ゼネラル・モーターズ(GM)の同州にある工場を1月に買収し、2021年にも販売を始める計画だった。投資額は377億ルピー(約520億円)だが、同州政府は合意していた契約を停止する。インドの怒りのほどが伝わる。ファーウェイの「5G」導入問題は、後で取り上げる。

 

(2)「ブルームバーグ通信によると、インド政府は空調機や自動車の部品、家具などの中国製品に対し関税引き上げを検討しているという。化学品や鉄鋼などの370品目について、インド国内で生産できる中国製品は厳しい品質管理の基準を設ける案もあるとしている。印シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファンデーションのハーシュ・パント氏は「すべての産業から中国企業を排除するのは不可能だ」と語る。18年のインドの国別輸入額は中国が首位で、全体の14%を占める。通信機器や半導体など中国製品がなければものづくりが進まない分野も多い。インド経済界では中国企業を過度にたたくべきではないという現実論もある」

 

インドにとって中国は、輸入先第1位である。この中国との関係を切断すれば、インド経済が回らなくなる。そうなると、インドに実損が多く、中国へ大きな打撃を与えられるのは、「5G」導入拒否となろう。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2019年11月1日付)は、「中国の5G支配阻止、インドの決断が鍵」と題する記事を掲載した。

 

中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は、インドの第5世代通信規格(5G)網を構築することになるのだろうか。テクノロジーを巡って米中が冷戦を続ける中、最大の「獲物」として標的にされているのは、利用者数で世界第2位の無線通信市場であるインドかもしれない。米政府はインドがファーウェイを拒否し、同社の西側のライバルであるスウェーデンのエリクソンかフィンランドの ノキア を選ぶことを望んでいる。

 

(3)「インド政府が最終的に下す決断は、中国がインターネットの未来を支配するかどうかを決定付ける一助になる。インドのモバイル市場は中国市場に次ぐ大きさだ。ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所で中国戦略を専門とするラッシュ・ドーシ氏は「5Gはデジタル経済の屋台骨になるだろう。そしてデジタル経済はますます世界経済の屋台骨になりつつある。これをいち早く理解することが重要だ」と話す」

 

インドが、「5G」でファーウェイ製品を導入しなければ、世界2位の人口国だけに、その影響は大きい。2020年代にインド人口が中国を抜く見通しである。こういう将来性を考えれば、インドが西側陣営の「5G」に加わる意味は大きいのだ。

 


(4)「インドの5G技術の導入は少なくともまだ1年は先(注;20年秋)だ。しかし、米国は既にファーウェイに関する懸念を伝えている。ウィルバー・ロス米商務長官は10月初めにインドの首都ニューデリーを訪れ、インドがファーウェイに関する米国の警告を聞き入れなければ「気づかないうちに予期せぬセキュリティーリスクにさらされる」可能性があるとくぎを刺した。米連邦通信委員会(FCC)のアジット・パイ委員長は10月30日付の本紙への寄稿で、5G網に中国製機器を入り込ませれば「検閲や監視、スパイ行為などの有害な活動にさらされる可能性がある」と警鐘を鳴らした。パイ氏のメッセージはインドに向けたものではないが、米政府の中国企業に関する懸念を一部表している」

 

ファーウェイの「5G」は、バックドアをつけている。日常的な盗聴だけでなく、非常時には北京で相手国のインフラ爆破指令を出せる懸念が持たれている。今回の新型コロナウイルスによって、中国の傲慢な態度が、「5G」リスクを実感させるようになった。すでに英国が、「5G」導入先見直しを表明し、『脱ファーウェイ』を明確にし始めた。中国の対外強硬姿勢は、こうして墓穴を掘る事態を招いている。