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 文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は、文在寅大統領の外交・安全保障における最大のブレーンとして、強い影響力を持っているとされる。だが、無給で特別補佐官を務めていることを理由に、言いたい放題を続ける点で、韓国の対外的なイメージに大きな損害をもたらしてきた。

 

それを承知で、またまた米韓関係をどん底に落としかねない「論文」を個人名で『ハンギョレ新聞』に寄稿した。主旨は、トランプ政権の「反共政策」を悪魔呼ばわりするもの。例え、個人名の寄稿とはいえ、現職の大統領府統一外交安保特別補佐官である。その反響は大きなものが予想されるのだ。

 

『ハンギョレ新聞』(8月10日付)は、「『新冷戦』を作る三匹の悪魔」と題する寄稿を掲載した。筆者の肩書きは、文正仁・延世大学名誉特任教授だ。現職は、大統領府統一外交安保特別補佐官である。

 

外交政策に関するホワイトハウスのレトリックによく登場するテーマがあるとすれば、それは敵対国の“悪魔化”であろう。1980年代、レーガン元大統領はソ連を「悪の帝国」と規定し、ジョージ・ブッシュ第43代大統領も2003年の一般教書で北朝鮮、イラク、イランを「悪の枢軸」と称した。そして今年7月23日、マイク・ポンペオ米国務長官はニクソン図書館での演説で中国を「フランケンシュタイン」と呼び、事実上中国との決別を宣言した。新冷戦を宣言したわけだ。

 


(1)「レスリー・ゲルブ元米外交問題評議会議長は、2009年に発刊した『権力の規則』という著書で、外部の悪魔は米国が作り出したものだとして、次のように説明する。「外交政策はロケット科学のようなものではなく、常識だ。しかし、行き過ぎた原則と理念、腹黒い政治、そして権力の傲慢がそのような常識を圧倒している。これら3匹の悪魔(demon)が常識に基づく外交政策の選択を奪っているのだ」

 

外交用語において、「悪魔」なる言葉は感情むき出しである。「理性」の一片も感じられないが、政治的なアドバルーンでは大きな意味を持つ。旧ソ連も中国共産党も、この種のアドバルーンを常用している。米国は許されないが、旧ソ連や中国共産党には許されるという論理は飛躍し過ぎている。公正な立場とは言いがたい。「親中朝・反日米」という韓国進歩派共通のイメージ通りの発言である。

 

(2)「レスリー・ゲルブ氏によると、行き過ぎた原則と理念という第一の悪魔は自由と民主主義、反共と反テロ主義に対する行き過ぎた価値指向性の産物だ。これらの価値を神聖視するワシントンの精神的土壌が善悪と白黒の二分法的な外交政策を作り出す。現実世界に背を向けた過度な理念は政策の失敗に帰結する。第二の悪魔は、政府の外交政策に問題があることを知りながらも、これに沈黙するか便乗するワシントンの政治風土だ。「崇高な米国的価値を目指す」外交政策に対する批判的な見方は臆病な穏健派と見なされ、ひたすら強硬派の声だけが激しさを増す間、政府と議会はいずれもそれに便乗する。第三の悪魔は、欲しいものは何でも手に入れられるという傲慢な態度だ。外部の挑戦に自信を持つことは必要だが、克服する能力や資産が足りない状況で見栄を張るのはうぬぼれ(hubris)にすぎないと、ゲルブ氏は厳しく忠告する」

 

米国が、「悪魔」という言葉を用いる時は「危機感」を表明したときだけである。常時、この言葉が登場する訳でない。レーガン元大統領、ジョージ・ブッシュ第43代大統領、そしてマイク・ポンペオ米国務長官発言の背景には、「国家危機」という共通の認識がある。

 

現在の米国は、気付いたら中国共産党のスパイ活動に取り込まれている状態だ。中国の在米外交官は、外交官特権を利用して「全員」がスパイ活動に取り組んでいる、とFBIが言い出すほどなのだ。米国は、この外交官特権を利用したスパイ活動を取り締まるべく、米中の派遣外交官数を同数にするように申入れている。

 

米国にとって、これが「国家危機」であるという認識を持つのは当然であろう。その危機感が、中国共産党を「フランケンシュタイン」呼ばわりしたことで非難されるだろうか。単なる言葉尻で米国を非難するのは、中国擁護論者として逆批判されるだろう。

 


(3)「ポンペイ長官の演説にも、彼が警告した3匹の悪魔が姿を現している。第一は反共主義の復活だ。以前の包容政策が中国を変化させることに失敗し、むしろ中国共産党の力はさらに大きくなり、中国人民だけでなく米国を含む自由世界を脅かす怪物になったという結論がまさにそうだ。習近平国家主席を「破産した全体主義イデオロギーの真の信奉者」だとし、中国を「覇権を握るために乗り出した新しい全体主義独裁国家」だと規定して全面戦争を強調する部分は、国益優先を強調してきたトランプ政権の取引主義とはかけ離れている。反共主義の復活というこの極端な価値命題に、どれほど多くの人々が共感できるだろうか」

 

「反共主義」とは、旧ソ連が没落して以来、久しぶりに聞く言葉だ。中国が、米国の覇権に挑戦する意思を明確にしている以上、挑戦を受ける米国が、中国共産党に対して「反共」という言葉を用いたのであろう。中国共産党が、香港国家安全維持法を制定して、「一国二制度」を破棄した。これに対して、西側諸国が反発するのは当然である。まさに、中国が「フランケンシュタイン」と化した現実がここにある。

 

共産主義に親近感を持つ側とすれば、「反共」という言葉ほど身震いするものはあるまい。中国共産党が、従来通り約束を守るのであれば、あえて「反共」や「悪魔」なる言葉も登場しなかったはずだ。こういう言葉が登場した背景、それをつくった中国共産党の責任を問うことなく、一方的に米国を論難するのは、学者出身らしからぬ粗雑さを痛感するのである。

 


(4)「ポンペオ長官は演説で、「中国という新しい独裁との戦いで勝たなければならず」、「我々が中国を変えなければ中国は私たちを変えるだろう」と力説した。身の毛がよだつ発言だ。中国共産党を人民と分離し、中国内の反体制人物、香港と台湾の民主化勢力、さらには「民主主義国家の新しい同盟」を結成し、中国共産党政権の交代に積極的に乗り出すという宣言につながる。ゲルブ氏のいう第三の悪魔、傲慢さがうかがえる。中国の政治体制の変革を決められるのは、中国人民だけだ。自ら世界警察の役割を放棄すると言ってきたトランプ政権に、このような主張をする根拠と名分はあるのか。そして(それを実現する)能力はあるのだろうか」

 

中国が、米国覇権を転覆させるべく行なっている点を無視して、一方的に米国を非難する点は公平性に欠ける。米国の技術窃取やスパイ活動は枚挙に暇がないほどだ。研究者の身分に偽装して、米国の研究成果を盗み出すことが非難されないとするならば、この論考はもはや中国擁護べったりのプロパガンダに過ぎないであろう。

 

中国による「一国二制度」の一方的破棄が許されると主張するならば、韓国大統領特別補佐官の地位を潔く去るべきである。米韓は同盟国である。同盟国に対する批判は、公職を去ってから行なうべきである。肩書きの「二刀流」は認められないのだ。