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今回の新型コロナウイルスの発症は、これまで世界中に張り巡らしていた中国共産党統一戦線の機動力が、いかに大きいかを浮き彫りにした。北京からの指示で、世界中の華僑が一糸乱れぬ動きをして、マスクなど個人保護具(PPE)を買い集めたのだ。名古屋では、3日間でマスク52万枚を買い集めたという。

 

世界中に散らばっている華僑にして見れば、「母国の災難」で団結して行動したのであろう。だが、米中の「熱い戦争」に発展した場合、この華僑組織は攪乱工作をしないという保証がないことだ。これまで問題にされなかった華僑組織の持つ意外な側面に、各国が警戒観を持ち始めた。

 

世界中の華僑組織を動かしたのは、中国共産党中央統一戦線工作部である。中国共産党中央委員会に直属し、中国共産党と党外各衛星政党との連携を担当する機構である。民族、宗教についての業務、特にダライ・ラマに協力する国内外のチベット解放活動に対する工作や、海外における祖国統一工作、非共産党員の幹部養成も職務に含まれている。要するに「宣撫工作」(スパイ活動)である。「孔子学院」の所管もここだ。

 

現在、全世界に華僑(国籍は中国)・華人(国籍は他国)が6000万人以上いるとされる。その資産規模も2兆5000億ドル(約280兆円)以上と推定されている。動員力と資金力を持つ一大勢力である。こういう組織が、世界の市民の中に存在する。先進国は、この実態を偶然ながら認識することになった。足元にまで共産党の「隠れ指揮所」が迫っていることに愕然としているのだろう。

 


『ブルームバーグ』(9月18日付)は、「
世界中に住む中国人動員しマスク購入、共産党統一戦線に各国で警戒感」と題する記事を掲載した。

 

中国での新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めるため湖北省武漢市が1月にロックダウン(都市封鎖) されると、世界5大陸、数十カ国に散らばる中国人組織がマスクなどの個人保護具(PPE)を購入し始めた。共産党中央統一戦線工作部が指揮した前例のない組織動員の始まりだった。大規模な公衆衛生危機に見舞われた中国にPPEを送るためだ。

 

(1)「中国国営の新華社通信によれば、名古屋では3日間でボランティアがマスク52万枚を薬局で買い上げた。1月26日までにはカナダのトロントにある中国商業会議所のトップが北京から戻り会員に協力を求め、100人近くがPEEを買い込むため、凍った道路を運転してトロントに向かったという。ケニアとイタリアのミラノからの航空機には中国向けPPEが詰まった箱やスーツケースが大量に積み込まれていた。アルゼンチンにある中国在外団体は、要請を受けて1週間以内に約2万5000枚のマスクを送った」

 

凄い機動力である。新型コロナウイルスという緊急事態の発生で、マスクなどの買いだめに立ち上がった。これが、「ゲリラ活動」をやれという指令が出たならばどうするか。普通の市民が突然、武器を持って現れるという最悪事態も考えられるのだ。謀略国家・中国ならではのゲリラ戦術を警戒する時代になってきた。

 


(2)「武漢ロックダウン前夜の1月22日、電子商取引の巨大企業アリババグループは同社のマスク在庫は4610万枚だとソーシャルメディアに投稿。北京と上海の全住民が1枚ずつ買える数にすぎなかった。しかし中国政府の統計によれば、2月末までにはマスク20億枚を含む25億品、82億元(約1300億円)相当が統一戦線主導のキャンペーンにより送り込まれていた。中国のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」の助けを借りて連係されたキャンペーンの規模とスピード、効果は一般的な災害救援活動を超えていた」

 

世界中の華僑組織から2月末までの約1ヶ月で、マスクは20億枚、現金は約1300億億円が集ったという。大変は「集金能力」があることを示している。日本でも華僑は経済的に成功している人たちが多い。

 

(3)「1月後半、統一戦線に関係する中華全国帰国華僑聯合会を通じて出された支援の呼び掛けはニューヨークやロサンゼルス、メルボルンなど各地の中国総領事館のウェブサイトに掲載された。大半のPPEは2月半ばまでに送り込まれた。数千の組織とソーシャルメディアグループを動員できることを示す統一戦線の功績だった。米下院情報特別委員会での昨年の証言によれば、動員可能な団体は米国だけでも250を超える」

 

中国と聞けば、過剰反応しがちな米国としては、改めて統一戦線組織の存在に気配りせざるを得なくなった。

 


(4)「統一戦線が単なる人道的組織でないことから、米議会は監視を強めている。 今年6月には共和党議員148人が「悪意的な感化キャンペーン」を理由に統一戦線の幹部に対する制裁を求めた。2018年に統一戦線についての報告書を発表した米議会の超党派諮問機関、米中経済・安全保障審査委員会(USCC)のロビン・クリーブランド委員長は、「国外からPPEを集めるための中国政府による在外中国人ネットワークの利用は、統一戦線を先陣とした経済・政治・安全保障キャンペーン統合の驚くべき例だ」と指摘した」

 

思いもよらないところに、北京の指令で一斉に動き出す華僑組織の存在に気付かされた。今後の、米中対立激化の中で、この華僑組織は微妙な立場に立たされるだろう。

 

(5)「中国共産党の影響力に関する共著のある米ジャーマン・マーシャル財団のマレイケ・オールバーグ上級研究員(ベルリン在勤)は、統一戦線の能力に対する各国政府の警戒が強まっていると分析。「極めて大きな組織的潜在力があり、弱い国民が不利になるように、あるいはあなたの利益に反する形で、使われる可能性がある」と指摘し、「すでにこれに気付き始めている政府もある。各国政府はもっと賢くなる必要がある」と述べた」

 

日本の華僑組織では、中国系と台湾系に分かれている。こうなると、互いの存在が目障りになって、紛争を起こす事態も予想されよう。治安当局にとっては、頭の痛い問題が起こってきた。