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中国の習近平国家主席は、後代の歴史家にどのように評価されるだろうか。「民族主義者」習近平は、国力を無視して米国へ挑戦して退けられ、急速に国力を消耗したと記されるであろう。現実に、中国が真っ正面から米国にぶつかっても、勝てる相手でないのだ。「速度制限」を大幅に上回って疾走してきた中国が、速度制限にゆとりを持たせて走っている米国に、耐久レースで勝てるはずがない。本欄は、米中関係を本質的にこのように見る。

 

『日本経済新聞』(8月8日付)は、「米怒らせた中国 外交に変化の芽 」と題する寄稿を掲載した。筆者は、豪ロウイー研究所シニアフェロー リチャード・マクレガー氏である。豪紙『オーストラリアン』を経て、英紙『フィナンシャル・タイムズ』で北京、上海支局長を経験した。

 

米国をはじめ多くの国々との関係が悪化する中国の指導部は、疑問を抱き始めているだろうか。表面的には、習近平(シー・ジンピン)国家主席らが軌道修正し、野心的な外交目標を後退させている兆候はみえない。

 

(1)「中国人民解放軍のシンクタンクである中国軍事科学院の周波・名誉フェローは7月27日、香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』に寄稿した。周氏は米国との対立を、中国の「平和的」な発展への「逆風」とみているようだ。ポンペオ米国務長官は723日、演説し、米国は国際秩序を転覆させようとする中国の試みをもはや容認しないという姿勢を示した。中国は周氏のような論調を示し、厳しい対中批判をかわそうとしているようだ。中国の学者らの間には以前から、強引な外交・軍事政策によって米国を挑発していると習氏を批判する声が上がっていた」

 

中国にとって「不運」なのは、新型コロナウイルスがパンデミックとなって世界に甚大な悪影響を与えたこと。もう一つ、香港に国家安全維持法を導入して「一国二制度」を破棄したことだ。これは、従来の中国イメージを一変させた。「何をするか分らない中国」というイメージを欧州に植え付けたのだ。

 

欧州は、これまで米国と距離を置いて、中国への「親近感」を持ってきた。それが、パンデミックと香港問題で一変した。米国との距離を縮めて対中共同作戦を取るに至ったのだ。

 

こういう海外における対中姿勢の変化は、中国国内の「習近平反対派」を勇気づけるであろう。中国経済が悪化すればするほど、「習批判」が高まっても可笑しくはないのだ。

 


(2)「かつて改革開放にカジを切った鄧小平氏は、爪を隠して力を蓄える「韜光養晦(とうこうようかい)」という対外政策だった。習氏への批判派は、控えめな外交路線を貫くほうが、中国の国益にはるかにかなうと考えているようだ。中国のような大国が低姿勢を保つのは不可能なのかもしれないが、批判派は習氏を名指しせず、鄧氏の路線を持ち出して隠れみのにしようとしているらしい

 

習氏は、実父と鄧小平の関係が悪かったことから、鄧小平を低評価する悪いクセがある。国家指導者としての器量は、鄧小平が断然、習近平を上回っている。鄧小平が健在であれば、現在のような米中関係になっていなかっただろう。

 

(3)「中国の外交官らが他国に攻撃的な言動をする「戦狼外交」は、一時期に比べ鳴りをひそめているようだ。中国が新型コロナウイルスの感染拡大の危機から脱しつつあった時期、多くの国から激しい反発を受けたため、外務省の「戦狼」は頭を垂れておとなしくしているとみられる」

 

「戦狼外交」(注:他国への戦闘的発言)は、世界の反感を買った。中国外交部に根拠のあやふやな「ウソ情報」を流させたところに、習近平氏の狭量さが見て取れる。子どもじみた発言だったのだ。習近平氏が、偉大なる指導者であれば「戦狼外交」などさせるはずがない。自ら、視野の狭い民族主義者であることを証明した。

 


(4)「中国人民解放軍の戴旭氏は対外強硬派の論客とされるが、最近の寄稿で、中国が米国と比べた自らの弱点を認識して行動することを提唱している。戴氏はトランプ米政権の不安定で一方的な外交、特に貿易政策への不支持が広がっているにもかかわらず、米国と対立する中国の友人が増えるわけではないことに注目する。中国とともに、反米同盟を結成しようと名乗りを上げる国はないと論じた」

 

パンデミックに巻き込まれている各国が、中国の味方になるはずがない。各国とも、中国へ賠償金を請求したいほどである。中国は、これで大きな借りができた。中国外交の制約条件となったのだ。

 

(5)「戴氏は、中国が(米国の)ドアをたたき「米国を追い越し、米国に取って代わり、世界一になる」と声高に宣言すべきではないとも警告している。中国が先走っていることを認めているようだ。戴氏は、中国は日本に目を向けるべきだという。日本は中国よりも、他国に追い抜かれそうな米国の不安をよく理解しているとみているのだろう。貿易問題で米国の圧力にさらされている中国の政府高官は近年、米国への対処法について、日本の関係者に助言を求めているようだ」

 

米中関係が悪化すると、中国は不安になって日本へ接近する。これまでの例が、それを示している。日本に、米国への仲介を頼むためである。ただ、これは日本を利用する、便宜的なものに過ぎない。日本と真の友好関係になろうと考えていないのだ。尖閣諸島への中国の姿勢を見れば、それは明らかである。中国の日本への「ニーハオ」は、つくり笑いに過ぎない。それを忘れると大変な目に遭うだろう。

 


(6)「日本には貿易摩擦で米国の圧力をかわすために使った手法があるが、中国への重要な助言は「米国を怒らせるな」ということだろう。もちろん日本と中国は異なる。日本は(軍事面などで)米国に保護される立場でもあり、不利な立場に置かれていたといえる。中国にこうした制約はない」

 

日本は、太平洋戦争で米国を怒らせた代償で原爆を浴びた。米国は、「ヤンキー精神」(開拓者精神)であることを忘れると大変な事態を招くのだ。

 

(7)「中国は日本よりはるかに大きく、軍はより強大で、政治体制は西側に対する強力な敵愾心に根差している。中国の野心や鉄の規律などが、軌道修正を難しくしている。中国は既に「米国を怒らせてしまった」ため、現状の変更は容易でないだろう。米国だけでなく、歩調を合わせた世界の中国への反発が、当面続くことは確実だ。中国に友好国がなくなる懸念はあっても、各国の反発が、中国の行動に影響を及ぼすかどうか定かではない」

 

中国は、すでに先進国をすべて敵に回してしまった。今さら、「ごめんなさい」とも言えないであろう。中国を救う道は、習氏が引退することに尽きる。中国が、保護主義を守って世界を敵に回せば、亡国の道へ通じるであろう。