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中国共産党は、政策的失敗をしないという「無謬論」が、中国富裕層を虜にしている。不動産の値下がりは、政府が止めると信じて疑わないからだ。中国の新型コロナウイルスが下火になると、富裕層は最大の資産対策として、2軒目、3軒目の住宅購入に走っている。もはや「病気」というほかない。この国民だから、共産党政権をありがたがって崇め奉っているのであろう。

 

パンデミック対策として、世界的な金融緩和が行なわれている。この結果、米国は株式が高騰しているが、中国は不動産価格の暴騰をもたらした。株式の値上りであれば、企業は研究開発や設備投資などの付加価値を生む経済活動に繋がる。不動産の値上りでは、家計の負債比率を高めて、いずれ家計消費の伸び率を鈍化させるだけだ。所得上昇率を上回る不動産価格高騰の終着点は、バブル破裂という地獄である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月17日付)は、「52兆ドルの中国不動産バブル、コロナでも止まらず」と題する記事を掲載した。

 

中国のいくつかの巨大都市で起きていた不動産バブルは持続不可能だと多くの人々がみていた。だが、このバブルは2月にコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)で短期間休止状態となった後、すさまじい勢いで拡大を再開した。不動産価格は上昇し、投資家たちは、何百万もの人々が職を失うなどさまざまな経済問題があるにもかかわらず、先を争うように購入契約を結んでいる。

 

(1)「多くのエコノミストは、こうした中国の資産バブルについて、2000年代に起きた米国の住宅バブルを上回っていると指摘する。米国の不動産ブームのピーク時には、年間9000億ドル(約96兆5000億円)が住宅用不動産に投資された。6月末までの12カ月間の中国の住宅市場への投資額は1兆4000億ドルに上っている。今年6月の中国の不動産投資額は、月間ベースで過去最高となった。ゴールドマン・サックスによれば、中国の(販売対象となっている)住宅と、開発業者の住宅在庫を合わせた評価額は、2019年には52兆ドルとなった。これは米国の住宅用不動産市場の2倍であり、米国の債券市場全体の規模をも上回っている

 

中国の不動産市場の評価額は、2019年で52兆ドル。米国住宅用不動産市場の2倍にもなっている。米中のGDP規模から見て、中国は異常な膨張である。この状態が、正常とは言い難い。必ず、中国の不動産バブルは崩壊する運命だ。

 

(2)「中国政府にとって、こうした住宅市場の急速な回復は、良いニュースと受け止められる面もある。しかしそれは、不動産価格の上昇が制御不能となるのを防ごうと再三努めてきた中央政府にとって、長年悩みの種となってきた問題を思い出させるものでもある。中国の習近平国家主席は2017年、「住宅は住むために建てられるものであり、投機の対象ではない」と指摘。これが政府の住宅政策の基本指針となってきた」

 

中国不動産市場の「爆発的膨張」は、資本自由化の阻止によって海外での資産運用が抑制されている結果だ。政府が、均衡ある経済成長を目指さず、不均等発展を指向し国威発揚を狙った矛楯の表れである。決して、歓迎すべき現象でない。

 

(3)「人々にこのメッセージを真剣に受け止めさせるのは困難だった。過去10年間、住宅販売が借り入れに支えられて急激に伸びたことを受け、中国の家庭のレバレッジ比率は、今年第1四半期に過去最高の57.7%に達した。四半期ベースでの伸び率も、2010年第1四半期以来の高水準となった。同比率は、国内総生産(GDP)に対する家庭の住宅ローン、消費者ローンなどの債務の割合を示すものだ。こうした中国の問題の中心にあるのは、「政府は住宅価格を下落させたくないようだ」と買い手が考えていることだ。住宅価格が大幅に下落すれば、多くの人々にとっての富の主要な源泉が失われることになり、それが社会混乱の引き金になる恐れがある。こうした状況は、十分な資金を持つ中国市民が住宅購入を続ける動機の1つになっている。彼らは、経済全体の状況がどうなろうと、大都市の不動産が中国における最も安全な投資対象であり続けると信じているのだ」

 

中国政府は、威信をかけて不動産価格の下落を防がざるを得ない局面に立たされている。中国政府は、日常的に米国すら凌ぐと宣伝している手前、不動産価格下落を防ぐ「妙手」を持っていると錯覚されている。現実は何の妙手もなく、時間稼ぎをしているに過ぎないのだ。

 


(4)「中国当局が、幅広い経済を不安定にすることなく、いかにしてこの問題に対処できるかは、誰も分からない。たとえ、市場が好調を維持しても、政策立案者にとっては頭痛の種となる。一部のアナリストは、よりアグレッシブな景気刺激策が必要だと述べているものの、今年は政策立案者がそれを控えることを余儀なくされている。それが不動産価格を一層押し上げかねないことがその一因だ。不動産を全く所有していない人々の間で需要が減退したにもかかわらず、既に複数の不動産を所有している人々の間では需要が高まったのだ」

 

後述の通り、都市住民の96%が、すでに1軒の住宅を保有している。その上に、2軒目、3軒目の投機目的の所有である。投機需要を除いた「実需」は、ほぼゼロと言える。「赤信号、全員で渡れば怖くない」という危険な状態だ。人口に比べて過剰な住宅数が、いずれ住宅価格急落をもたらす引き金になる。

 

(5)「テキサスA&M大学の教授(経済学)で、中国の家計事情に詳しい甘犁(ガン・リ)氏によると、それは投機的投資の明らかな兆候だという。同氏は「投機的需要は増大している。人々は不動産が株式市場や海外資産より安全な資産だと考えている」と指摘し、「彼らはそれが保証されているとみている。パンデミックのせいで、実際の消費が減り、貯蓄が増えている。このため、投資に回せるお金は増える。不動産の問題は一層大きくなるだろう」と付け加えた」

 

パンデミックは、中国にもう一つの悲劇をもたらす。不動産投機を煽っていることだ。中国政府が、国内矛楯の顕在化を防ぐべく、海外での紛争勃発に注意を向けさせている。これが、「強い中国」という間違ったイメージを富裕層へ与えているのだ。不動産投機を間接的に支えている要因であろう。

 

(6)「中国の不動産ブームの拡大スピードがあまりにも速いことや、経済が圧迫されているときでさえも価格が上昇し続ける傾向にあることなどを、一部のエコノミストは非常に心配している。中国人民銀行(中央銀行)が4月に発表した調査によると、昨年の終わりまでに、中国都市部の世帯の約96%が少なくとも1軒の住宅を所有していた。これは、米国の住宅所有率の65%を大きく上回る」

 

中国人民銀行は4月調査で、都市世帯の96%が少なくとも1軒の住宅を所有している。米国の65%を大きく上回る状態だ。中国の住宅投機が、客観的にみて自然崩壊の条件を備えている。それに気付かない中国富裕層は、正常な経済感覚を失っていると言うほかない。憐憫の情を持って、そういう結論に達するのだ。