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中国が、米国経済を打倒するという目標で掲げた「中国製造2025」は今、影を潜めている。米国を刺激しすぎたためだ。目標自体を撤回したわけでない。隙を見て、米国に一泡吹かせようという狙いは生きている。だが、実現は難しい。

 

「中国製造2025」とは、2025年までに中国製造業の基盤を固めるというもの。核は、半導体の自給率を70%に引き揚げるとしている。現状では15%見当であり、2024年にせいぜい21%程度と見られている。目標から見て、余りにも落差がありすぎる。その原因は何か。次の寄稿がその一端を明かしている。

 

『朝鮮日報』(7月5日付)は、「中国の半導体は今後も韓国に追い付けない」と題する寄稿を掲載した。筆者は、スカイレーク・インベストメント=陳大済(チン・デジェ)代表・元情報通信部長官である。

 

「中国の製造2025戦略」は、2025年までに部品と中間材の70~80%を独自生産して供給し、35年には先進国を追い抜くという野心に満ちた計画だ。ここで中国が最も困難を感じている分野は半導体だ。

 

(1)「中国の半導体は現在、自給率が20%台(注:20%以下)にとどまっている上、メモリー半導体はほとんど韓国に依存しており、技術格差も3~5年あるという。これを解消するため、中国政府は2014年に「半導体の大躍進」を宣言し、300兆ウォン(約26兆円)を投資しつつ、一気にサムスン電子に追い付くと宣言。巨大な国営企業を設立した。最近、最先端のメモリーを開発し、韓国の半導体事業を追い掛けているかのように言われているが、まだ量産体制が整っていないため、市場での存在感はさほど大きくない。中国はいつごろ韓国に追い付けるのか。筆者の経験を基に予測すると、「しばらくは無理」ということになる」

 

半導体は、大規模投資の典型的産業である。市況変動が激しく、設備投資時期の判断を誤ると経営に重大な障害が出るビジネスである。だが、それは製造ノウハウを十分に習得しているという前提が必要だ。中国の半導体ビジネスには、製造ノウハウが足りないのだ。これが、致命的な欠陥になっている。

 


(2)「サムスン電子がメモリー分野でトップに立ち、16メガのDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)世界市場で60%以上のシェアを占めていた1994年のことだった。当時、メモリー事業部長だった筆者に製品担当役員は「不可解な不良が出る」と言って、電子顕微鏡の写真を数枚見せてくれた。普段は不良品がほとんど出ない半導体基板(当時200ミリ)の中央で発生した欠陥だった。500の製造段階と50日以上にわたる工程期間のどこでどのような問題が発生し、こうした不良につながったのだろうか。全部署の幹部を集めて毎日会議に次ぐ会議を重ねた。1日に数百億ウォン(数十億円)の損失が発生し、目の前が真っ暗になった。製造プロセスを変更して結果が出るまでに1カ月もかかり、設計まで修正して完全に解決するのに約6カ月を費やした。それこそ超大型事件だった」

 

サムスンは1994年当時、原因不明の不良品が発生した。500の製造段階と50日以上にわたる工程期間のどこでどのような問題が発生したのかの究明を迫られた。製造プロセスの欠陥を発見するまで1ヶ月。解決に約6ヶ月もかかった。こういうプロセスを経て、正常な半導体製品の生産再開にこぎ着けた。これが、製造ノウハウになるのだ。

 

(3)「サムスン電子が世界トップと称されるメーカーになれたのは、このような危機的状況でデータを基に話し合いを重ね、協業する会社へと進化していったためだ。こうした段階まで進むのに10年近くかかった。サムスン電子だけではなく、SKハイニックスも数々の難関を乗り越え、グローバル市場へと躍り出た。サムスン電子が世界トップと称されるメーカーになれたのは、このような危機的状況でデータを基に話し合いを重ね、協業する会社へと進化していったためだ。こうした段階まで進むのに10年近くかかった。サムスン電子だけではなく、SKハイニックスも数々の難関を乗り越え、グローバル市場へと躍り出た

 

製造過程で完璧な自信を持てるまでに10年近くかかったという。

ここで一言したいのは、日本半導体が衰退した理由である。決して、技術力が劣った訳でない。

1)1990年代の日米半導体協定で生産の枠をはめられた

2)異常な円高で競争力を失った

3)バブル経済崩壊で、日本企業の経営基盤が崩れ、大型投資ができなくなった

以上の3点である。惜しいことをした。

 

(4)「中国が膨大な資金を投資して果敢にも挑戦状を突き付けてきている。特に中国政府がこの野心を陣頭指揮しているとしても、こうした過程を素通りすることはできない。現在の中国の状況を見ると、半導体の生産工場と設備は整っているものの、これを支える組織文化とノウハウの水準は、まだまだ遠い道のりが残っているように見える。中国が韓国に追い付くには相当長い時間がかかるだろう、と見ている理由だ。ただし前提はある。あくまで韓国企業が超格差を維持するためにたゆみない努力を続け、走る人の足を引っ張らなければ、ということだ」

 

中国が、半導体の大型投資を行なっても、製造ノウハウを身につけるにはそれなりの時間が必要である。「中国製造2025」を引っ込めざるを得ない理由でもある。