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中国には、経済の超強気を語る二人の「名物教授」がいる。一人は北京大教授だった林毅夫氏。もう一人が、きょう取り上げる精華大の胡鞍鋼教授である。このご両人は、根拠もなく超強気の経済予測をして世間を騒がせてきたのだ。当欄の「カモ」であった。

 

林氏は、数年前「中国は今後20年間10%成長が可能」とした。その後、情勢悪化で「20年間8%成長可能」と訂正した。インフラ投資依存が条件である。精華大の胡鞍鋼教授は、「今後15年間5%成長が可能」と言い出した。不動産バブル崩壊と過剰債務を抱える中で

5%成長が可能とは驚くほかない。

 

国際金融協会(IIF)は7月、中国の債務残高の対国内総生産(GDP)比は、第1・四半期の318%近くから335%に達するとの見通しを示した。GDPの3.35倍の債務残高を抱えている。バブル崩壊の中で、債務は増えるばかりだ。日本経済の2000年代に相当する金融危機が起こっている。胡鞍鋼教授の超楽観論を受入れる余地はない。

 

胡氏はこの調子だから、中国でいたって評判が悪いのだ。法螺吹き予測を続けてきたため、精華大学の同窓生が立ち上がり、大学の恥だから卒業生名簿から除籍せよという署名が集まったというもの。同じ精華大卒業生である習近平氏が、中に入って「胡鞍鋼除籍」署名を丸く収めたというのである。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月20日付)は、「中国経済、15年間5%成長 胡鞍鋼清華大教授」と題する記事を掲載した。

 

(1)「清華大学の胡鞍鋼教授は日本経済新聞の取材で、26~29日に開く重要会議で2035年までの長期目標を決めることを念頭に、35年までの中国の経済成長率について「5%前後を維持するだろう」との見方を示した。特許の国際出願件数が急増するなど技術力の底上げが進むことを理由に挙げた

 

今後15年間、5%前後の成長を続けられるという見通しは本当だろうか。特許の国際出願件数が急増していることを理由に挙げたが、中国の特許内容は極めて俗悪とされている。特許申請すれば補助金が支給される。この補助金目当てなのだ。特許の更新申請も少なく、特許が実用に供されているのか疑問視されている。

 

(2)「中国共産党は26~29日に第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)を開き、35年までの長期目標を議論する。21~25年の「第14次5カ年計画」も話しあう。胡氏は習近平(シー・ジンピン)指導部の助言者の一人として知られる。胡氏は中国の中期的な成長率について「国内の巨大市場を活用すれば中国経済がさらに発展する余地が生まれる」と語った。中国国務院(政府)が今夏に公表した予測では29年の実質成長率は4.%だった。予測の根拠として「中国のハイテク技術は迅速に発展しており、世界最大のハイテク製品の輸出国となった」と主張した。「2007~18年に中国のハイテク製品の輸出は平均年7.1%で増加した」と試算した」

 

このパラグラフには、米中デカップリング問題が排除されている。日本企業も、サプライチェーンをASEANへ分散させる方針を菅首相が、ベトナムで発表済みである。先進国企業は一斉にサプライチェーンのシフトに動き出すのだ。

 


中国は、これまでインフラ投資依存経済で、生産性が極端に低下している事実が確認されている。ハイテク依存経済であったならば、生産性低下に見舞われるはずがないのだ。輸出依存経済から内需依存経済へシフトすれば、設備投資は抑制される。ハイテク依存経済は、掛け声だけで終わるはずだ。こういう因果関係を無視した議論である。

 

(3)「5カ年計画では向こう5年間の成長率目標が注目される。前回の第13次5カ年計画では策定時(15年11月)に16~20年の成長率目標を公表したが、胡氏は「5年間の成長率目標をいま示すのは早すぎる」と述べた。「中国は新型コロナウイルスの経済への影響を制御できているが、世界では不確定要素が残っている」と理由を説明した。胡氏は「21年3月に開く全国人民代表大会(全人代)で確定すればよい」と話した。全人代では毎年の成長率目標を公表するが、それに併せて5カ年計画の目標も示せばよいとの考えのようだ」

 

胡氏は、下線部のように「5年間の成長率目標をいま示すのは早すぎる」と言っている。米大統領選の結果を待っているようだが、どちらの候補者が当選しても対中政策の厳しさは変わらないのだ。胡氏は「15年間5%成長可能」としているが、米中関係悪化と生産年齢人口比率の低下で、潜在成長率は下降するはず。中国で、それをカバーできる生産性上昇は、先ずあり得ないこと。米国ですら不可能である。

 

(4)「5カ年計画を巡っては、習指導部が提唱した経済政策「2つの循環」をどう書き込むかも注目される。国内需要を中核にしつつ、貿易や外国からの投資も利用して成長をめざす、との内容だ。米国など西側諸国との摩擦が高まり、これまで以上に外需に頼れなくなる、との認識が背景にある。「実態は鎖国に近い」「改革開放が名実ともに終わる」との批判もくすぶるが、胡氏は「中国経済を閉ざす意味ではなく、国内外の循環を協調して発展させる内容にすべきだ」と説明した。「中国内部の循環を組み替えるだけでなく、中国と海外の循環の強みを刷新する」とも述べた。中国の友好国や日本など一部先進国を中国のサプライチェーン(供給網)に組みこむことが念頭にあるとみられる

 

下線部では、中国のサプライチェーンに日本と韓国を含めていると指摘している。日本は、すでにASEANへのサプライチェーン分散を表明している。中国公船が、尖閣諸島周辺海域で日本領海を侵犯するなかで、中国へ協力する必要があるはずがない。日本は、すでに「インド太平洋戦略」の要として「クワッド」結成の中核になっている。中国へ協力することは「利敵行為」になるのだ。こういう国際情勢の急変を理解しない胡鞍鋼教授では、とても習氏のブレーンが勤まるまい。すぐに、辞任するべきだろう。