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半導体の発展途上国・中国は、米国に100%振り回される構図がさらに強まってきた。米半導体大手エヌビディアは、ソフトバンクグループから英半導体設計大手アームを400億ドル(約4兆2000億円)で買収する計画を進めている。中国のチップ業界は、買収が成立すれば、ほぼすべての携帯電話のチップに使用されている主要技術が米国の手に渡ると危機感を募らせ、中国政府に調査を求めた。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(9月17日付)は、「エヌビディアのアーム買収に頭を抱える中国」と題する記事を掲載した。

 

北京半導体行業協会の朱晶副会長は、エネルギー効率に優れたアームのチップの設計図は中国で設計されるチップの95%に使用されていると指摘し、同社の所有権を米国企業に渡すわけにはいかないと述べた。

 

(1)「朱氏は中国の政府系メディアの澎湃新聞の取材に対し、「中国通信機器の最大手である華為技術(ファーウェイ)が米国でどんな目に遭ったか、考えてみるといい。アームが米国企業に買収されたら、誰も安閑としてはいられないだろう」と語った。別の政府系メディアである『環球時報』も9月16日、中国政府に介入を促し、社説で「アームが政治的な駆け引きの道具と化し、米国政府が同社を中国のテック企業に対する武器として利用する可能性を真剣に考慮しなければならない」と警鐘を鳴らした」

 

中国は、ファーウェイが米国の「半導体報復」で、その死命を制されている。今回のアーム社が米国のエヌビディアに買収されれば、その二の舞いになると警戒している。

 

(2)「アームは中国国内において、様々な方面とのつながりを持つプライベート・エクイティ・ファンドである厚樸投資(HOPU)との合弁事業を設立しており、そのため中国の独占禁止法執行機関には、エヌビディアによる買収計画を審査する権利がある。加えて、中国の規制当局は、独禁法に基づき、企業の合併・買収が国の発展に及ぼす影響を調査することを明示的に義務づけられている。独禁法を専門とする弁護士によれば、この買収について中国政府から承認を得るのは至難の業だ。匿名を希望する香港の弁護士はこう語る。「中国では、この話題が国全体を巻き込んだ一大論争を巻き起こしつつある。今この状況でハイテク・セクターの買収取引を遂行しようとするなら、並大抵でない覚悟が必要だ」

 

独禁法専門の弁護士によれば、今回の買収は中国政府から承認を得られないと見ている。中国への影響が、極めて大きいからだ。

 

(3)「一方、エヌビディアも強力な武器を持っている。アームの設計図とエヌビディアのグラフィックプロセッサの両方に大きく依存している中国市場から撤退するという選択肢だ。しかし中国のある弁護士は、世界有数の市場である中国への再進出が困難になるため、この選択肢は高いリスクを伴う最後の手段だと指摘する。「両陣営とも、相手にどこまで譲歩を迫れるかを探り合っている状況だ」。スイスの金融大手クレディ・スイスのアナリストは、この取引は「とりわけ中国の規制当局から待ったがかかる可能性が高い」と指摘するが、米運用会社アーク・インベスト・マネジメントのジェームズ・ワン氏は、成功の確率を「五分五分」と見る」

 

エヌビディアも対抗手段を持っているという。中国政府が合併を承認しなければ、中国から撤退するという切り札を使うと見ている。

 


(4)「エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は、同社は中国の規制当局と時間をかけて話し合う考えであり、4月にイスラエルの半導体設計メラノックス・テクノロジーズを買収した時のように承認がおりるという「掛け値なしの自信を持っている」と述べた。アームの知的財産は英国のケンブリッジで30年以上かけて創出・開発されたものであり、本社は引き続き英国にとどまるとファン氏は語る。「技術の源泉国は変わらないため、アームが日本企業の傘下から米国企業の傘下に移っても輸出管理に一切影響はない」。

 

エヌビディアの最高経営責任者(CEO)は、中国当局から合併承認が得られるように時間をかけて話合い、承認が下りると自信を見せている。

 

(5)「大手法律事務所ステップトゥ・アンド・ジョンソンの所属弁護士で、輸出管理を専門に手がけるウェンディ・ワイソン氏は、アームの社員、資金、技術に占める米国の比率が高まるにつれ、いずれ同社にも米国の制裁規則が適用されるだろうと予測する。米国の親会社は、アームのチップの設計図に取り入れる技術やソフトウェアについて干渉し、同社に対する支配を強め、リスク削減のために中国への販売を停止すると宣言する可能性もある」とワイソン氏は指摘する」

 

アームは、いずれはエヌビディアの支配が強まり、「米国企業」になるとの予想もされている。ただ英国側が、アームはあくまでも英国企業であるという自負心が強く、エヌビディアとの交渉は英国が壁になる可能性もあろう。ソフトバンクの孫社長は、アームを買収する際、英国首相と会談して了解をとるという裏工作をしたほどだ。アームは、英国人の誇りである。単なる資本の論理で割り切らない面がある。エヌビディアは、その点をどこまで理解しているかだ。