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中国の4~6月期の実質GDP成長率は、前年同期比3.2%増である。事前予測の同1.1%増を大幅に上回る「好成績」であった。習政権にとっては鼻高々であろう。それでも、1~6月期は、同マイナス1.6%である。

 

詳細は後で見るとして先ず、指摘すべき点は、不動産開発投資が1~6月期で、同1.9%も増えた点である。パンデミックという騒ぎの中で、不動産開発投資がプラスに転じている点に異常さを感じなければならない。空き家が現在、6500万戸も存在している。値上り期待の住宅投機である。この膨大な投機住宅が、転売できなければどうなるか。考えて見ただけで身の毛のよだつ話である。中国社会特有の「投機性向」が今後、破綻しないはずがない。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(7月16日付)は、「中国経済、プラス成長復帰に潜む危うさ」と題する記事を掲載した。

 

中国が16日に発表した年4~6月のGDPの実質成長率は前年同期比で実質3.%だった。文化大革命が終わった1970年代半ば以降で初めてマイナス成長に落ち込んでいた13月期から力強く回復した。16月期では依然として1.%減のマイナス成長だが、中国内陸部の武漢市で始まった新型コロナウイルスの感染拡大に今も苦しむ多くの経済大国にとっては、羨望の対象となる好記録だ。

 

(1)「中国経済が堅調に回復したのは、中国政府が2008年の金融危機当時と同様、経済の再始動を促すために大規模な信用供給に動いたが、金融当局は不良債権が再び急増し、規制の緩いシャドーバンキング(影の銀行)が膨張する恐れがあると警鐘を鳴らしている。08年の金融危機後、中国では債務がかつてないほど急速に積み上がった。新型コロナの感染拡大以降は膨張スピードにいっそう拍車がかかって過去最高に達している」

 

中国の4~6月期の実質GDPがプラス成長に転じたのは、大規模な金融緩和措置によるものだ。その影で、債務残高が急速に積み上がり、金融危機の芽を膨らませる結果となった。旧態依然とした景気回復策である。さもなければ、プラス成長は不可能なのだ。

 

(2)「消費主導の経済に転換し、投資に依存する経済成長モデルから脱却しなければならないと中国政府が唱え始めて久しいが、個人消費のGDPに占める比率は今も40%未満と著しく低く、アフリカのガボンやアルジェリアなどと同水準に留まる。英国、米国などの他の先進国では、個人消費がGDPの65~70%前後を占める。新型コロナの感染拡大は中国の小売・サービス業を直撃し、消費が冷え込んだ。スーパーや百貨店、電子商取引(EC)などの売上高を合計した小売売上高は、1~6月期に前年同期比で 11.%減少した

 

中国政府は、消費について誤魔化しの発表をしている。民間消費と政府消費を合計して、「消費」と称している。事情のよく分からないメディアは、この手に乗せられて「中国の個人消費は60%」という記事を書いている。これは間違い。民間消費は40%弱である。先進国に比べて、一段も二段も低いのだ。その代わり、固定投資が多くなっている。この固定投資リード型の中国経済が、個人消費リード型に転換するのは、10年以上の歳月が必要である。その間、GDP成長率はかなりの減速となる。

 


(3)「これを受けて中国政府は、金融危機の時と同じように、借り入れ頼みの投資で成長を支えようとしている。インフラ投資と不動産開発投資が投資拡大をけん引する点も金融危機時と同じで、硬直化した国有企業が支配するセクターが中心的役割を果たしている。中国の専門家は昨年、建設ブームに沸いた10年を経て、不動産市場では少なくとも6500万戸以上が空室になっていると試算していた。にもかかわらず、不動産開発投資は16月期に前年同期比で1.%増えた。一方で、固定資産投資全体では3.%減となっている」

 

中国の経済運営方針は、従来同様の固定投資リード型になっている。経済主導の切り替えは、GDP成長率を減速させるので軽々に行えないのだ。経済減速に耐えられないためである。不動産市場では、少なくとも6500万戸以上が空室と試算される。それにもかかわらず、不動産開発投資が16月期に前年同期比で1.%も増えている。「住宅バブル」の残り火に、「夢よもう一度」と賭けているのだ。哀れである。

 

(4)「中国が16日に発表したGDPデータを少し掘り下げてみれば、国有企業の投資が16月期に2.%増えているのに対して、民間企業の投資が7.%減っていることがわかる。この重要なデータは、ほとんどの海外投資家に配布された英語のプレスリリースからは都合よく排除されている。ただ、習氏が先ごろ承認した3カ年計画では、民間企業や外資企業を後回しにして国有企業を優遇する内容が盛り込まれており、その政策には合致している。中国の約13万社に上る国有企業には 非効率や無駄、汚職がはびこる。しかし、国家が危機に見舞われる今、中国を一党支配する共産党にとって、国有企業は雇用と社会的安定を支える基盤として不可欠な存在になっている

 

「国進民退」を絵に描くように、国有企業の投資が増え、民間企業の投資が減少している。中国共産党の立脚点は国有企業にある。ここが生き残らなければ、共産党政権も揺らぐのである。「国進民退」の促進である。

 


(5)「中国指導部は明らかに、国が主導する借り入れ頼みで投資する、旧来の手法を復活させることを決めた。一部のエコノミストは10年前、中国経済は一定のスピードで走り続けなければ倒れて壊れてしまう自転車のようだと評した。今日、中国経済という自転車は債務という重荷を抱え、酔っ払いがこいでいるように見える。そのかたわらでは、戦略的な競争相手である米国などが倒そうとする機会を虎視眈々と狙っている

 

中国経済は、過剰債務を背負ってフラフラになりながら自転車を漕いでいる姿に映るというのだ。米国が、中国経済の息の根を止めるチャンスを狙っている。中国はこれに気付かず、軍事力をかざして大言壮語している。末期的状況なのだ。