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マイク・ポンペオ米国務長官は7月13日(現地時間)、「中国の南シナ海海洋資源開発は完全に不法」という立場を明らかにした。これは、米国が「不法」と規定した初めての事例とされる。これまで米政府は、南シナ海問題に対して国連仲裁を通した平和的解決方式を主張してきた。今回の声明は、平和解決方式から踏込んで、「中国の違法」を宣言したもの。これは、今後の米国政府が、中国に対して強硬姿勢を取る前兆となる。

 

常設仲裁裁判所が、中国の違法判決を下したのは2016年7月12日である。今回の米国務長官声明は、4周年に当る7月12日の翌日に出されたものだ。それだけに、米国の強い決意を示したものである。中国の既成事実化を認めないという強硬姿勢である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月14日付)は、「南シナ海に法の支配を、中国の主張は違法」と題する記社説を掲載した。

 

中国はこれまでの10年間、南シナ海の軍事支配の取り組みを強化してきた。この重要海域ではベトナム、フィリピン、マレーシアなども領有権を主張している。米国は「航行の自由」作戦の下で、同海域に艦船を派遣してきたが、これまではこうした領有権問題に関し、公式には中立の立場を維持してきた。

 

(1)「だが、もはやそうではない。国務省は13日に発表した声明で、『南シナ海の大半にわたる海洋資源に対する中国政府の主張は、完全に違法である』と言明した。2016年にオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所も同様な判断を示していたが、中国はそれを無視し、軍事化を加速させてきた。国務省の声明は同裁判所の判断を初めて支持し、『世界は中国政府が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うことを許さない』と述べた」

 

ハーグの常設仲裁裁判所が、「中国領有権主張は100%誤っている」と裁判官5人全員の意見として判決が下った。判決前から、中国不利と見られてきたが、予想通りの事態になった。中国は、判決に対して「ただの紙切れ」と悪態をついたが、今回の米国務長官声明で「紙切れに」ならなかった。中国の命運を左右する問題になろう。日本軍の旧満州占領の二の舞いが演じられる。米国が、中国の南シナ海領有権を認めない以上、中国にとって強敵が出現した形だ。

  


(2)「中国の船は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の間、マレーシアの石油探査船を追尾したり、ベトナムの漁船に体当たりしたりした。中国政府は国際規範を否定して、同海域の商業活動を支配したいと思っている。米国は今月、空母2隻を南シナ海に派遣した。これを受け、中国国営メディアは、「中国には幅広い種類の対空母兵器がある」「この海域における、いかなる米軍空母の動きも中国軍の望むところだ」とツイートした。中国は恐らく、南シナ海での支配力を徐々に強化することが可能であり、米国が不満を表明して時折南シナ海の航行に艦船を派遣することがあっても中国の覇権に異議が唱えられることはない、との結論を出していたとみられる。国務省の13日の決定は、米軍の展開とともに、アジア地域における中国の威圧的な行為に対抗する戦略を米国が強化しつつある可能性を示唆している

 

中国は、米空母乗員が新型コロナウイルスに感染した間、演習などの行動に制約がかかっていた。それを幸いと、マレーシアの石油探査船を追尾したり、ベトナムの漁船に体当たりしたりするなど、やりたい放題であった。米海軍が、南シナ海問題に介入しなければ、中国の暴走を食い止められないとの結論になったのであろう。そこで、今回の国務省声明によって、米国の立場を明確にして、中国をけん制することになった。

 


(3)「これは、エルサレムへの米大使館の移転、崩壊状態の軍縮協定からの離脱などと同様に、よりリスク回避傾向の強い政権であれば試みようとしなかったであろうトランプ政権時代の外交政策の1つだ。中国はうれしくないだろう。しかし、今回の決定は、米国の公式な政策を国際法と地政学的な事実に即したものにする。今年の大統領選でどの候補が勝利するかにかかわらず、中国の違法行為と領土拡大を食い止めることが2021年の米国の外交政策の主要優先項目となるだろう。今回の決定はそれに必要な最初のステップである」

 

米国は、不退転の決意で中国へ対決する姿勢を鮮明にした。今秋の米大統領選次第で政権の交代もあり得るが、今回の国務省声明によって米国政権が受け継ぐことを示している。政権が変われば消える類いの問題ではないことを示している。

 

中国の「火遊び」が、本格的な「火事」にならない保証はどこにもないのだ。米国は、すでに「インド太平洋戦略」で中国対応戦術を立てている。日米豪印4ヶ国の防御ラインの構築である。中国は、不用意にもこの4ヶ国防衛ラインへ対抗しようとしている。戦前の日本が、ABCDラインに包囲されて自滅したが、中国はその轍を踏もうとするのか。

 

ポンペオ長官の「不法」宣言は常設仲裁裁判所判決が下されてから4年後に出てきた。前日、フィリピンのテオドロ・ロクシン外相も「常設仲裁裁判所の判決は交渉不可能なもの」として中国政府を批判した。米国が同盟国であるフィリピンの主張を後押しすると同時に中国に強力な警告を発したものと観測されている。

すでに米軍も動いている。米海軍は今月4~8日、原子力空母「ニミッツ」と「ロナルド・レーガン」空母打撃群を動員して南シナ海海域で合同訓練を行った。米軍は南シナ海に対する中国の主張に対抗して、繰り返し「航行の自由」作戦を繰り広げてきた。今回のように米海軍航空母艦2隻が同時に南シナ海に出現したのは2014年以降初めてとされている。米海軍の強い決意を示している。