テイカカズラ
   

中国は、香港と結んでいた「一国二制度」を自ら破棄した結果、大きなブーメランに直面している。中国は、「一つの中国」によって台湾との断交を強制してきたが、自ら「一国二制度」を破ってしまい、「一つの中国」を金科玉条にできなくなった。

 

この機を捉えて、米台は積極的な交流を始めている。米台FTA(自由貿易協定)締結に向かって、両国が動き出しているのだ。中国は、台湾海峡へ中国機を飛ばして嫌がらせをする程度で、完全に蚊帳の外に置かれている。習近平氏による性急な「香港国家安全維持条約」がもたらした副作用である。ここまで想定できなかったとすれば、習氏の外国戦略は、タガが緩んでいると言わざるを得ない。

 

日本経済新聞 電子版』(9月11日付)は、「台湾、クラーク米国務次官の訪台を調整 経済対話で」と題する記事を掲載した。

 

台湾の外交部(外務省)は9月11日、米国との経済対話のためケース・クラーク米国務次官(経済担当)の台湾訪問を実現させる方向で米政府と調整していると明らかにした。台湾には8月にアザー米厚生長官が訪問したばかり。

 

(1)「台湾メディアは、9月17日から19日に訪問する方向と報じた。8月末、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が米とのFTA締結に向け米国産の牛肉と豚肉の輸入規制を撤廃すると発表した。米国は台湾と「新たな経済対話」の枠組みを設ける方針を表明し、クラーク国務次官が担当となった。台湾は次世代通信規格「5G」や半導体の協力のほか、米とのFTA締結も視野に関係強化を狙う。中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱える中国は、欧米から相次ぐ台湾への高官訪問に苛立ちを募らせている」

 

クラーク米国務次官が、米台FTAの担当責任者になる。9月17日から19日の訪台で、さらに詳細を詰めるのであろう。一方、中国と台湾は、9月12日で関税をなくし、経済一体化をめざした経済協力枠組み協定(ECFA)が、10年目を迎える。台湾は「ECFAは統一工作の道具」と警戒する。台湾は今後、米国と自由貿易協定(FTA)を結び、中国離れを急ぐかまえだ。台湾は、ECFAよりも米台FTAに期待をかけているのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(9月11日付)は、「台湾、中国離れ加速『FTA』10年、米協定に傾斜」と題する記事を掲載した。

 

中台間の経済一体化をめざした経済協力枠組み協定(ECFA)は、実質的な「中台FTA」。2010年、親中派の馬英九前政権下で発効した。当時の馬総統は「台湾が経済的孤立から脱する大きな一歩だ」と訴えた。

 

(2)「最初は中国が関税などで譲歩した。中国側はプラスチック製品など539品目、台湾側は267品目で関税を先行して下げた。台湾の対中輸出全体の16%(138億ドル)、中国の対台輸出の11%(28億ドル)にあたった。これがECFAの最初で最後の「果実」となった。発効当初は将来の協定範囲の拡大が盛り込まれたが、中国が譲らず10年がすぎた。「中国が台湾にまいた餌は最初だけ」といわれるゆえんだ」

 

台湾経済部(経済省)の試算では、ECFA対象品目の中国への輸出額が現在、台湾全体の輸出額(19年は3290億ドル)の5%にも満たない。中国にとっても、台湾が貿易総額全体に占める比重はわずか5%だ。

 


(3)「台湾では、次第に「中国にとってECFAは台湾を取り込む道具」との解釈が広がった。1915年11月、馬氏はシンガポールで習近平(シー・ジンピン)国家主席と1949年分断以来初の首脳会談を実現したが、時はすでに遅かった。2カ月後に総統選に勝利した蔡英文(ツァイ・インウェン)氏は、5月の就任演説で「従来の単一市場に依存しすぎた現象と決別する」とし、脱中国を鮮明にした。ECFAはもはや現状維持でよく、米国とのFTAを最大の公約に上げる」

 

台湾市民は、中国の強権政治に厳しい批判の目を向けている。ECFAの存在を警戒しており、米国とのFTAを歓迎する意向に変わっている。香港問題が、台湾の針路において「脱中国」を鮮明にさせたのだ。

 

(4)「米台FTAが結ばれれば、中国への配慮から台湾とFTA交渉をしなかった国も引き寄せられる。「一つの中国」を主張する中国には打撃だ。すでに脱・中国は進む。19年以降の台湾企業の域内投資は約3兆円。同期間の対中投資の5倍以上で、中国一辺倒から台湾回帰が起きる。半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)は5月、海外初の最新鋭工場を米国に建設すると決めた。投資額は120億ドル(約1兆3000億円)。中国に製造拠点の大半を持つ鴻海(ホンハイ)精密工業も、今年から中国ではなくインドに大型投資をし、iPhone11の量産を始めた」

 

米中対立の最前線に立つ台湾企業は、米中デカップリング(分断)にそって、中国から手を引き台湾本土へ回帰。さらに、米国やインドでの大型投資を展開している。こうした台湾の中国離れの進行は、台湾が明確に米国陣営に入った証拠であろう。中国は、指をくわえて見ているだけだが、いつかは台湾侵攻を画策しよう。

 

それは、中国自滅の危機に繋がるだろう。米国へ、中国に経済制裁させる口実を与えるからだ。米ドル圏からの切り離なされれば、中国は完全にお手上げになる。