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米中対立の長期化を見越して、日本企業は「脱中国」で国内帰還(リショアリング)に積極的である。生産コスト面で国内生産が遜色ないことも後押ししている。片や、韓国企業の「脱中国」は消極的である。「労働貴族」と言われる戦闘的労組と、週52時間労働制がもたらす賃金コスト増を恐れている結果だ。

 

この日韓企業の象徴的な動きは、それぞれの国内事情を表わしている。日本は、規制撤廃で柔軟な生産構造に転換している。韓国は、文政権になって一層硬直化しており、世界の動きと逆である。これでは、海外へ出た企業の国内帰還は難しいであろう。

 

『韓国経済新聞』(9月10日付)は、「リショアリング補助金競争率11倍、日本企業『中国エクソダス』加速」と題する記事を掲載した。

 

中国の生産工場を自国に移転しようとする日本企業が急増し、政府補助金を得るための競争率が11倍まで急増した。政府がインセンティブを強化しリショアリング(海外に進出した企業を自国に戻るよう誘導)政策を展開しても企業がなかなか呼応しない韓国とは対照的だ。



(1)「9月9日の『日本経済新聞』によると、日本政府が7月末まで生産拠点移転費用の支援対象を公募した結果、1670件・1兆7650億円規模の申請が集まった。これは1600億円の支援予算の11倍に達する。日本政府は新型コロナウイルス流行を契機に中国依存度を低くするため、中国に集中する生産工場を自国に戻すサプライチェーン再編政策を施行している。中国の生産工場の稼動が止まると、日本では深刻なマスクと医療装備の不足が起き、高い中国依存度の問題点が浮上したためだ」

 

日本政府によるリショアリング事業で、支援予算の11倍もの規模の申し込みがあった。日本企業は、米中対立の長期化という国際情勢の変化を的確に見抜いて行動していることが分る。1990年代からの急速な円高で、国内企業は一斉に生産拠点の海外移転を図った。今回は20年ぶりの情勢変化で敏感に動いている。一波が万波を呼ぶで、日本企業のリショアリングは進むであろう。

 

(2)「日本政府は4月に発表した新型コロナウイルス経済対策にサプライチェーン再編政策を盛り込み2200億円の予算を配分した。中国依存度が特に高いマスクと医療用手袋、医薬品生産工場を中心に150億円を限度に移転費用の一部を支援している。上半期に574億円規模で実施した1次公募の時だけでも申請件数は90件、申請金額は996億円で競争率は2倍水準にとどまった。下半期に入り企業のリショアリング需要が急増したのは新型コロナウイルスの長期化と米中対立激化で安定したサプライチェーン確保の重要性が大きくなったためだと同紙は分析した。支援対象に選ばれたある中小企業は、「補助金がなくても国内生産は決めていた」とした」

 

生産コスト面だけで中国へ進出した日本企業は、生産システムの合理化で、日中の差が縮小していることもリショアリングの背中を押している。「メード・イン・ジャパン」の持つ国際的な高い評価も魅力であろう。

 

(3)「日本の雰囲気はサプライチェーン再編政策がこれといった成果を出すことができない韓国とは対照的だ。『フィナンシャル・タイムズ』はこの日、中国とベトナムに生産工場を持つ韓国の中小企業200社のうち韓国に復帰する意向がある企業は8%にすぎないという中小企業中央会の最近の調査結果を引用し、「多くの韓国企業は高い賃金格差と輸出市場へのアクセス性、韓国の労働者保護規制を理由に生産拠点移転に消極的」と指摘した」

 

韓国中小企業で、中国とベトナムに生産工場を持つ200社のうち、韓国へ帰還したい企業は8%しかなかったという。韓国政府は、リショアリングを呼びかけているが、反応はこのようにいたって鈍い。理由は、文政権の高い労働者保護規制である。

 

この高い労働規制が、韓国の若者の失業率を高めるという皮肉な結果をもたらしている。韓国における若年層(15~29歳)の失業率は昨年8.9%で、2009年の8.0%に比べて0.9ポイント上昇している。この期間におけるOECD平均は、14.9%から10.5%へと4.4ポイントも下落していた。韓国の動きは、世界と逆行している。文政権が労組の言うままに動き、最低賃金の大幅引き上げを行った反作用の結果である。最低賃金引き上げも、労働市場の需給実態を見ながら行うべきことを教えている。