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中国は、「一帯一路」プロジェクトで海外に強力な「中国衛星国」づくりを目指してきた。その夢は、中国武漢が感染源である新型コロナウイルスのパンデミック化で、大きく躓いている。「一帯一路」プロジェクト対象国が、コロナ禍で財政的に行き詰まり、もはや中国主導のプロジェクトを受入れる余裕がなくなったこと。中国の国内事情では、人口高齢化に伴う福祉施設増強の要望が強くなり、「一帯一路」への批判が強まっている。

 

こういう中国を取り巻く内外事情の変化で、「一帯一路」の前途には赤信号が強く灯っている。米中貿易戦争から始まった米中対立は、コロナ禍、香港国安法の強硬導入によって、「冷戦」状態に向かっている。米中デカップリングが進み始めており、中国の輸出に大きな障害になってきた。これにより、経常赤字に転落する可能性が高まっている。これにより、「一帯一路」を支援する資金枯渇が現実化する。「中国の夢」は、儚く散りそうである。

 

『日本経済新聞 電子版』(7月20日付)は、「コロナ禍で一帯一路に黄信号、遠ざかる『中国の夢』」と題する記事を掲載した。

 

いち早く新型コロナウイルスの感染拡大の第1波を乗り越えた中国社会は平穏な日常を取り戻しつつある。一方で中国国外に目を転じると、広域経済圏構想「一帯一路」などを足がかりに「中華民族の偉大な復興」を成し遂げるという「中国の夢」の実現に黄信号が灯っている。高揚する国内のナショナリズムに後押しされた中国の居丈高な外交路線が、世界中から反感を買う。その強硬な姿勢は「マスク外交」を通じて各国に医療支援しているときも変わらなかった。奇妙な政治理論に支配された一党独裁体制の限界が露呈した。

 


(1)「中国当局が初期対応を誤ったために武漢市で感染が拡大した新型コロナは世界中に拡散した。中国に付いてしまったそんなマイナスのイメージを、「世界に手を差し伸べる責任ある大国」というプラスのイメージに転換するのが狙いだ。中国が重点的に支援したイタリア、インドネシア、マレーシア、パキスタン、スリランカといった国々を眺めると、ある共通点が浮かび上がる。その多くは「一帯一路」の参加国である」

 

中国がコロナで重点的に支援した国々は、イタリア、インドネシア、マレーシア、パキスタン、スリランカである。その多くは「一帯一路」の参加国である。中国が橋頭堡とする国々である。

 

(2)「中国は一帯一路に未参加のフランスやオランダ、スペインなどにも医療支援の手を差し伸べており、「責任ある大国」との好印象を与えることで、参加に向けた下地作りを進めているようにも見える。中国が医療支援した国は全部で150にも及んだ。一帯一路を通じて中国の勢力圏を拡大し、米国を凌駕する超大国としての地位を獲得するという野望が透ける」

 

中国は、米国を凌ぐ超大国を夢見ている。だが、中国には普遍的価値観がないのだ。あるのは、「中国式社会主義国」という独善的価値観である。これでは、中国が世界の頂点に立つことは不可能だ。この重要な点での認識が、中国には完全欠如である。

 

中国で初めて統一を実現した秦の始皇帝時代と現代の一帯一路では、価値観のギャップが大きな障害となる。始皇帝時代は、漢族で同じ価値観であった。一帯一路では、価値観が中国と全く異なっている。この違いが、中国の夢を遮るはずだ。

 


(3)「一帯一路は計画通りに進んでいるわけではない。モンゴル、ラオス、パキスタン、キルギスなどでは、中国からの巨額の貸し付けが国の返済能力を大きく超えている恐れがあるなど、問題が噴出している。開発を受注するのは中国企業で資材も中国から購入。中国人労働者が建設に従事し、地元社会の恩恵は少ない。結局は国が借金漬けになるだけとの不満から、一部では中国への反感が高まっている。反中が広がったザンビアでは、現地に進出した中国メーカーの中国人幹部が惨殺される事件が発生した」

 

中国の価値観は、自国中心の身勝手意識の優先である。これは、世界の普遍的価値観に背を向けたもの。このギャップが、各国で問題を起こしている。

 

(4)「一帯一路は中国国内と国外の両方で逆風にさらされる」と語るのは、13~17年に東アジア・太平洋担当の米国務次官補を担ったダニエル・ラッセル氏だ。現在、米アジア・ソサエティー政策研究所の副所長を務めるラッセル氏は、「どの国もそうだが、社会が豊かになって中流層が厚くなると、政府への要求が増えてくる。中国国内でも、昨年ごろから一帯一路を疑問視する声が増えていた」と語る」

 

中国経済は、潜在成長率の低下局面である。人口高齢化に伴い国内での福祉需要は膨らむ一方である。貴重な貯蓄は、中国国内へ向けろという要求が高まってゆく情勢である。一帯一路へ回す資金はなくなるのだ。

 


(5)「国民の理解を得るのが難しくなってきている上、中国政府はコロナ禍で新たな経済対策に取り組む必要がでてきた。特に痛手を受けているのが中小企業だ。中国で中小企業は雇用の大きな受け皿となっており、失業率を抑えるためにも対策が急務だ。景気の減速で、退職給付や社会福祉などのセーフティーネットも一層充実させる必要がある。ラッセル氏は「社会不安が政治運動につながり、体制が揺らぐのを共産党は最も警戒する」と解説する。体制を盤石なものとするためにも国内の安定を図る投資を優先し、一帯一路は二の次にせざるを得ない」

 

コロナ禍で、国内の中小企業が大きな痛手を受けている。一帯一路へ回す資金のゆとりはないのだ。

 

(6)「一帯一路に参加している国々も、コロナ禍の影響で世界経済が減速し、これから財政が苦しくなると予想される。限られた国家予算を公衆衛生に優先的に回す必要があり、中国に対して巨額の債務を負ってインフラを整備する余裕はなくなる。よって一帯一路は停滞するというのがラッセル氏の見立てだ」

 

一帯一路に参加している国々も、コロナ禍で国内経済が痛んでいる。巨額の一帯一路に使う財政的なゆとりはない。一帯一路に逆風が吹き付けて当然だろう。