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次期WTO事務局長選は、アフリカ出身で女性の2候補が、有力候補となって浮上してきた。ケニアのアミナ・モハメド氏とナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏である。韓国出身の兪明希(ユ・ミョンヒ)氏は、米国と近すぎるということで、最終候補に残るのは難しい情勢という。

 

ブックメーカー(賭け屋)のオッズやジュネーブの外交筋の予想では、前記の両氏が他候補より断然優位に立っている。これまで女性やアフリカ出身者がWTOの事務局長に就いた例はない。米中ともに意中の候補を明らかにしていないが、複数のEU高官の個人的見解によると、両国とも通商分野で優れた実績のあるモハメド氏に傾きつつあるという

 

『フィナンシャル・タイムズ』(8月4日付)は、「WTO次期トップ有力2候補、米主張の改革支持」と題する記事を掲載した。

 

世界貿易機関(WTO)の次期事務局長選挙に出馬した2人の有力候補が、米国の抗議で機能停止に陥っている紛争処理制度の上級委員会や、さらなる弱体化が懸念されるWTO全体の改革に支持を表明した。

 

(1)「8月末に退任するアゼベド事務局長の後任には、ケニアのアミナ・モハメド氏とナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏が有力視されている。両氏は英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)とのインタビューで、上級委が紛争処理手続きで本来の役割を大きく逸脱しているとの米国の批判について正当との認識を示した」

 

ケニアのアミナ・モハメド氏とナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏は、米国のWTO批判を正統なものと認めた。WTO上級委(二審)が、現実を無視した判断を下してきたと批判している。

 


(2)「WTOの紛争処理制度の最終審に当たる上級委は、米国が欠員の補充を拒否しているため機能停止に陥っている。低価格品の輸入に対抗して打ち出した規制をWTO協定違反だと繰り返し判断した上級委に対して、米国は強い不満を表明している。米国の批判は妥当かとのFTの質問に、ケニアの外相や貿易相を歴任したモハメド氏は「米国の懸念はもっともだ」と答えた。さらに「加盟国の大半が(上級委は)与えられた権限を逸脱しているとの認識を共有している」と述べ、加盟国はWTOのルールを作る権限を取り戻すべきだと主張した」

 

前記の二人の有力候補者は、低価格品の輸入に対抗して打ち出した規制が、WTO協定違反だとしてきたWTO上級審の見解を否定している。これは、米国の見解であるが、EUも米国の見解に賛成している。

 

(3)「同氏はまた、「上級委の委員は与えられた権限だけを行使でき、紛争当事国の権利の加減などはできないと理解する必要がある。そうした権利は加盟国間の交渉に委ねられてきた」と指摘。上級委が慣例として他の国や地域で争われた別の事例を援用し、意図的に先例を作ってきたのは「正しくなかった」と付け加えた」

 

これまでのWTO上級委が、各国の事情でなく、意図的に先例を作ってきたことは間違いであると指摘している。

 


(4)「オコンジョイウェアラ氏はナイジェリアの元財務相で、現在はワクチンの開発と接種を支援する国際官民連携団体「ガビ・ワクチンアライアンス」の理事長を務めている。同氏は米国の批判について「大半の人は彼らの主張に同意するだろう。上級委が加盟国間の合意を逸脱した事例もあったかもしれない

 

オコンジョイウェアラ氏は、上級委が加盟国間の合意を逸脱した事例もあったかもしれないと認めている。上級委は、強い批判を浴びている。

 

(5)「これまでのところ、各候補者は後継者への強い意欲よりも、自身の能力や政治的影響力の高さをアピールしている。モハメド氏とオコンジョイウェアラ氏が上級委の司法権限逸脱に関する米国の見解を擁護するのも、特に欧州連合(EU)などで米国に共感する声が高まったからだ。両氏はともにニュージーランドのWTO大使デイビッド・ウォーカー氏が示した上級委の改革案を議論のたたき台として提示している」

 

WTO改革で、米国・EU・日本は三極構造で話合いを進めている。新事務局長が、WTO改革で努力すれば、中国の立場は苦しくなる。

 


(6)「モハメド氏は外相時代にWTOで最も影響力のある一般理事会の議長を務めた経験があり、2015年にケニアのナイロビで開催された閣僚会議でも議長として輸出農産物への補助金撤廃の合意を実現した。「私は即戦力の候補者だ。すぐに全力で仕事に取り掛かる準備はできている」と同氏はFTに語った。モハメド氏また、WTOに「新風を吹き込むつもりだ」と述べ、こう付け加えた。「WTOの中枢で働き、制度がどう動いて加盟国間の相違をどう埋めるべきかを熟知し、政治的な才覚を持ち合わせ、他の閣僚との交渉をまとめ上げた経験もある人物が初めてWTOのトップに就くことになる」

 

モハメド氏が有利な印象を受ける。

 

(7)「そんなモハメド氏のライバルとなるオコンジョイウェアラ氏は元財務相という経歴から、通商分野は不案内ではないかとの疑念を持たれている。7月にWTO大使を前に行った演説で、その知識不足が浮き彫りになったと一部の出席者は証言する。しかし同氏はインタビューで「デミニミス(最小限)条項の対象外となる総合的計量手段(AMS)に関する質問か? (WTO農業協定の)62項に関してか?」などとWTOの農業補助金に関する専門用語を使いこなし、経験不足との懸念の払拭に努めた。そして、世界銀行専務理事として携わった経済開発やワクチン分野などでの豊富な経験を強調した。オコンジョイウェアラ氏は「WTOはもっと幅広い問題について議論すべきだ。新型コロナウイルス感染症はWTOが主導すべき大変重要な課題だ」と述べた」

 

オコンジョイウェアラ氏も負けていない。新型コロナウイルス感染症は、WTOが主導すべき大変重要な課題だ、とも述べている。WHOのお株を奪うほどの元気さである。

 

(8)「残る6人の候補者について言えば、エジプトのハミド・マムドゥ氏は政治的影響力に欠けるとの見方が多い。メキシコのヘスス・セアデ・クリ氏と韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)氏は地政学的に米国と近すぎると中国からみなされる可能性が高い。サウジアラビア、モルドバ、英国の各候補は大きく水をあけられている」

 

残る6人の候補も優秀であろうが、今回のWTO事務局長は、「アフリカ」と「女性」がキーワードである。前記2氏が頭角を現しているのは、この「キーワード」にそうめんもある。