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ドイツのメルケル首相と言えば、親中政治家として有名である。これまで15年間の間に、12回も訪中するなど、中国最高指導部と深い信頼関係を結んでいる。それだけに、香港国家安全法適用では、中国批判が控え目だ。中国へ情が移っているのだろう。

 

香港問題は、その重要度においてビジネス関係を上回る人権問題である。中国が、「一国二制度」を反古にしており、人権弾圧を平然として行なおうとしている。ドイツは過去、ナチスによる人権への罪を犯した国だけに、ここは率先して中国非難に向かうべきというのが与野党のメルケル批判の理由である。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(7月7日付)は、「ドイツ首相の対中融和姿勢を与野党が批判」と題する記事を掲載した。

 

ドイツのメルケル首相は、「香港国家安全維持法」を施行した中国に厳しい姿勢を取っていないとして国内で批判にさらされている。首相の対中姿勢はあまりにも弱腰だと与野党の政治家から非難の声が上がっている。

 

(1)「メルケル氏が所属する最大与党キリスト教民主同盟(CDU)の有力議員で、ドイツ連邦議会(下院)で外交委員長を務めるノルベルト・レトゲン氏は、「ドイツ政府が香港について言明したことは最小限にとどまっており、全く不十分だ」と指摘した。ドイツ外務省は最新の渡航安全情報で、香港在住のドイツ国民が新法の適用を受ける可能性は「完全に排除できない」とし、中国に批判的なコメントをソーシャルメディアへ投稿することに「特段の注意」を払うよう国民に注意を促した。レトゲン氏は、こうした忠告は「自己検閲」につながると苦言を呈した」

 


メルケル首相は、過去の独中経済関係の成功体験に酔っている。これが、ドイツ与野党共通のメルケル批判の理由である。中国が、新疆ウイグル自治区で100万人以上の人々を強制収容所に入れて顧みず、さらに香港との「一国二制度」も破棄する横暴を続けている。ドイツは、もはやこれを傍観せずに厳しく批判すべきである、というのだ。

 

ドイツ外務省は、中国に批判的なコメントをソーシャルメディアへ投稿することに「特段の注意」を払うよう国民に注意を促した。香港へ入境した際に、香港で拘留される危険性が出て来たからだ。

 

(2)「欧州連合(EU)加盟国は今月、中国が国家安全維持法を施行したことに「重大な懸念」を表明した。同法は「香港の高度な自治を著しく損なう」とともに、「司法の独立性や法の支配に有害な影響を与える恐れがある」としている。メルケル氏は先週の記者会見で、このEUの見解を踏まえつつ、「相互尊重」や「信頼関係」に基づいて中国との「対話を模索する」必要性を強調した。また、気候変動に対応し、「我々も中国もかなり積極的に関わっている」アフリカとの関係を発展させるうえで、中国政府と引き続き協調を図ることは欧州の利益になるとの見方を示した」

 

メルケル首相の香港問題への姿勢は、及び腰であると批判されている「相互尊重」や「信頼関係」に基づいて中国との「対話を模索する」必要性を強調するだけであるからだ。

 

(3)「ドイツ政界の対中強硬派は、メルケル氏は協調の必要性を強調するのではなく、同法を巡って中国政府を全面的に非難すべきだったと語る。彼らはメルケル氏の発言と、英国や米国の厳しい対応とを比較した。英政府は約300万人の香港居住者に市民権取得への道を開くと約束した。米政府は、企業が武器や慎重な扱いが必要な技術を香港に輸出することを禁じるとともに、香港が1997年の中国返還後に享受してきた貿易上の優遇措置を取り消す方針を明らかにしている。カナダも強硬な反応を示しており、香港との犯罪人引き渡し条約を停止する一方、慎重な扱いが必要な品目は中国本土向けの輸出と同様の扱いにする意向を表明した」

 

米・英・カナダは、中国に対して対抗措置を取っている。それに比べると、メルケル首相の態度は生温いという批判だ。

 

(4)「連立政権に参加する社会民主党(SPD)の外交政策担当報道官、ニルス・シュミット氏は「メルケル氏の対中政策は時代に遅れている」とみる。「我々が中国との経済関係を深めるにつれて同国のリベラル度や欧米志向は高まるという発想にいまだに固執している」と同氏はいう。「だが、それは単なる時代遅れだ」。メルケル氏は15年に及ぶ首相在任期間の大半にわたり、ドイツと中国の「戦略的パートナーシップ」を重視し、これまでになく複雑な両国の経済関係をたびたび称賛した。中国はたやすくドイツ最大の貿易相手国になり、両国間の貿易取引高は2018年に2000億ユーロ(約24兆4000億円)に達した」

 

連立政権に参加する社会民主党(SPD)からも批判されている。中国と経済関係を深めれば、中国の民主化が進むと期待するのは幻想であると切り捨てている。経済は経済で、人権重視こそ重大という認識である。

 


(5)「首相として12回訪中しているメルケル氏は1月、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙のインタビューで、「経済的に成功しているという理由だけで中国を脅威と見なすことのないよう忠告したい」と語り、ドイツと中国との密接な関係を擁護した。
しかし、一部の運動家や野党議員は、新疆ウイグル自治区でイスラム教徒のウイグル族が大量拘束されるなど中国で人権侵害が行われているにもかかわらず、メルケル氏は中国との経済関係が損なわれることを恐れて十分に声を上げていないと非難している。ドイツ緑の党に所属する欧州議会議員のラインハルト・ビュティコファー氏は、「メルケル氏の対中政策が過去にもたらした全ての恩恵は今や時代に立ち遅れている」と切り捨てた」

 

ドイツ緑の党に所属する欧州議会議員からも、メルケル首相が経済関係を重視して、香港問題で発言を控えていると批判されている。欧州は、人権意識が極めて高い地域である。その盟主を任じるドイツが、中国に対して言うべきことも言わないで、控えているのは屈辱である。こういう認識であろう。世界情勢は、大きく動く前兆であろう。