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米中対立の長期化という新事態の中で、中国は輸出依存経済から内需経済依存へ転換するという。2021~25年の次期5カ年計画で細目を詰めていく。現在は、2015~20年の5カ年計画を実行中だ。予定通りであれば、「中所得国のワナ」を突破することになっていた。だが、自らが火だねとなった新型コロナウイルスで、内外経済を失速させたので、達成は不可能である。

 

そこで、次期5カ年計画では「中所得国のワナ」脱出をかけ、5%の実質成長率目標達成を掲げるという。「中所得国のワナ」とは、中国が潜在成長率を使い果たして、1人当り名目GDPが停滞して、先進国経済に進めないことだ。中国経済は、その分岐点にある。

 

率直に言って、「中所得国のワナ」脱出は困難であろう。輸出依存度を下げることは、設備投資比率の低下をもたらす。インフラ投資でカバーすると言っても限界に達している。結局、設備投資減を簡単に個人消費増で賄えるものではない。設備投資減が、そのままGDP成長率にブレーキをかけるはずだ。5%の実質成長率持続は不可能と見る。となれば、「中所得国のワナ」からの脱出は実現不可能と見るべきだろう。これが、私の見立てである。

 

『ロイター』(9月13日付)は、「中国、内需シフトの改革に期待、次期5カ年計画の軸に」と題する記事を掲載した。

 

中国改革派の間では、習近平国家主席が提案した新たな経済モデル「双循環」を契機に、内需振興と構造改革が加速するとの期待が高まっている。政策関係者らによると、10月に開かれる中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)では双循環モデルについて討議され、5カ年計画に組み込まれる見通しだ。

 

(1)「9月10日、中国改革派の間では、習近平国家主席が提案した新たな経済モデル「双循環」を契機に、内需振興と構造改革が加速するとの期待が高まっている。習主席が5月に発表した双循環モデルの柱は、国内で生産、分配、消費を循環させる「内需大循環」だ。貿易や資本、投資を対外開放して世界経済との一体化を進める「国際大循環」が、これを補助する形となる。折しも米中間では貿易を巡る緊張感が高まり、両国経済のデカップリング(かい離)が大きなリスクとして浮上している。そうした中、中国のこの構想は、広大な自国市場への依存へと、シフトを切る決意の表れだ、と政策関係者らは言う。政策関係者は「(双循環は)14次5カ年計画の軸になるだろう」と話した」

 

内需主体経済が、次期5カ年計画の柱になるという。口で言う分には簡単だが、実現は極めて難しい。中所得国のワナで挫折して経済はゴマンとある。中国も、まさにこれに該当するだろう。

 

(2)「5カ年計画の詳細は来年の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で公表される予定で、現在はほとんど明らかになっていない。しかしエコノミストやシンクタンクは、さまざまな改革を提案している。政府顧問らは、土地・居住制度の改革を加速し、消費を圧迫してきた貧富の差の拡大に取り組むよう提案している。現在の制度は、高度に都市化した消費主導経済の構築という目標を達成する上で、最大の障害となっているからだ。また、巨大国有企業を改革して根深い経済のゆがみを解消し、民間企業が平等に闘える土俵を築くことも、政府顧問らが提唱するポイントだ。ある顧問は「改革をしっかりと行えなければ、国内大循環は始まらない」と語った」

 

習近平氏は、経済改革派ではない。国有企業中心主義者である。米中対立で形勢不利になっているので、経済改革派に配慮するような素振りを見せているだけだ。習氏が、そこまで物わかりが良くなれば、23年以降も国家主席続投という権力亡者になるまい。彼の本質は、民族主義・統制主義である。

 

(3)「実際、経済の不均衡を是正し、輸出から個人消費に軸足を移すことは、10年前からの政策目標だ。しかしここ数年、安定を重視する政府は安易な方向に流れ、2013年に公表した痛みを伴う改革を先送りしてきた。共産党が社会のあらゆる側面で統制を強めたことで、改革加速に疑問が生じた」

 

このパラグラフが、習氏と彼を取り巻く一派の基本的考え方である。

 

(4)「中国の国内総生産(GDP)に占める輸出と輸入の割合は昨年32%と、ピークだった2006年の64%から縮小した。ここ数年間、経済成長を主導させると位置付けてきた個人消費の割合は、昨年は55.4%と、2010年の49.3%から拡大したが、先進国並みの7080%には遠く及ばない

 

下線部は、間違いである。中国当局は「消費」と称して個人・政府を合計して発表し、あたかも中国の個人消費が「高い」ようにカムフラージュしている。このパラグラフも、このカムフラージュに引っかかっている。実際の「名目GDP民間最終消費支出対GDP比」は、38.68%(国連統計2018年)である。世界順位は、193位だ。中国はメディアでウソ統計を発表しているが、国連統計ではウソがばれている。

 

この40%に満たない個人消費で、どうやって年間GDPを5%に押し上げるのか。絶望的な状況に追い込まれているのだ。

 


(5)「一国の所得水準が中間レベルに達した時点で経済が停滞する「中所得国の罠」に陥るのを避けるには、さらなる改革が必要だとエコノミストは指摘する。最先端技術を備えた国々との競争激化と併せ、より労働コストが低い国々との競争が成長の最大の障害だ。政策関係者らによると、中国が今後5年間で高所得国の仲間入りを果たすには、年率5%の成長を続ける必要がある。しかし新型コロナウイルス危機により、今年の成長率は文化革命を終えた1976年以来の最低に落ち込む可能性が高い」

 

米中対立の長期化において、米国から数々の報復を受けている。この中で、40%未満の個人消費を軸に中国経済が成長軌道に乗れると断言できる人がいるとすれば、それは、マジック(ウソ統計)でしかないであろう。