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中国が、途上国を相手にワクチン外交を進めている。まだ、最終臨床試験を経ていないうちから、輸出契約を結ぶという急ぎぶりである。当然、リスクを含む。それ以上に、米国を出し抜いて「世界初」に拘っている結果だ。

 

ブラジルのボルソナロ大統領は10月21日、中国製の新型コロナウイルスのワクチン購入を許可しない考えを示した。ブラジルではサンパウロ州が中国企業からワクチンの提供を受けるとしており、ブラジル政府として20日に承認したばかりだった。対応が二転三転し、ワクチンが政争の具となりつつある。ボルソナロ氏は中国製ワクチンについて、フェイスブックに「科学的な証明が必要だ」と書き込み、「ブラジル人は(実験用の)モルモットにならない」とも投稿。治験を終了していない中国製ワクチンについて、政府予算を使っての購入は認められないと主張した。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(10月21日付)は、「中国、リスク承知で挑む『ワクチン外交』」と題する記事を掲載した。

 

中国が、自国で開発中の新型コロナウイルスのワクチンをアジア、アフリカ、南米などの国々に優先的に提供する「ワクチン外交」を展開している。他国へのワクチン提供に消極的な米国の隙を突き、各国との関係強化を図る狙いだ。ワクチン外交を主導するのは王毅(ワン・イー)外相だ。マレーシア、タイ、カンボジア、ラオスの東南アジア諸国などに中国製ワクチンを「優先的に」提供すると約束した。

 


(1)「臨床試験の最終段階である「フェーズ3(第3相)」にあるワクチンを4種類有する中国は、世界的なワクチン供給国を目指している。正式な承認に至る直前のフェーズ3では、ワクチンの安全性と効果を確かめるための、大規模で厳密な治験が実施される。ジョンソン・エンド・ジョンソンやモデルナなど米国の製薬会社が開発中のワクチンも治験の最終段階だが、米政府は海外への提供支援は消極的だ。2国間の合意に基づくワクチン提供で、米国は東南アジアにおいては、中国との競争を放棄してしまった」と、英シンクタンク国際戦略研究所(IISS)のアーロン・コネリー東南アジア担当研究員は言う」

 

米国が、他国へのワクチン供給に消極的であるのに対して、中国は真逆の戦術である。発展途上国へ積極に売り込む姿勢だ。最終臨床試験を経ない段階での売り込みは、リスクを伴う。先進国企業にはできない真似だ。

 

(2)「先週、4日間にわたって東南アジア諸国を歴訪した王外相は、東南アジアにワクチンを配布する準備ができている姿勢を示した。米トランプ政権が「アメリカ・ファースト」政策をとるなか、同地域で優位な立場に立とうする中国政府の戦略の一環だ。王外相は、インドネシアの政府関係者と会談し、中国製薬企業の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)とインドネシア国営企業のビオファルマが8月に合意した協定を再確認した。協定では、シノバックが、フェーズ3の治験段階にあるワクチン候補「コロナバック」を、少なくとも4千万回分、2021年3月までに提供することになっている。11月には供給を開始する予定だ

 

中国は最終臨床試験を経ないで、11月からインドネシアへ供給するという。売る方も買う方も、最終臨床試験を経ないワクチンを売買する。リスクは売り方・買い方、どちらが取る約束か。先進国レベルでは不可能な契約である。

 


(3)「インドネシアの新型コロナウイルスの累積感染者数は35万人超で、東南アジアでは最多となっている。インドネシアが中国製ワクチンに過度に依存することになれば、同国に対する中国の影響力はかなり大きなものになるだろう。しかし、ワクチンの免疫反応が弱く、インドネシアがさらに待たされるという可能性もある」とコーネル氏」

 

未完成コロナワクチンの供給は、リスクを伴うことはいうまでもない。犠牲者が出れば、その責任はすべて中国にはねっ返るからだ。その時の、準備はできているのか。

 

(4)「中国は、「マスク外交」で手痛い失敗を喫した。「ワクチン外交」は必ず成功させるという決意で臨んでいる、と米シンクタンク外交問題評議会(CFR)のファン・ヤンツォン氏は語る。コロナウイルスの感染が世界的に拡大し始めた頃、中国はマスクや防護具などを海外に提供して中国の魅力向上につなげようとした。しかし、欧州数カ国で、中国製のマスクなどの製品が品質水準を満たしていないとして受け取りを拒否され失敗に終わった。しかし、中国は、「世界的なワクチン開発競争では影響力を拡大し、最終的な勝者になる可能性が高い」とファン氏は言う」

 

マスク外交の失敗とワクチン外交の失敗では、その質が異なる。ワクチンでは失敗の場合、人命の損傷が起こるのだ。人権重視の西側諸国には、真似のできない荒業だ。成功したとしても、決してほめられることではない。