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自民党新総裁に菅義偉氏が選ばれた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月7日付)は、『イチゴ畑から日本の頂点へ』題して報じている。

 

「71歳の菅氏は、支持層を熱狂させる力強い演説や変革のビジョンやイデオロギーで世襲のライバルを破ったわけではない。自分は表に出ず、敵を作らずに、物事を成し遂げるという評判が菅氏を後押しした」と評している。

 

大向こうを唸らせるような演説は苦手としても、日本経済の骨格を作り替える「通信インフラ革命」に乗出す見通しが強くなってきた。今回のパンデミックで、日本のデジタル面の出遅れを浮き彫りにした。ここを改革すれば、日本経済は若返るという手がかりが掴めたのだ。

 

菅新総裁は、記者会見で日本全国に光ファイバーを張り巡らすと宣言した。官庁予算では300億円であったが、500億円に引上げて離島の隅々まで「デジタル革命」を推進すると公約したのだ。

 


『ロイター』(9月14日付)は、「
菅総裁の新成長戦略、目玉は通信インフラの高度化か」と題する記事を掲載した。

 

(1)「菅義偉氏が自民党の新総裁に選出された。マーケットの注目する経済政策は、アベノミクスの継承を強調しつつ、日本経済の弱点であるデジタル化を加速し、成長戦略の中心に据える可能性が高い。だが、そのために欠かせない通信インフラ、とりわけ基幹網のぜい弱さが、新型コロナウイルスによる働き方の変化で露呈した。すでに政府主導で増強や高度化に向けて動いている節があり、16日に発足する新政権の目玉事業になる可能性がある。

 

通信インフラが、大々的に取り上げられる可能性を指摘している。総裁就任記者会見で、日本列島に光ファイバーを張り巡らすと宣言している。通信革命を起こせば、日本経済は若返る。

 

(2)「9月14日、菅義偉氏が自民党の新総裁に選出された。マーケットの注目する経済政策は、アベノミクスの継承を強調しつつ、日本経済の弱点であるデジタル化を加速し、成長戦略の中心に据える可能性が高い。菅氏は総裁選の期間中、電子行政を一元化する「デジタル庁」構想を提案した。持論の縦割り行政打破を政策の軸にして、各省庁の既得権益をいったん白紙化し、電子行政の権限をデジタル庁に全て移行。首相官邸による省庁への「グリップ」を強化しようという狙いが見えていた。マイナンバーカードの全国民への普及は、この政策の一環と言える」

 

管氏は、「デジタル庁」を創設して官庁の横割り組織の弊害を是正したいと言っている。これが実現すれば、あらゆることがわざわざ出向かなくても、自宅で処理できることになり、生産性が大幅に引き上げられる。日本経済は、製造業の生産性は世界的でも、非製造業の生産性が低い。1人当りの名目GDPは横ばいだ。

 

(3)「ところが、デジタル化の足元を制約している問題がある。情報量の増大に耐えうる基幹通信回線の容量だ。コロナ禍の下で、オフィスに通っていたサラリーマンが自宅でテレワークを開始。大学生の家族がモバイル授業に移行したところ、同時に作業しようとすると、画面がフリーズするケースが多発している。オンライン会議に同時に多数が参加すると、画面が動かなくなる経験をした人も少なくないはずだ。米国に比べて動画を使ったスポーツジムの展開が日本で遅れている要因の1つに、動画が途中でフリーズするトラブルが多発する問題があるとされる」

 

今回のパンデミックで、デジタル革命の遅れが露呈した。日本の弱点が明らかになった以上、ここに手をつければ前進が可能である。

 

(4)「情報社会の基幹になっている回線を増強するには、どうしたらよいのか。通信会社が独自に設備投資することも考えられるが、投資回収リスクを軽減するため、設備投資期間の長期化が予想され、短期間での設備更新は難しい。そこで今、菅氏の周辺などで水面下で検討中とみられるのが、通信インフラの大整備計画だ。昭和40年代以降の高度経済成長は、高速自動車道などの道路網の整備が進ちょくして可能になった。今後のデジタル化社会で不可欠なインフラは、高度で大容量の通信インフラであり、その整備に国費を投入し、潜在成長率の引き上げの原動力にしようという構想である」

 

このデジタル革命が始まれば、日本経済の構造は大幅に若返る。通信インフラと整備すれば、「三蜜解消」と産業の地方分散が期せずして進む。菅内閣は、日本の将来に大きな布石を打つことになる。田中内閣は、新幹線と高速道路のインフラ整備に力を入れた。菅内閣は通信インフラの大整備である。

 


(5)「大容量の通信インフラを全国に整備できれば、今回のコロナ禍で表面化しようとしている社会構造の変動をプラス面に生かすことが可能になる。

1つ目は、在宅勤務の先にある田園都市への移住と勤務の両立だ。地価が安いので都心部より広い住居面積を確保でき、自然環境も優れているだろう。明治維新から150年あまり、東京への集中を続けてきた日本の社会が、地方へのシフトを始めるきっかけになりそうな転機が訪れようとしている」

 

在宅勤務の先にある田園都市への移住と勤務の両立が可能になる。これを先取りして、東京駅前にある本社を淡路島に移した例もある。社長が、淡路島に常駐しているのだ。

 

(6)「2つ目は、IT技術を駆使した農業の展開が一段と加速できる点だ。今でも無人化による稲作が実験的に行われているが、今後は付加価値の高い園芸作物などでAI(人工知能)を駆使した取り組みが可能になるのではないか。養殖などの水産業でも、同じような展開が期待される」

 

農業や水産業が、AIを活用して無人化でも生産できる可能性が開かれる。日本で、東南アジアの農業を指導している例も見られるのだ。

 


(7)「3つ目は、コロナの感染被害を抑制するために始まった大学のリモート授業をさらに高度化させ、少人数のゼミ式と同じ効果の出る新しい教育パターンの開発だ。日本の大学が克服できない「マスプロ」化した授業からの脱却が、通信インフラの高度化で可能になる。このように通信インフラの高度化は、その先に国民ひとりひとりの所得引き上げを可能にする新しい「果実」をもたらすことができる」

 

大学のマスプロ化の解消によって、少人数授業が可能になるという。ただ、大学4年間は、人間性をつくる時代でもあるから、すべてがリモート授業という訳にはいかない。ただ、社会人教育には、うってつけのシステムとなろう。

 

(8)「米国では1990年代、当時のゴア副大統領が全国に高速・大容量通信網を張り巡らす『情報スーパーハイウェイ構想』を進めた。それが、米国をデジタル社会に移行させるのを支えた」

 

米国の例もある。日本が「デジタル革命」に着手すれば、潜在的成長力を取り戻せる、またとない機会になろう。菅内閣は、「大化け」の可能性を秘めている。