テイカカズラ
   

中国政府は、華為技術(ファーウェイ)の5G技術を排除する国に対してすぐに脅しをかけている。米政府が、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)にアプリの米国事業売却を迫っても、中国政府は沈黙しているのだ。中国政府はファーウェイの例と異なり、バイトダンスを守ろうとしないだろう、という見方が増えているという。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(8月4日付)は、「中国がファーウェイのようにTikTokを守らない理由」と題する記事を掲載した。

 

バイトダンス創業者の張一鳴氏と仕事をしたことがある中国ハイテク産業の幹部は「中国では大半の人が、バイトダンスが中国政府と密に協力しているという考えを笑い飛ばすだろう」と話している。

 

(1)「中国共産党が正統性の基盤としている国内経済にとって、ファーウェイはバイトダンスよりもはるかに重要な存在だ。ファーウェイは中国のモバイル技術革命を支える携帯電話基地局を構築し、間接的に大勢の工場労働者を雇用している。一方、バイトダンスは中国の検閲体制にとって懸念材料となっているニュース・動画アプリを作っている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の最中に人員の採用を続けた数少ない企業の1社だが、採用しているのは主に大都市のエリート新卒者だ」

 

ファーウェイとバイトダンスでは、「企業の社会的立場」が違うということらしい。バイトダンスは、中国における存在感がファーウェイと異なって低いのだ。

 


(2)「ハイテク業界に特化したシンクタンク「海豚智庫(ハイトゥン)」の李成東氏は、「バイトダンスと中国政府の関係は全く良くない。政府にしてみると、この種のソーシャルメディアプラットフォームを統制するのは非常に難しい」と指摘する。同氏は「バイトダンスは戦略的に重要な企業ではない」とも付け加えた。ファーウェイは創業33年の歴史を持つ「国内チャンピオン企業」だが、バイトダンスは相対的に言って新規参入組だ。地位が確立された百度(バイドゥ)や騰訊控股(テンセント)の経営トップとは異なり、バイトダンスの創業者は国政助言機関である全国政治協商会議のメンバーになっていない

 

バイトダンスの創業者は、国政助言機関である全国政治協商会議のメンバーになっていないという。ここら当りに、社会的な地位が覗われる。

 

(3)「ファーウェイに対する米国の制裁は同社の社運にとって、バイトダンスよりもはるかに大きな脅威になる。ファーウェイはグローバルな半導体サプライチェーン(供給網)に依存しており、売上高の6割以上を海外で稼いでいる。対照的に、バイトダンスはまだ赤字の米国市場で事業を拡大するために中国で稼いだ利益を使っている。各国は自国の通信網にファーウェイの機器を組み込むことで中国との現行の経済関係に組み込まれる。これは中国政府にとって好都合だ。だが、ティックトックのアルゴリズムはアプリを世界的に広めたものの、バイトダンスは戦略的な依存関係を生み出さない。各国政府が自国の通信インフラをバラバラにするよりも、世界のティーンエージャーが別のインターネットの流行を見つける方がはるかにたやすい」

 

バイトダンスは、米国で赤字である。中国で稼いだ利益をつぎ込んでいる。中国に貢献していないという理屈だ。

 

(4)「中国政府が反撃に出る勢いが限られる。中国政府はもっと重要な利益を守っている。つまり、経済を支え、自国製品に対する海外の需要を支えることだ。反中レトリックに満ちた米大統領選があるだけに、中国政府が(米国との対立の)エスカレート合戦を展開することも安全でなくなる」

 

ここで、中国政府が表面に出ると、問題を複雑にする。米大統領選前だけに静観していると言える。もっと、大きな問題を抱えている、という意味だろう。この程度の問題でしゃしゃり出ないということらしい。

 

(5)「中国政府はバイトダンスをめぐって米国と争う新たな戦場を設けるつもりはない」。独立系調査会社プレナムの政治リスクアナリスト兼パートナー、フェン・チューチェン氏はこう話す。「この問題は米国の選挙にもかかわってくる。選挙は目下、恐らく米国で最も微妙なトピックであり、中国としては干渉していると見られたくない

 

中国は、米国の大統領選の渦中へ飛び込むことを避けたい。これ以上、米国の怒りを買いたくないという気持ちが強いのだろう。