ムシトリナデシコ
   

習近平国家主席は、自らの誕生日である6月15日夜、中印国境紛争を引き起させた。インド軍に20名の死者が出る惨事だ。中国軍が、夜陰に乗じてインド運兵士を襲ったのである。中印側はその後、外相会談により紛争地点から双方が撤退することになった。中国の得たものはゼロである。何の紛争であったか、無意味なものに終わった。

 

インド側は、多数の死者を出したこともあり怒りが収まらない。報復策として先ず、中国製ソフトの全面禁止措置に踏み切った。現状では、中国にとっての損害は軽微だが、将来のインドのスマホ普及率向上を計算に入れれば、中国は莫大な損失を被る、という指摘が出てきた。習近平氏の対印強硬策が、中国に大きな損害をもたらす。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月13日付)は、「インド国境紛争で中国が失ったもの」と題する記事を掲載した。

 

これは、中国の習近平国家主席がヒマラヤの国境紛争地帯で起こした大失態とみるべきだろう。中国とインドの国境をめぐる対立の最終的な結果は不透明かもしれないが、人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を含む59の中国製アプリを利用禁止にするというインド政府が先週出した決定の影響は明白だ。この禁止措置が継続され、他の諸国も同様の措置を取った場合には、米国に代わって世界を支配する技術強国になるという中国政府の野望にとって、大きな痛手となる。

 


(1)「ブルッキングス研究所の中国戦略専門家であるラッシュ・ドーシ氏は、「中国企業がインドで敗れた場合、真の世界企業になれない。インドがこうした措置を取れるなら、他の国も同じことができる」と述べている。マイク・ポンペオ米国務長官は6日、FOXニュースに対し、米国はTikTokなどの中国のソーシャルメディア・アプリの使用禁止を検討していると語った。オーストラリアも、TikTokの使用禁止を検討している」

 

インド政府は、「TikTok」を含む59の中国製アプリを利用禁止にした。他国も、この例にならえば、中国ソフトは将来利益を大きく損ねることは確実と見られる。

 

(2)「一見したところ、インドのアプリ禁止はたいしたことに見えないかもしれない。昨年の字節跳動(バイトダンス、TikTokの親会社)の世界売上高170億ドル(約1兆8200億円)のうち、インドが占めた比率は1%に満たない。インドの10代がボリウッド(インド映画)のダンスを踊る様子を見せるのを禁じることが、人民解放軍による土地の強奪に対抗する上で最も有効な方法には見えない。加えて、インドは中国のベンチャー投資を動揺させることで、萌芽(ほうが)期のインドの新興企業のエコシステムに打撃を与え、経済に関する意思決定の透明性および予測可能性に深い疑問を生じさせてしまう」

 

TikTokの親会社は、世界売上高が170億ドルに達する。インドは、1%未満であるから、当面の損失は微々たるもの。一方、中国ベンチャーのインド投資が、今回の中国ソフト禁止を理由に減る懸念が強い。要するに、短期的にインド側の受ける損失が大きいのだ。ただ、インドのスマホ普及率向上を計算に入れると、この損得計算は一挙に「中国の大損」という結果に変わる。

 


(3)「この動きは、インドに打撃を与える可能性があるものの、最終的には中国により大きな打撃を与え得る。まず、インドからの永久的な撤退は、フェイスブックの世界的ライバルになるというTikTokの期待に深刻なダメージを与える。2億人を超えるユーザーがいるインドは、TikTokにとって最大の海外市場だった。アプリ禁止前に内部評価で1100億ドル前後になるとされていたバイトダンスの企業評価は、間違いなく打撃を受ける」

 

TikTokは将来、フェイスブックの世界的ライバルになると目されてきた。それが、インド市場から撤退するので、将来利益を捨てることになった。

 

(4)「同じく禁止措置の影響を受けるアプリには、アリババ集団の「UCブラウザー」、テンセント(騰訊)の「ウィーチャット(微信)」、ファイル共有アプリのShareItなどがある。市場調査会社センサー・タワーの推測によると、インドの人々が今年、今回禁止されたアプリをダウンロードしていた回数は累計で7億5000万回に上る。シカゴのポールソン研究所と連携している中国専門のシンクタンク、マクロポロの研究によると、昨年インドで最も多くダウンロードされたアプリ10個のうち6個が中国のもの(5年前には10個中3個)で、首位はTikTokだった」

 

昨年、インドで最も多くダウンロードされたアプリは、10個のうち6個までが中国のものであった。これが、すべて使用禁止措置になるのだ。中国は、潤沢市場を放棄する形になる。

 

(5)「5億人以上のスマホユーザーを抱えるインドからの撤退は、「次の10億人のユーザー」を求めてフェイスブック、グーグル、アマゾンといった米国企業と戦う中国の取り組みの足かせとなる。次の10億人のユーザーは、買い物、情報検索、デジタル決済などのために初めてインターネットを利用する人々だ。ドーシ氏は、「中国の指導者らは、中国のアプリが世界標準を打ち立てることを夢見ていた。その夢は消えてしまった」と話す。

 

中国は、5億人以上のスマホユーザーを抱えるインドから撤退する。これは、「次の10億人のユーザー」を失うことだ。この市場が、ごっそりと米国ソフト企業に移る。中国のアプリが、世界標準を打ち立てるという中国最高指導部の夢は、完全に消えたのである。

 


(6)「影響はアプリだけにとどまらないだろう。インド政府は既に、同国国営通信会社のBSNLが中国のZTE(中興通訊)やファーウェイ(華為技術)から機器を調達するのを禁じている。インドは向こう何年かで第5世代(5G)移動通信網の運用を開始するが、そこでファーウェイが役割を担う可能性はほとんど消えたように見える。「その打撃はインドだけにとどまらないだろう。米外交問題評議会で中国ハイテク企業を担当する専門家、アダム・シーガル氏は、インドの禁止は「連鎖反応」を引き起こす可能性があると指摘する。(TikTok禁止を警告した)ポンペオ氏の発言が最もはっきりした例だ。

 

インド政府による中国ソフトの禁止は、次世代通信網「5G」でもファーウェイ製を排除することになる。中国の受ける損害は、莫大なものが予想されるのだ。6月15日の中印国境紛争は、将来の中国経済に大きな損失をもたらすことが決定的になった。