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韓国で進歩派を名乗るメディアほど、国際情勢の動きを読めず旧態依然の感覚に囚われている。朝鮮李朝末期と同じ轍を踏んでいるようだ。思い込みが激しく、そこから抜け出せない病に取り憑かれている結果だ。米中対立を経済のカルテル化と見ているためでもあろう。米中デカップリングは、米中がそれぞれ経済圏を分断してグローバル経済を回避して利益を上げるという「珍説」を信じているのだ。

 

経済の効率性を考えれば、世界に壁をつくらずに自由に貿易をすることが最善である。現実は、それが安全保障面で危険であるという認識に変わりつつある。中国による世界秩序をひっくり返して、中国主導に塗り替えようという野望が明らかになってきたのである。米国と同盟国が、これを防ぐべく立ち上がったのが現在だ。経済のカルテル化という低レベルの認識ではない。安全保障に関わる重大事態である。

 


『ハンギョレ新聞』(9月25日付)は、「『アジア版NATO』と安倍前首相の大きな影」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ミンヒ論説委員である。

 

4カ国の安保対話を意味する「Quad(クアッド)」は、2007年に当時の安倍晋三首相の主導で始まった。米国、日本、オーストラリア、インドが手を握り、中国に対応するための非公式安保フォーラムだ。安倍首相は「自由と繁栄の弧」という概念を掲げ、米日印豪の4カ国が中心となって中国を包囲しようという構図を描いた。

 

(1)「2017年に就任したドナルド・トランプ米大統領と安倍首相が意気投合したことで、忘れられていたQuadはよみがえった。米中対立が激化したことで、最近この構想は、米日印豪4カ国が核となり、それ以外の国を下位パートナーとして引き入れて中国に対抗する多国間安保機構へと拡大しようという「Quadプラス」へと発展している。冷戦時代にNATO(北大西洋条約機構)がソ連に軍事的に対抗したことを連想させる「アジア版NATO」構想である」

 

ここでは、NATOを米ソ冷戦時代の「遺物」扱いしているが、現在も立派に機能している。ロシアの軍事強国化に備えて加盟国は現在、30ヶ国に拡大されているのだ。共同防衛は、単独防衛に比べて少ない防衛費で強大な防衛力を保持できるメリットがある。アジアで中国の海洋進出に備えて「アジア版NATO」を結成しようという狙いもそこにある。

 

ドイツの哲学者カントは、民主主義国家は同盟国として結束すれば、専制主義国家からの侵略に勝てる、と指摘している。共同防衛は、コスト・パフォーマンスから見てメリットが大きいのだ。

 

(2)「米国は、ここに韓国が参加すべきとの信号を送り続けている。最近、スティーブン・ビーガン米国務副長官とマーク・エスパー国防長官が相次いで、インド太平洋地域にNATOのような多国間安保機構が必要だと述べ、Quad4カ国に加え、韓国、ニュージーランド、ベトナムなどに言及している。10月初めに訪韓するマイク・ポンペオ米国務長官も韓国に対して、中国牽制に積極的に賛同することを求めると見られる」

 

米国は、NATO結成の原動力になった。アジア版NATOをつくろうとする動機も同じである。たまたま、安倍首相が中国の膨張主義に対して最初の警告者となり、トランプ大統領が賛同者になったということに過ぎない。「アジア版NATO」構想は、口幅ったいことで申し分けないが、本欄も早くから提唱してきた。将来、NATOとアジア版NATOが連携すれば、世界の安全保障は万全になる。こういう主張もしてきたのである。安全保障は、国家成立の基盤である。ここを抜きにした「国家観」は成り立たないはずだ。

 

(3)「Quadには日本のアジア戦略が込められている。日本の右翼勢力は、日米同盟を強化しつつ韓国や台湾などを下位パートナーとして引き入れ、平和憲法の修正、自衛隊の軍備強化と活動範囲の拡大などを通じて軍事力を強化しようとしている。これには、中国を抑えて日本がアジアの主導権を握るという意図とともに、米国がアジアから撤退する時に備えなければとの不安も作用している。安倍前首相は、南北和解を推進する韓国の朝鮮半島平和プロセスをQuad戦略の障害と考えて執拗に妨害し、退任後も「アジア版NATO」のかたちで韓国外交に大きな影を落としている」

 

このパラグラフは、ジャーナリストの筆になると思えないほど稚拙である。日本が、Quad4ヶ国を利用してアジアの主導権を握る構想など考えられないのだ。平和憲法の制約と国民感情が許すはずがない。戦前の「大東亜共栄圏」再現は、構想力の貧弱さを示している。豪州・印度も、それを唯々諾々として認めるはずがない。「大東亜共栄圏」の被害国であるからだ。

 

米国は、中国の世界戦略を阻止すべく日本の「インド太平洋戦略」に乗ってきた。米中デカップリングを真剣に進めている中で将来、Quadから撤退するはずがない。現実に、NATOを率いている国であるからだ。こういう国際情勢の変化を織りこめば、韓国進歩派ジャーナリズムの限界を露呈している。

 


(4)「韓国が米日の圧力に押されて「Quadプラス」に参加すれば、まず中国との経済関係に大きな打撃を受けるとともに、韓国は米日が主導する対中国戦略の下位パートナーとして従属し、朝鮮半島平和プロセスは破綻に至り、南北の対峙構造が固定化するだろう。東アジアは長いあいだ軍事的緊張の波の上で揺れ動くだろうが、米国が実際にアジアから撤退すれば、日本は中国と「大国間妥協」に乗り出すだろうし、韓国が損失を被ることになる懸念が大きい」

 

米中対立の長期化は、南北統一にも水を差すに違いない。中国が、北朝鮮を手放すはずがないからだ。中国の同盟国は、パキスタンと北朝鮮だけである。こういう点を考えれば、南北問題は気の毒だが解決しないと見るほかない。

 

38度線は、緊張をはらむと見られる。韓国が、「Quadプラス」に参加することは、NATO加盟国が30ヶ国にも拡大されたことと同じで、韓国の安全保障に寄与するはず。日本は、Quadの主唱国であるが、中国との貿易関係になんらの支障もない。中国は、技術格差の存在から貿易面で韓国を重視するはずだ。韓国は、こういう合理的な思考をしないで、思い込みで「中国恐怖論」を唱えているのである。

 


(5)「米中「新冷戦」の結末を断言することはできないが、両大国の正面衝突や完全な決別ではなく、長期間の競争と対立となる可能性が高い。韓国外国語大学国際地域研究センターのパク・ホンソ教授は、著書『米中カルテル』の中で、米中の対立を資本主義の国際秩序の中での一種のカルテル関係と診断している

 

このパラグラフに至っては、「大甘」と言うほかない。下線部分は、大きな誤りである。中国を資本主義国家と規定しているが、現実は専制主義国家=共産主義国家である。だから、中国は世界秩序の変革を企んでいる。中国が資本主義国家とすれば、南シナ海の9割を中国領海と主張したり、東シナ海の尖閣諸島の領海侵犯を繰返すはずがない。西側と同じ資本主義という価値観であれば、侵略行為を行うはずがないのだ。