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韓国政治の動向を左右するのは、20~30代女性有権者である。李明博(イ・ミョンバク)大統領や朴槿惠(パク・クネ)大統領の時代もそうだった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が当選できた裏には、20~30代女性の動向を敏感にキャッチして、「フェミニスト文在寅」を見事に演じ切ったことが大きく影響している。

 

文大統領は、若い女性層から「フェミニスト」として大きな期待がかかっていることを承知しながら、今回のソウル市長セクハラ事件では無言を貫いている。遺憾の旨を発言すれば、進歩派の仲間を裏切ると思っているのだ。被害女性に味方してきた従来の「フェミニスト文在寅」は、もはや存在しないのだ。存在するのは、与党「共に民主党」一員としてわれ関せず、を貫くしかない「偽フェミニスト文在寅」である。この日和見主義は、次期のソウル市長選と釜山市長選に大きく響くだろう。

 

文在寅氏がかつて党代表を務めた際、セクハラがらみで辞任した後任選挙では、共に民主党候補者を立てないと発表した。ソウル市長と釜山市長は、いずれもセクハラ辞任である。韓国与党は、この方針通りとすれば候補者を立てられず『不戦敗』だ。与党には、次期大統領選も逆風である。セクハラが招いた突風である。

 


『朝鮮日報』(7月24日付)は、「女性を食い物にする女たちと男たち」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の楊相勲(ヤン・サンフン)主筆である。

 

(1)「20~30代の女性たちの政治意識が反保守に流れ始めたのは狂牛病(牛海綿状脳症〈BSE〉)騒動時からだったと思われる。李明博氏は大統領選挙で、ライバル候補よりも20~30代の女性たちからはるかに高い支持を得ていた。しかし、狂牛病騒動が起こってからは劇的な変化を見せる。騒動後の世論調査で、李明博大統領に対する20~30代の女性たちの支持率は6%まで急落した」

 

李明博大統領は、大統領選で20~30代女性から高い支持率を得ていたが、狂牛病問題でこれら層の支持率が一挙に下落して6%にまで落込んだ。

 

(29「2012年の大統領選挙で朴槿恵候補に対する20代の女性たちの支持は文在寅候補の半分にも及ばなかった。最後の世論調査では朴槿恵候補26%、文在寅候補63%だった。少し分かりにくいこの現象について、「若い女性たちは朴槿恵候補を同じ女性として認識するよりも、『女性の姿をした年寄り』や『金のスプーンとはしの(金持ちの家に生まれた)お姫様』だと見ている」という分析も出た」

 

文在寅氏は、2012年の大統領選で落選したが、20代女性は、朴槿恵候補26%、文在寅候補63%というぐあいに、文氏が圧倒的な支持率を得た。

 

(3)「負けはしたものの、2012年の大統領選挙時の若い女性たちからの圧倒的支持は、文在寅大統領がこれを大きな資産だと考えるようになったきっかけになったようだ。このころから文在寅大統領の姿勢は変わる。その象徴的な出来事が2016年に発生した「ソウル・江南駅無差別殺人事件」だ。精神疾患のある男が若い女性を理由なく殺害した事件で、女性たちは大きな衝撃を受けた」。

 

文氏は、2012年の大統領選で若い女性支持者の圧倒的支持で「フェミニスト文在寅」に変身した。そのきっかけが、2016年に発生した「ソウル・江南駅無差別殺人事件」だ。

 


(4)「文在寅氏は当時、一人で江南駅を訪れ、弔問に来た若い女性たちに寄り添った。若い女性たちの間で文在寅ファン層が形成された。これらの人々は後に「私たちのイニ(文在寅)、やりたいことを全部やって」というフレーズを作り、地下鉄駅に文在寅大統領の誕生日を祝う広告板を出したりもした。こうした支持はコンクリートのように固く、どんな時も揺らがなかった。一言で言えば「忠誠集団」だった。文在寅大統領は自らをフェミニズム(女権運動)大統領だと宣言し、性に関する問題が出るたびにことごとく介入した」

 

文氏は、一人で事件現場を訪れ弔問し、若い女性たちの支持を集めるようになった。これが、2017年大統領選で大きな力となって見事、当選の栄に輝く原動力になった。

 

(5)「文在寅大統領は進歩陣営の人々が相次いでMeToo(性暴力被害の告発)運動の対象となった事態について、「これは女性の人権問題」だとして、「性暴力の抜本塞源(そくげん=弊害などを根本からなくすこと)」を指示した。それまでの加害者たちは、文在寅氏や共に民主党と大統領候補をめぐって争った人々や検察幹部、芸術家などだった。だから、文在寅大統領はこのころまでは女性たちの味方になってこられたものと思われる」

 

大統領当選後の文氏は、積極的にMeToo運動を支援した。加害者が、文陣営(与党)でないので、「気軽」に支援できたのであろう。

 

(5)「朴元淳市長事件で、文在寅大統領の「本性」が明らかになった。加害者である朴元淳市長に対して哀悼の意を表し、被害女性に対してはたった一言のいたわりの言葉すらない。傷ついた多くの女性たちに対しても「抜本塞源」を約束するどころか沈黙している。文在寅大統領は何よりも加害者をかばい、被害女性を非難する熱狂的支持層の動向を意識したのだろう。MeToo運動を起こした女性たちが朴元淳市長に対して沈黙しているのと同じだ。釜山市長だけではなく、ソウル市長補欠選挙まで行う事態となった今、自身の陣営の道徳崩壊を自ら認めるのも難しいだろう」

 

文大統領は、国民統合の大統領にはなれなかった。民主党代表の「大統領」である。セクハラ事件の加害者が民主党陣営となると、途端に鋭い舌鋒は消えて無言を装うからだ。MeToo運動を起こした女性たちが、朴元淳ソウル市長に対して沈黙しているのは、余りにも「党派性」に過ぎる。身内の犯罪に甘く、他人の犯罪に厳しいこの落差は、文大統領を筆頭に、与党全体の「ご都合主義」を見せつけているのである。