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世間には、中国の「脱米ドル」の動きに幻惑されて、中国人民元の地位が上がるだろうと無責任な論評をする向きがいる。その裏には、中国がそういう噂をまき散らし、それを真に受けているに違いない。

 

各国の中央銀行が、外貨準備高に編入した通貨のうち人民元が占める比率は極めて低いのだ。IMF(国際通貨基金)によると、1~3月期基準で各国中央銀行の保有通貨のうち人民元の比率は2%にすぎない。米ドル(62%)、ユーロ(20.1%)と比較すると全く見劣りするのだ。中国経済への信頼感が、それだけ低い証明なのだ。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月26日付)は、「米ドルの地位揺らがず、コロナ危機で鮮明に」と題する記事を掲載した。

 

国際決済銀行(BIS)が先に公表したデータは、世界がいかに米金融資産に依存しているのかを改めて想起させる内容となった。米公的部門に対する米国外の銀行による与信が、1~3月期(第1四半期)に爆発的な伸びをみせたのだ。このデータには、米国債の保有および米連邦準備制度理事会(FRB)に対する与信も含まれている。

 

(1)「外国銀行による米公的部門への与信は合計で5644億9000万ドル(約59兆8300億円)増加した。これは世界の政府・中銀に対する与信の伸びの半分以上を占める。また世界全体の公的部門に対する銀行の与信は、四半期ベースの伸びとしては過去最高を記録した。BISによると、米国外の銀行がFRBに預け入れた準備は1~3月に3200億ドル増加した。外国銀行による米公的部門への与信で、FRBの準備が伸びの大部分を占めることもうなずける」

 

今年1~3月は、パンデミック騒ぎが始り世界経済の混乱が危惧され始めた時期である。その時、米国外の銀行がFRBに預け入れた準備は、1~3月に3200億ドルも増加したのである。米国へ預金すれば「大丈夫」という信頼感である。潜在的な米国「フアン」と言える。中国ではないのだ。

 

(2)「金融市場が今春、大荒れとなった時期に、米国が極めて支配的な立場を占めたことは、それほど意外なことではない。だが、将来のドルの役割を考える上で、検討すべき事柄だ。いずれ、別の代替通貨が米ドルの独占的な地位に挑むことがあるかもしれない。ユーロ圏経済の規模は、ドル建てベースで米国の6割程度だが、ユーロ圏公的部門に対する与信の伸びは、米国のおよそ3割だ。欧州連合(EU)が共同債の発行計画を発表したことで、いずれは安全資産とされるユーロ建て共同債が誕生し、ユーロの国際的な地位を押し上げるかもしれない。だが、それでも「必然の存在」にはまだ程遠い」

 

EU経済圏も、共同債の発行で資金をEUに止める働きをするだろうが、米ドルに挑戦するような力はない。

 

(3)「途上国の政府・中銀に対する国境を越えた与信の伸びは、わずか188億8000万ドルにとどまった。人民元が重要な国際通貨になると主張する向きは、金融環境が悪化した場合に、世界の投資家が中国の国家組織に喜んで頼るのか、今一度考えてみるべきだ。世界の外貨準備で米ドルが占める割合は62%に上る。これは世界の基軸通貨としてのドルの重要性を裏付ける証拠としてよく言及されるが、それどころか、この数字はドルの役割を過小評価している可能性さえある。世界中の銀行にとって、非常に重要な局面では米国が唯一、支援を求める上で真の頼れる場所となる。1~3月期(とりわけ3月)は、米国がこれまで以上にその役割を担ったようだ」

 

下線部は、皮肉な指摘だ。世界経済が混乱したとき、どこの国が中国へ預金して安心感が得られるだろうかと反問している。自由変動相場制でなく、資本の自由化も行えない未成熟金融国家は、最初から「お呼びでない」のだ。米国と中国の差は、月とスッポンの違いだ。

 

中国は、国際金融市場での劣勢状況を変えるために、強力な措置を駆使する可能性も指摘されている。『ブルームバーグ』は、「中国が輸入代金を人民元で支払い、中国に入ってくる外国人直接投資(FDI)と海外への借款を人民元ですれば、人民元の利用がより高い段階になるかもしれない」と伝えている。

 

資本ほど臆病なものはない。中国へのFDIが、人民元という制約条件がつけば当然、資金移動も人民元となろう。中国が、基軸通貨でない人民元使用を他国に強制できるには、米国を上回る経済力を持たなければ無理である。資本は、そういう中国へは向かわないのだ。