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中国伝統の「広州交易会」(6月15日~6月24日)は、初めて商談成立高の発表を取り止めるほどの落込みであった。今回の広州交易会は、コロナ感染を恐れてオンライン展示にしたが、世界経済の疲弊を反映し、不振を極めた。中国輸出業者の9割が倒産するのではないか、と恐れられているほど。この動きの裏には、コロナ禍による世界経済の停滞と保護主義の流れが絡み合っている。中国は、グローバル経済で発展してきただけに、突然の潮流変化に即応不可能であろう。

 

『ロイター』(7月1日付)は、「コロナで再び台頭する保護主義、貿易戦争が世界を分断」と題する記事を掲載した。

 

今年初めの時点では、米国と中国の貿易紛争は「第1段階」合意で緊張が緩和していた。米政府と欧州連合(EU)、日本政府も補助金を抑制する新しい国際通商ルールで合意。比較的落ち着いたムードが流れていた。その後、新型コロナウイルス問題が直撃する。スイス拠点の監視グループ、グローバル・トレード・アラートによると、医療機器や医薬品、一部では食品に対する世界貿易で計222件の輸出規制が課された。特に医療機器では平常時の20倍を超えた。

 

(1)「こうした規制は現在、解除されつつある。しかし新型コロナは確実に保護主義を巡る議論を大きくしている。世界的なサプライチェーンがいかに人々から必要不可欠な医療を奪い得るか、食品供給を途絶し得るか、さらには雇用を脅かし得るかが浮き彫りになったからだ。今やトランプ米大統領は、中国と関係を断ちたいと考えていると表明。EUは中国などからの国家補助を受けた投資を阻むことを計画している。中国は食品輸入で新型コロナウイルス検査を強化すると宣言して見せた」

 

中国は、広州交易会が極端に不調であったことから、欧米への輸出を働きかけている。だが、米国とはコロナ問題でギクシャクしている。EUについても香港国家安全法による人権弾圧が障害になってきた。

 


(2)「マルムストロム前欧州委員(通商担当)は6月24日のセミナーで、世界が保護主義に向かい、新型コロナ危機で一時中断していた通商紛争が再燃する懸念すべき傾向が見えると発言。「われわれは通商問題で賢明でいるよう警戒すべきだ」と訴えた。世界貿易機関(WTO)は6月23日、今年の世界の財貿易が記録的に落ち込む見通しで、来年も通商面の規制が広がることで回復は見込みにくいと指摘した

 

WTOは、今年の世界貿易が記録的な落込みとなり、来年も保護主義が広がって回復は見込みにくいという。中国にとっては、重大事である。

 

(3)「中国とEUそれぞれの高官は6月22日、オンラインで顔を合わせた。ただし、EUは中国に対し、欧州企業の市場参入拡大を認めるとの約束を守るよう要請し、新型コロナ問題や香港を巡る中国の振る舞いを批判した。これに対し、中国側は新型コロナでの協力深化を提案し、EUに対し輸出規制の緩和を求めた。6月24日には、中国政府はさらに産業7部門を外国投資家に開放すると発表した。中国政府とEU当局は米政府とも連絡を維持しており、食品基準やハイテク技術協力では、米EU間の限定的な協議でいくらかの進展があった。当局筋によると、EUと米国双方の通商高官は3週間ごとに協議を継続している。中国外交トップの揚潔チ・共産党政治局員も6月17日、ハワイでポンペオ米国務長官と会談した」

 

中国が、EUと米国との貿易交渉を真剣に行なっている姿は、国内不況の深刻さを反映したものだ。6月17日、米中高官がハワイで「米中第一段階合意」を話合い、中国は約束通りの穀物輸入を実行すると表明した。この裏には、貿易の正常化が中国経済にとって不可欠であるという切羽詰まった事情があるはずだ。

 

(4)「中国も欧州も、米大統領選が近づくにつれて対米関係が不安定化することを覚悟している。ただし、民主党の候補指名が確定したバイデン氏が勝利すれば、ある程度希望が持てるとも考えている。復旦大学・国際問題研究院のZhu Feng氏は「バイデン氏の大統領就任は、米中関係が合理性を取り戻す唯一のチャンスと言える」と話す。ただ同氏も、米中関係が短期間で劇的に変わることは見込んでいない」

 

米国の反中は、超党派である。今秋の米国大統領選でバイデン民主党候補が勝利を得ても、米国の態度が変わる訳でない。中国が変わらない限り、事態はさらに悪化するであろう。

 

(5)「米議会では対中強硬姿勢に超党派で支持がある。欧州側でも米政府と協調を深められるとの楽観論は後退している。欧州議会のラインハルト・ビュティコファー議員(緑の党)によると、バイデン氏が勝ってもクリントン政権やオバマ政権のような「黄金の時代」に戻ることは考えられない。「バイデン氏が欧州に対して柔軟な姿勢を取るとは思えない。通商問題を取り巻く雰囲気は大きく変わっており、それは米政府内だけでなく、米国全体でもそうだ」。ただ、同盟関係をつくるよう、より調整型のアプローチが取られるともみている

 

現在は、これまでのグローバル経済への反省が始まっている。今回のようなパンデミックに襲われれば、グローバル経済のメリット(生産コストの引き下げ)よりも、中断なく供給が受けられる持続性のメリットが大きいことを評価する時代へ移行している。この変化は大きい。中国はサプライチェーンのハブとしての役割を果たしてきた。コロナ禍で、その評価が一変したのである。地球寒冷化で、大型動物が生きられなくなった歴史の再現であろう。