a0960_005446_m
   


中印国境紛争は6月15日、海抜4200メートルを越すヒマラヤ山中で起こった。中国は、情報管理して詳細を漏らさず、偶発的衝突として事態の沈静化を図っている。中国が、インド側を急襲した事実を隠すための情報管理目的だ。それにも関わらず、詳細情報がインド側から漏れると共に、インドが強い屈辱感を味わったかを示している。

 

それは将来、中国が高い代償を払うことを意味する。インドは、日米印三ヶ国海軍の訓練に豪州海軍を招待する計画を始めたのだ。実現すれば、インド太平洋戦略の主要4ヶ国の日米豪印海軍が手を組むことになる。ヒマラヤ山中での仇は、インド太平洋戦略で「お返し」されることになろう。中国は、これから高い代償を払わせられるのだ。

 

『ロイター』(7月6日付)は、「丸腰の部隊を中国兵が襲撃か、国境衝突でインド側証言」と題する記事を掲載した。

 

6月に国境係争地で発生した中国とインドの軍事衝突。インド側関係者の話などから、衝突の詳しい内容が分かってきた。インド兵20人が死亡したこの衝突を巡っては、インド政府は中国側の行動が計画されていたように見えたと指摘。中国政府は、交渉に出向いた中国の高官と兵士らに対し、インド軍側が突然攻撃を仕掛けたと主張している。

 

(1)「インド軍の兵士らは丸腰のまま、切り立った狭い尾根で自分たちよりも大規模な部隊に急襲されたと、インドの政府関係者のほか、この地域に動員された兵士2人、死亡した兵士らの遺族がこのほど明らかにした。死亡したインド兵1人の父親はロイターに対し、息子は暗闇の中で金属製のくぎで喉を切られたと語った。そばにいた1人の仲間の兵士から聞いた話だという。ヒマラヤ山脈の西部を流れるガルワン川で、凍えるような冷たい水の中で命を落とした兵士もした。これも、犠牲者の親族が目撃者から聞いた話だ」

 

このパラグラフで、中印両軍の衝突の全容が説明されている。インド軍は20名が犠牲になった。中国軍の大軍に襲われ、金属製のくぎで喉を切られるという残忍な方法である。中印国境では、互いに武器を堤行しない取り決めになっていた。インド軍は、丸腰のままで用意周到な中国軍に襲われたのである。

 


(2)「銃撃は伴っていないが、両国間の紛争としては1967年以来、最も多くの死者を出した。衝突は高度4267メートルの山岳地帯で夜間に起こり、6時間続いた。ロイターは死亡した兵士の(うち)13人の親族から話を聞いた。ロイターが閲覧した5件の死亡診断書によると、兵士のうち3人は「首の動脈が切断」されており、2人は頭部に「鋭利あるいは先のとがった物体」による傷があった。死亡診断書が入手できた5人は全員、首と額に目視できる傷があった。インド政府高官は「乱闘状態だった。こん棒や棒切れなど手当たり次第の物が使われ、素手で戦った者さえいた」と説明。中国が約束通り係争地から撤退し建造物を解体したかを確かめるため、ビハール連隊の指揮官が小隊を率いてパトロール地点に出掛けた時に衝突が始まったと述べた。インド兵は、鉄の棒やくぎの付いた木の棍棒を持った中国兵に襲われたという」

 

この戦闘状態から見れば、明らかに中国軍の「急襲」である。衛星写真によれば、中国側に堅固な建物が建設されていた。インド軍を襲う準備をしていたことは明白である。

 

(3)「丸腰のインド兵が、自分たちの連隊よりも大きな部隊に制圧された可能性が示されたことで、インドでは中国への憎悪が一層強まるかもしれない。また、緊張必至の現場に、なぜ丸腰の兵士が出されたのかという疑問が高まる可能性もある。インド野党、国民会議派のラフール・ガンジー党首は「中国はよくも丸腰の兵士を殺したものだ。わが兵士らは、なぜ丸腰で殉職させられたのか」とツイートし、インド政府に全面的な説明を要求した」

 

下線を引いた部分のように、インド野党・国民会議派のラフール・ガンジー党首が、怒りの声を上げている。国民会議派は、歴代インド政権を担ってきた政党である。次期総選挙では帰り咲きもあり得る。この有力野党党首の怒りは、インド国民の声を代弁しているのだ。

 


(4)「現場に居合わせた別の2人のインド兵士と話したという遺族によると、パトロールに出向いた小隊は少人数の中国兵に道をふさがれ、近くにあったテントや小さい見張り塔を巡って口論になった。ロイターはそこで何が起きたのか、詳細を確認することはできなかったが、インド政府の公式発表によると、いったんインド兵側はテントや見張り塔を、インド側領土にあるという理由で占拠した。生存者と話した遺族によると、すぐに中国兵が大挙して、投石や手にした鋭利な武器で反撃してきた。いったん退却したものの、行方不明になった指揮官を捜すうちに再び中国兵が襲ってきたという」

 

インド軍の丸腰を見透かして、中国軍は大軍を動員して目を背けるような蛮行を行なった。インド側には許せない裏切りである。この怒りが、これから中国へ向けられる。日米豪印4ヶ国の合同演習の実現という形だ。中国にとっては、目を醒まされるような「インドの反撃」となろう。

 

『ブルームバーグ』(7月10日付)は、「インド、日米との海上軍事演習に豪招待計画ー中国を刺激する恐れ」と題する記事を掲載した。

 

インドは、日米両国と毎年行っている海上軍事演習「マラバル」にオーストラリアを招く計画だ。インドと中国の国境地帯での緊張はここ数十年で最も高まっている。

 

(5)「複数のインド政府高官によると、演習には同国と日米豪が参加しベンガル湾で年末に行われる予定。規則を理由に匿名で語った。日米当局との協議などを経て、インド政府は来週、正式な豪州招待への道を整える見込みだという」

 

すでに、豪印の軍事提携の下打ち合わせは済んでいる。インドとしては、「目には目を歯には歯を」で、中国に一矢報いなければ国民感情が収まらないであろう。インド軍はこれまで、日米豪軍と一緒になれば、中国を刺激するとして慎重であった。それを乗り越えて、中国と対決する道を選んだ。この「4ヶ国構想」は、安倍首相の創案である。

 

(6)「安倍晋三首相とモリソン豪首相は9日、テレビ会議形式で会談。「東シナ海および南シナ海における現状を変更し、または緊張を高め得るいかなる威圧的な、または一方的な行動に対する強い反対を再確認した」とする声明を発表した。声明は、「新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、地域協力が一層重要になっている現状において、係争のある地形の継続的な軍事化、沿岸警備船および『海上民兵』の危険かつ威圧的な使用、および他国の資源開発活動を妨害する試み等を含む、南シナ海における最近の否定的な動きについて深刻な懸念」を表明。中国が導入した香港国家安全維持法(国安法)については、「一国二制度」の下での香港の自治を損ない、「重大な懸念を共有」するとしている」

 

日豪は、密接な関係にある。米豪関係も一時の不調和から修復されている。ここへ、インドが加わるのだ。いずれも、日本が接着剤の役割を果たした。安倍首相による「アジア・インド安全保障構想」が、結実したのである。