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米国大手IT企業は、香港国家安全維持法が施行され、その去就について思案中である。社名は定かでないが、1社は香港から完全撤退の方針という。他社は、国安法でどこまで自由なビジネスが展開可能かを見極めると慎重だ。これまで、明るい展望に包まれていた香港ビジネスは一転、地獄へ突き落とされた感じだ。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(7月9日付)は、「米IT大手、国安法下の香港から撤退検討」と題する記事を掲載した。

 

香港のインターネットを統制下に置こうと目を光らせる中国政府の大がかりな新法制定を受けて、米シリコンバレーに本社を置くIT(情報技術)企業も対応を急いでいる。少なくとも大手1社が香港からの完全撤退を検討している。

 

中国が香港への統制を強める「香港国家安全維持法」が6月30日に制定され、香港のインターネットは事実上、「グレートファイアウオール」と呼ばれる中国の検閲システムの下に置かれ、警察はウェブを検閲する権限を得る。IT企業が利用者の個人情報の提供を拒めば、トップが逮捕される可能性も考えられる。

 


(1)「この状況を受けて米企業であるフェイスブックやツイッター、グーグル、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ、マイクロソフト傘下のビジネスSNS(交流サイト)、リンクトインの各社は、法執行当局からのデータ提供要請に対応することを全面的に「一時停止」し、自社の法的な立場を確認するとしている」

 

米大手IT企業は、香港当局からのデータ提供要請に対して、全面的な「一時停止」措置に止めている。だが、「一時停止」であることから、時間は限られている。間もなく、撤退か残留かを決めなければならない。すでに1社は、完全撤退を決めた。

 

(2)「米IT企業の中では中国本土で最大規模の事業を展開するアップルは、状況を「評価中である」としか述べていない。クラウド事業を手がけるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、新法の「細部を確認している」という。西側企業は現在、どれほどの自由の余地が残されるのかを見極めなければならない。新たな体制に従うことが可能なのか、あるいは最終的に香港から去らなければならないのかという判断を下さなければならない

 

香港当局へデータ提供したということが分かれば、その企業の信用失墜はいうまでもない。その辺の状況判断が大事だ。

 

(3)「香港政府はIT企業に対し、ネット上の投稿やアカウントの削除、利用者の個人情報の提供を強制できるようになった。例えば、IT企業がSNS上の投稿の削除を拒んだ場合、警察はその投稿を保管する香港域内のサーバーを差し押さえることが可能だ。海外のサーバーに投稿が保管されていても、警察は香港と外の世界をつなぐインターネット接続事業者(ISP)に対し、当該サイトへの接続を遮断するよう求めることができる。英法律事務所ピンセント・メーソンズの香港駐在パートナー、ポール・ハズウェル氏は、香港企業であるISPは海外に本社を置くIT企業より要請を拒みにくいだろうと指摘する。IT大手はおそらくサーバーを香港域外に移すが、最終的に各社のサイトは遮断される可能性が高いと同氏はみている」

 

海外に本社を置くISP(インターネット接続事業者)の方が、香港企業よりも当局の情報提供要請を拒否しやすいとみられている。だが、最終的に各社のサイトは遮断される可能性が高い。となれば、撤退という結論しか浮かばなくなろう。

 


(4)「IT企業はすでに、香港警察から犯罪捜査のためのデータ提供を求められている。要請件数を開示している会社もある。例えばフェイスブックは2019年、提供する全サービスにおいて384件の要請を受けており、そのほぼ半数に応じた。だが、新法の下で国家安全に関わる犯罪捜査は国家機密とされる可能性があり、いかなる裁判であっても非公開となり得る。IT企業も、警察から何を求められたかを明かすことを禁じられるかもしれない

 

下線部のように、IT企業は有無を言わせずに協力させられることになりそうだ。利用者の疑心暗鬼は、深まるばかりであろう。

 

(5)「英系調査会社ウィー・アー・ソーシャルによると、リンクトインやツイッター、フェイスブックにとって、人口700万人余りの香港市場は世界のユーザー基盤の0.%にも満たないという。大手インターネット企業はいずれも香港にオフィスを構えているが、地域統括本社を置いているところは1社もない。IT各社は新法による影響の掌握につとめているものの、まだ香港での将来について語れる状態にはなっていない。各社とも、アジアの別の国にもオフィスを持っているが、その中でもシンガポールが人気のハイテク拠点として台頭している

 

人口700万人余りの香港市場は、世界ユーザー基盤の0.%にも満たないという。この程度であれば、大手IT企業の営業成績にとって大きな問題でなくなる。他社が香港を引き揚げれば、追随するのは時間の問題だろう。香港に残留して、あらぬ疑惑の目で見られる方が、はるかにマイナスになるからだ。中国と関わらないビジネス展開に、魅力を感じる企業も出てくるだろう。

 

(6)「データ提供要請への対応を「一時停止」しても、各社が新法に従わなければならないことに変わりはないと、香港の黄宇逸(ウォン・ユヤット)弁護士は指摘する。「合法的な理由ではないため(一時停止は)法的責任に対する盾にはならない。あくまで、外国企業がとった方針としかみなされない」

 

米IT大手は現在、「一時停止」措置が可能でも有効期間があるはずだ。結局、多くのIT企業の撤退になりそうな感じだが、どうなるか。残留すれば、中国と妥協したという「黒い噂」が待ち構えるであろう。